涙の理由







「何があった!!?」

電話越しのその声が乱暴なだけでなく、心配そうな響きを帯びていることに
三橋は気付いてしまって、慌てた。  慌て過ぎた。

「あ、 え、 だいじょ」
「泣いてんじゃねーかよ!?」
「え、 これ、 は、 だ」
「食い過ぎて腹が痛いとか?」
「ち、ち、が」
「じゃあナンだ?!」

阿部のせっかちは今に始まったことではないけど、
それでも三橋のせいで随分緩和されたはずだ。
にも拘わらず、今は畳み掛けるように忙しない問いを連発して
ゆっくり答える余裕をくれないのは、電話越しというもどかしい状況のせいか、
あるいはそれだけ三橋の声がひどかったからか。

もちろん三橋にそれを理解する余裕があるはずもなく、
とにかく説明を  と焦りはするものの、
気恥ずかしさも手伝って、ちゃんとした日本語になってくれない。

「あ、 さっ・・・・・・・・きま、 で、 あの」
「何があったんだ?!」
「な、 なに、  も」
「なワケあるかよ!!!」
「だ、  だ、か」
「ヤなことでもあったか?」
「え、 な、 な、 くて」
「本当かよ?!」
「だ、か、  あ、 あの、 て、て、て、 」
「もういい」
「へ?」
「行く」
「へ?」
「今から行くから!」
「えっ!!!!」
「そこを動くなよ!!!!」

動くなも何も自分は自宅の居間にいるのだ。
と、ぼんやりと考えている間にもう手の中の機械は、ツーという無機質な音を発していた。

三橋は呆然とした。

携帯が鳴ってるのに気付いた時に、相手を確認しないで慌てて出てしまったのは
それだけ意識が別の方向に向いていて、音に気付くのが遅れたからだ。
自分の状態を顧みないで出てしまったせいで、その声は必然的に思い切り涙声になった。
なぜなら、その時三橋はすごい勢いで泣いていたのだ。


かわいそうなアニメを見ながら。


もうすぐ阿部が来る。
息を切らして、怒ったような顔で、でもきっと心配そうな目をして現れる。

三橋は途方に暮れた。

アニメを見て泣いてました。

正直にそう告げた時の阿部の顔がありありと浮かんで、身が竦んだ。
真実を言うか、それとも何か適当に嘘をつくか。
でも嘘をついてもバレるんじゃないだろうか。
上手く言う自信もなければ、それ以前に上手い内容も思いつかない。

三橋は頭を抱えた。

そしてぐるぐると悩みながら、

(・・・・でも もうすぐ阿部くんに、 会えるんだ、な) 

と改めて思った。  思ったら。

ついさっきまで盛大に涙を零していた顔は 本人も無意識のうちに

ふにゃりと、 だらしなく緩んだのであった。











                                               了 (NEXT

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                                       こちらの話は付けた後で、 「2人の役割が逆もありだな」 と思って遊びのノリで書いてみました。
                                                                 拍手には両方付けて、SSページに上げる時はどちらか捨てるつもりでしたが、
                                                                 「両方捨てないで」 という有難いお声を複数いただきましたので、上げてみます。
                                                                 2人を入れ替えただけの同じ話は こちら