運勢最悪 (前編)





朝のTVで 「今日の運勢」 というのをやっていた。
何気なく聞いていたらおうし座の運勢が一番悪かった。 でも。
今日はとてもいい日なのに。
だから今日の運勢はオレに関してはハズレ、だよ。




今日は休日でしかも部活がない。   練習できないのはつまらないけど。
でも、阿部くんがうちに来る。 勉強を教えてくれるために。
お父さんはいないけどお母さんはいるから、本当に勉強だけ。  の予定だけど。
きっとキス、くらいならできる、よね。

そう思ったら自然と顔が綻んでしまった。
最近2人きりになれる機会がほとんどなかったから久し振り。
だから楽しみにしていたんだ。

それだけでも充分嬉しかったのにさらにおまけに、
急な仕事が入ったとかで予定外にお母さんが出かけることになった。
やっぱり今日は運がいい。

「廉、ごめんねぇ」
「え、いいよ。」
「今日、お友達来るんだっけ?」
「う、 ん」
「誰だっけ?」
「あ、阿部くん」
「あ、キャッチャーのコね?」
「そうだ、よ!」
「ちゃんとおもてなししてね?」
「うん」
「お菓子の場所とかわかってるわよね?」
「うん。 大丈夫だ、よ!」

ごめんねぇ と言いながらお母さんが出かけた後、ちょっと後ろめたい気持ちになりながら
オレはもっと嬉しくなった。   本当に、2人きり、だ。
なのに。
チャイムの音がしていそいそと玄関に阿部くんを出迎えに行ったオレは
ドアを開けた途端に驚いて少し固まってしまった。
そこには、にこにこと満面の笑顔の、修ちゃんが立っていた。








○○○○○○

「そんでさ、こないだの試合でさ」
「うん・・・・・・・」

生返事しながらオレは落ち着かない。
オレたちは居間にある炬燵に入っていて。
オレの左の方には修ちゃんが、右の方には阿部くんが座っている。
修ちゃんは楽しそうにあれこれしゃべっている。
修ちゃんと会えるのはもちろん嬉しい。 嬉しいけど。
お正月に会ったから、実はそんなに久し振りでもない。
そういえば、その時に 「近々そっちのほうに用事で行くかも」 と言っていたっけ。
日にちまでは聞いてなかったけど。  まさか今日になるなんて。

少し後に来た阿部くんは、修ちゃんを見て驚いた顔をしながらも、普通に挨拶した。
そして最初のうちこそ阿部くんも修ちゃんの話に適当に付き合っていたんだけど、
そのうちにその辺にあった野球雑誌をぱらぱらと見始めてしまった。
何気なく見ているようだけど。  顔が何となく怖い、ような気も。

「廉?」
「え? あ、な、なに?」
「おばさんて何時頃帰ってくんの?」
「えーっと・・・・・・出かける時、3時間くらい、って言ってた かな・・・・・・・」
「ふーん、残念だなぁ。 おばさんにも挨拶したかったのに」
「・・・・・・・。」
「帰ってくるまでいてもいいよな?」
「え・・・・・・・」
「今日は特に予定はないんだろ?」
「え・・・・まぁ・・・・・」

阿部くんが来る、以外は、   という言葉を呑み込んだ。 
修ちゃんはまた試合のこととか話し始めた。 阿部くんは知らん振りして雑誌を読んでいる。

どうしてこんなことに。
でも修ちゃんだってせっかく来てくれたんだし。
あぁでも、 とオレはこっそりとため息をついた。
今日は阿部くんにいっぱい触れると思って楽しみにしてて。
修ちゃんが帰るのを待っていると今度はお母さんが。

そんなことをぐるぐると考えていたオレは、瞬間 ひゅっと小さく息を呑んだ。 
だけでなく体が飛び跳ねそうになった。  だって。

誰かの足が。

オレの、股間に。

修ちゃんは普通に話し続けている。
ちらりと、阿部くんを見た。
阿部くんはさっきと同じように一見熱心に雑誌を読んでいる、んだけど。
じーっと見てたら、オレのほうに視線を走らせた。
かち、っと目が合った。
ほんの僅か、その目が笑った。 

やっぱり・・・・・・・・・・・。

急いで炬燵の中で膝を閉じようとしたんだけど。
もう一方の足が伸びてきて、ぐいっと開かされた。
慌てているうちにまた敏感なところに、阿部くんの足の指が。

「あっ・・・・・・・」

し、しまった。 声出ちゃ・・・・・・・

「廉?」
「へ?」
「・・・・聞いてる?」
「き、聞いてる、よ!」   何だっけ・・・・・・・・・・
「それで肝心なところで畠がさぁ」

あ、そうだ、試合の話・・・・・・・・・・・・

と、意識を会話に戻そうとして。

さわさわさわ

「あ・・・・・・・
  ん、」
「廉・・・・・・・?」

あ、 あ、 あ、 阿部くん・・・・・・・・・・・
や、 やめて・・・・・・・・   あ、  あ、

「・・・・どうかした・・・・?」
「えっ??」
「何か、・・・・変だよ・・・・?」
「え、 あ、 ごめ・・・・・・・・・・なんでも」

ぐいぐいぐい

「う   ぁっっ」
「廉?!!」
「あ、 ホントに、 なんでも」

取り繕おうとして、ぱくりと口を閉じた。  言葉に不自然な吐息が混ざったからだ。

あぁどうしよう。 オレ勃ってきちゃ・・・・・・・・・・・
息も苦し・・・・・・・・・・・・・
ひ、ひどい阿部くん・・・・・・・・・・・・・・・・・

慌てまくっている間にも、阿部くんは足の指で器用にオレの中心を布の上から刺激してくる。 
どんどん張り詰めて、それに比例して体もどんどん熱くなってくる。

「廉、もしかして具合悪いの?」
「え・・・・?」
「だって顔、赤いし」
そ、そうだろうな・・・・すっごく熱いもん・・・・・・・・・
「目も潤んでるし」
もう泣きそうだもん・・・・・・・・・・・・
「熱あるんじゃない?」

「そうかもな!」

それまでずっと黙っていた阿部くんがいきなり言った。 オレは (多分修ちゃんも) びっくりした。
と思ったら阿部くんの手がすーっと伸びてきてオレの額に触った。

「うん。 熱あるよ、おまえ」
「・・・え・・・・・」

そんなはず・・・・・・。 
・・・・・・・・・・ていうか・・・・・・・・阿部くん・・・・・・・・・・・・・

平然と言いながらも阿部くんはますますオレのすっかり熱くなった部分を
足でぐいぐいと押している。 器用過ぎる。
オレはもう。
唇をかみ締めて変な声が出ないようにするので精一杯。

「寝てたほうがいいよ三橋」
「・・・・・・・・・・・・・」
「オレら、帰るからさ。」

え、阿部くん、帰っちゃう、の?

とびっくりしたけど言えない。 口を開けられない。

「さ、叶も帰ろうぜ?」
「え、 でも」
「三橋は具合悪いんだからさ」
「オレ、ついててやろうか・・・・?」
「ダメ!」
「何でダメなんだよ?」
「人がいると却って休めないだろ? な? 三橋?」

オレはぼぅっと霞んだ目で (だって阿部くんの足は相変わらず容赦なかったから) 2人を見た。
修ちゃんが心配そうな顔でオレを見てる。
阿部くんはと見ると。  目が、怖い。
ので、とにかく阿部くんが望んでいるらしい答を言うことにする。

「うん・・・・・・」

途端に阿部くんの目がふっと緩んだので内心でホっとした。

「ほら、な? 帰ろうぜ叶?」
「本当に1人で平気? 廉?」
「うん・・・・・」
「なら・・・・帰るな・・・・」

修ちゃんはまだしぶしぶと、阿部くんは性急に立ち上がった。
オレはやっと刺激から解放されてこっそりと大きく息をついた。

「あ、そのままでいいぜ三橋。 見送りとかいいから!」

阿部くんがしらっと言った。
そりゃ、今、全然立てない、もん。   無理だもん・・・・・・・・・・・
オレが情けなくぼけっと見てるうちに、
まだ何か言いたげな修ちゃんを阿部くんは盛んに急かして、慌しく2人は帰っていった。
1人残されたオレは呆然としてしまった。

この熱をどうすれば。

でも、もしかして阿部くんは、戻ってくる気なのかも。 適当に理由をつけて。 1人で。
というか。  絶対そうだと思う、んだけど。

オレはそう期待してそのままの状態でしばらく待っていた。
なのに来ない。  20分経ってもまだ来ない。
本当に帰っちゃった、のかもしれない。
もしかして、オレが修ちゃんとばかり話していたから、怒っちゃったのかも。

ふとそう思ったら悲しくなった。 けど体の熱はまるで引かない。
阿部くんの、 せいで。
戻ってこないんなら自分で出すしか ない。

諦めて、そーっとズボンの中に手を忍ばせた。
熱くなって疼いているそこを、いつもするように片手で握る。
この手が、阿部くんの手ならいいのに、  と思いながら目を瞑った。


「ふぅん、そうやるんだ」
「わ   あ!!?!!」

びっくりして飛び上がった。   いつのまに。

「阿部、 くん」
「わりー。 遅くなった。」
「・・・・・・・・・・・。」
「忘れ物したっつったんだけど、あいついっしょに戻るとか言いやがって」
「・・・・・・・・・・・。」

オレは軽いパニックになった。 だって。
戻ってきてくれて嬉しい、という気持ちと同時に 見られて恥ずかしい、というのがごっちゃに。

「・・・・・続き、しねぇの?」
「う」

言うと思った。  にやりと、阿部くんは笑った。

「しなよ」
「ヤ・・・ヤダ・・・・・・」
「オレ、おまえがするとこ見てーな」
「・・・・オレ、ヤだ・・・・・・・・」
「何で?」

だって。 

「恥ずかしい?」

・・・・それも、 あるけど。

「見せてよ。」
「な、なんで」
「え?」
「阿部くんが、 い、いるのに」
「・・・・・・・・・。」
「自分でするより、阿部くんのが」
「・・・・・・・・。」
「ずっと、き、気持ち、イイ、のに」
「!!」
「オ、オレ、待ってた、のに」

正直に本音を言った。 だって本当に待ってたのに。 楽しみにしてたのに。
でも恥ずかしくて顔を上げられない。
俯いて耐えていたらいつまで経っても阿部くんが何も言わないんで、
おそるおそる顔を上げてみた。
阿部くんは片手で顔を覆って変な姿勢で蹲っていた。

「阿部くん・・・・・?」
「・・・・・・・・・。」
「大丈夫・・・・?」
「・・・・ダイジョブじゃねーよ!!」
「・・・へ・・・・?」
「今ので勃っちゃった」

え!!?

「責任取って」

え??!

慌てているうちに阿部くんはオレのすぐ隣にするりと入ってきた。
そしてあっという間にその場に押し倒されてしまった。














                                             前編 了(後編へ

                                             SS-B面TOPへ







                                                     そりゃ無理ないと思う。