教訓ふたたび





いなかったのはほんの15分くらいだったのに。

「マジかよ・・・・・・・・・・・」

オレは呆然としてその無防備な寝顔を見下ろした。
すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえる。 三橋は完全に熟睡していた。 

(そりゃあさ)

呆けたまま考えた。
今日は三橋の親もいるし、何が何でもいたそうとは思ってなかった。
泊まった日は必ずするってワケでもないし。
たまには最後までしないことだってある。 ごく稀とはいえ、添い寝だけの夜だって。

でも、そもそも誘ってきたのは三橋だ。
試験最終日の金曜日で、おまけに明日の部活は休み、という絶好の機会に
家に泊まりで招かれたとくれば少しは、いや大いに期待しちゃうのは
恋人としては当然だと思うんですケド。

オレはその時の三橋の言葉を思い出した。

『試験勉強、いっぱい見てもらった  て言ったら』
『お母さんが、いつもお世話になっているから ご馳走したいって』

(・・・・・・本当にそれだけ、だったのか・・・・・・・)

夕食は美味かった、うん。 けどオレはその後のデザートのほうに期待満々で
いっぱいいっぱい触ったり触ったり、   いれたり、   できるなぁと。

(・・・・・・・楽しみにしていたのに)

風呂を遠慮して後に入ったのがまずかったか。
まさかオレが入っている間に寝ちまうとは。
そういや昨日は試験勉強でほとんど寝てないとか言っていたっけ。

(・・・・・・起こすのは、かわいそうだよな・・・・・・・・・)

でもこれじゃあ。

「生殺しだぜおい・・・・・・・・」

思わずつぶやいた声は我ながら情けない響きを帯びてしまった。
頬をピンクに染めてすやすやと眠る三橋は殺人的にかわいらしい。 (オレの目にはそう見える)
ふと、一番最初に三橋がオレの部屋に泊まった日を思いだした。

(あんなに緊張していたのになぁ・・・・・・・・)

夜に部屋でオレと2人きり、なのに安心しきって寝ちまうのはいい変化なのか否か。

「ある意味いいことだけど・・・・・・・」

でもなぁ、 とオレはため息を吐いた。 いっつも思うことだけど。

(こいつって性欲少ねぇよな・・・・・・・・・)

それともオレが多過ぎるのか。
普通どれくらいなのかわからないから判断つかねーけど。

「・・・・・やりてえ・・・・・・・」

三橋の寝息を聞きながら隣で何もしないで眠るなんて奇特なことはとてもできそうにない。
ベッドの傍らにはいつものように客用の布団がきちんと敷いてあるけど、
(鍵を付けてからはほとんど使ったことがない)
オレはそれを無視して三橋のベッドにそーっともぐりこんだ。
もちろんそのまま眠る気なんてない。  ちょっとくらい触ったってバチは当たらないと思う。
三橋の隣に横になってじぃっと寝顔を見つめた。

(こいつ意外と睫長ぇんだよな・・・・・・・・・)

僅かに開いた唇が色っぽい。 誘っているみたい。

半身を起こしてそっと口付けた。 さらりとして柔らかい慣れた感触。
深くすると敏感に反応するその。
と、思ったら舌を入れたくなった。  少しだけ差し入れてみる。
三橋の舌の先をくすぐるように刺激してやると、ぴくっと、それが反応した。

「・・・・・ん・・・・・・」

(ヤベ・・・・・・・・)

瞬く間に熱くなる自分の体に呆れてしまう。
名残惜しかったけど、口を離した。
やっぱ疲れてんだろうし、起こすのはかわいそうだと思ったから。 でも。

(もう少しだけ・・・・・・・・)

服の上からそろそろと胸元を撫でてみる。
その辺りを執拗に探ったら布越しにぷっくりと起ち上がってくるのがわかった。
直接触れたくなってそっと布の下から手を忍ばせた。
突起を探り当てて柔らかく摘んでやる。

「あ・・・・・・ふ・・・・・」

かすかに身を捩って三橋がため息をついた。 艶っぽい声混じりの。
我慢できなくてそろそろと服をたくし上げて、現れた淡い色の粒を口に含んだ。
舌で転がしてやるといっそう硬くなった。

「・・・・ん・・・・・・
あん

オレの下半身はあっというまに完全にヤバい状態になってしまった。
胸を嬲りながら手で三橋の足の間を探ったら、こっちも僅かに芯を持ち始めている。
指でそろりと刺激してやったら。

「・・・あ・・・・べ・・・・く・・・・・」

起きた? と思って顔を見たけど寝ている。 
寝言か、 と安堵と落胆の入り混じった息を吐いた。
オレの夢見てんのかな。 ヤらしい夢だろうな多分。
オレの名前で良かった。 こんな状況で別の名前を言われたらショック死すっかも。

直接触ったらもっとイイ声が聞ける、 という誘惑に駆られた。
でも下を脱がせちゃったら (脱がせなくても直に触っちゃったら) もうダメだ。
絶対我慢できない。
眠っている三橋に襲い掛かりそうな気がすごくする。 気がするじゃなくて絶対そうなる。
今日は抑える自信がまるでないという自信がある。

そう判断したオレは、未練たらたらな己を叱咤しながら三橋から身を離した。
改めて見下ろしたら胸を顕わにして頬をさっきより上気させて、でも相変わらずすやすやと眠っている。
これだけして起きない、てことはそれだけ眠りも深いってことだ。
いくら何でも挿れたら起きるだろうけど。
こっちはもう破裂しそう。

「オレのこれどうしろと・・・・・・・」

自業自得なんだけどオレはマジで困ってしまって、それ以上に情けなくて、
深々とため息をついた。














○○○○○○

目が覚めたとき一瞬状況がよくわからなかった。

辺りは暗くて (てことは夜中・・・・?) でも豆電がついててほのかに明るいから
すぐに目の前の人間に気が付いた。

「あ」

べくん、 と言いそうになって慌てて呑み込んだ。
阿部くんはオレのすぐ隣でぐっすりと眠っていた。 それで急速に思い出した。
うちに阿部くんを呼んで、ご飯食べてお風呂に入ってそれから。
阿部くんを待ってる間少しだけ、と横になって。   その後の記憶がない。

(オ、オレもしかして寝ちゃった・・・・・・?)

そうわかって呆然としてしまった。 だって。
やっと試験が終わって阿部くんと部屋で2人きり、できっと阿部くんは触ってくるだろうし
キスもいっぱいできるだろうしと思って楽しみにしていて。

(なのに何で)

寝ちゃったんだろうと考えて、前の晩3時間くらいしか寝てなかったことを思い出した。
お腹いっぱい食べてお風呂であったまって気持ちよくなっていつのまにか。

(あぁでも)

阿部くんと、いろいろ、したかったのに。
阿部くんはオレが寝ちゃっててどう思っただろう。  少しはがっかり、してくれたのかな。
してくれたよね。 だって誘った時すごく嬉しそうな顔をしたもん。

がっかりどころか呆れた、かも。 
怒ってたらどうしよう。  起こしてくれれば、いいのに。
でも阿部くんは強引な時も多いけど、本当はとても優しいから。
それで多分起こさなかったんだ。

あれこれと悩みながら時計を見たらまだ夜中だった。 朝には程遠い。
でも眠る気になれなくて、オレは阿部くんの寝顔をぼーっと見つめた。
阿部くんの寝顔を見ることってありそうであんまりない。
なので思う存分眺めてみる。 

(・・・・・・・・・きれい、だな)

なんて本人に言ったら絶対怒るから言わないけど。
阿部くんの顔ってきれいだと、 オレは思う。
表情のせいでわかりにくいけど、こうして眠っているとよくわかる。

飽かずに見惚れながら、だんだんおかしな気分になってきた。
こんなに近くにいるのに。
2人きりなのに。
阿部くんはオレに触れてこない。 寝てるから当たり前だけど。

(触って、 欲しかったなぁ・・・・・・・・・)

自分から触ってもいい、んだよね、 とふと思った。
普段あんまり自分からは仕掛けない。 だってオレがそう思う前に
阿部くんから触れてくることが多いから。 というかほとんどそうだから。
キスも。 
恥ずかしくて未だにあまり自分からできない。 それに大抵そう思う前にされているような。

(・・・・・・・・・・・今なら寝てるし・・・・・・・・・・・)

オレはどきどきした。
誘惑に抗えなくてそっと阿部くんの唇に触れた。 少しだけ。
阿部くんはじっとして動かない。 規則正しい寝息が漏れるだけ。
なんか、フシギな、感じ。
そろそろと腕を撫でてみた。 これもじっとして動かない腕。
いつもオレの体を優しく、時には強く抱き締めてくれる腕。

楽しくて、ちょっと寂しい。

阿部くんがあまりにもよく寝てるんでオレはもっと大胆なことをしたくなった。
そーーっと阿部くんの中心に布の上から触ってみる。
やらかい。 
当たり前のことなのに、何だかすごく変な気がするのは
きっとこの状態の時に触ることが滅多にないからだ。  妙に新鮮で、さわさわと撫でてみた。

(こんなに近くにいるのになぁ・・・・・・・・・・・)

寂しく思いながら撫で続けていたら、やらかくなくなってきた。

それに気付いて顔が熱くなった。
もうこれ以上触ってたらまずいかも。  阿部くんもだけど、オレも。
そう考えてやめようとした、途端に   ぐっと手を掴まれた。

「!!!!」

息が止まるほど驚いて阿部くんの顔を見たのと、阿部くんの目がぱちっと開いたのが同時だった。

「おはよ」
「・・・・・・・・お、起きて・・・・・・・・・」

顔がすごい勢いで火照るのが自分でわかった。

「今起きた」
「・・・・・・・・・・・。」
「もっと触って?」

にっこりと阿部くんが笑った。

「や、やだ・・・・・・・・・」
「じゃあお返ししてやるな」

えっ、 と思ったときはもう阿部くんはオレの上にのしかかっていた。
慌てる暇もなく口を塞がれた。



しばらくしてようやく口が離れて 「イヤ?」 と聞かれた時はもう、
オレは完全におかしな気分になってて、イヤなんて言えるわけなかった。  イヤなどころか。

「・・・・・・・阿部くんが、起きてくれて、」
「え?」
「・・・・・・・・・嬉しい」

本音を言ったら阿部くんは驚いたような顔をした。
それから笑った。 とてもとても嬉しそうに。





その後、オレは声を我慢するのが大変だったけど。

全然ちっとも後悔なんてしなかったんだ・・・・・・・・・・・・。













○○○○○○

でも、後悔はちゃんと翌朝するハメになった。

「れーん」 というお母さんの声に目が覚めたらもう明るくて。

阿部くんを見たら目は半分開いてるけど、珍しくぼーっとして焦点が合ってない。
多分オレと同じで今 起きたんだ。
オレのほうが焦ったせいですぐに頭がはっきりした。 だって。
お母さんの声は下からじゃなくてドアのすぐ外で聞こえたからだ。
時計を見たら結構な時間になっていた。 起こしに来るはずだ。
もちろん服は着てる。 終わってから阿部くんが着せてくれた。
阿部くんも着てるし。 けどいっしょのベッドで寝てるのはマズいような気が。

急いで身を起こしながら 「あ」 と気付いた。
ドアに鍵がかかってる。 阿部くんがかけたんだ、とわかって
とりあえずホっとしたところでまたお母さんの声がした。

「起きてるのー?」
「今起きた」
「ご飯できてるわよ〜」
「わ、わかった!」

お母さんの足音が遠ざかる気配がして、はーっと安堵のため息をつきながらベッドから下りようとして。

オレは転んだ。
漫画みたいに見事にすっ転んだ。

「あれ?」

起き上がってみたけどまたすぐにへたり込んでしまった。 

(えーと・・・・・・・・・・・)

阿部くんもオレの異変に気付いた。

「どした? 三橋」
「・・・・・・・立てない・・・・・」
「えぇ?」

これって、もしかして。

(・・・・・・・・やり過ぎて腰が立たないってヤツじゃ・・・・・・・・・)

呆然とした。
阿部くんを見ると阿部くんもびっくりした顔をしてる。  それからさーっと赤くなった。

「もしかしてオレ、のせい・・・・・?」
「・・・・・・・多分」
「・・・・・オレそんないっぱいやってない、よな?!」

(けど、 激しかった、よ・・・・・・・・・・)

なんて口には出せないけど。
それになかなかイかせてくれなくていつまでもいつまでもいつまでも。

「えーとその。」
「・・・・・・・・・。」
「ちょっとやり過ぎた?」
「・・・・・・かも」   (じゃなくて絶対そう。)
「でもおまえだって嫌がんなかったじゃん!」
「・・・・・・・うん」  (それはそうだけど。)
「全然立てねぇ・・・・・・・?」

オレはまた立ってみようとした。
かろうじて立てたけど。 またへなっと座り込んでしまった。
下半身にまるで力が入らない。 面白いくらい。

「ごめん・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
「だっておまえから仕掛けてくれることなんてほとんどねーから」
(うん、ない。)

だって大変なことになるって前学習したし。

「嬉しくてつい」
(いいけど・・・・・・・。) 

言う代わりに顔を横に振った。 
オレ、ほんとに全然イヤじゃなかったし。  嬉しかったし。
でもまさかこんなことになるなんて。

「れーん」

またお母さんの声が聞こえる。 今度は下から。
オレたちは顔を見合わせた。 
阿部くんはまだ少し赤面しながら、珍しく真剣に困惑したような顔をしている。
でも多分オレも同じだと、思う。

「「どうしよう・・・・・・」」

心底困りながらオレは思ってしまった。



やっぱり。

慣れないことはするもんじゃない、かも。
普段自分からあまり触れないのは恥ずかしいからだけど。
それにサービスが過剰になるのが困るからだけど。

阿部くんにはそれくらいで、ちょうどいいのかもしれない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
















                                                教訓ふたたび 了

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                                                   ほんとにどーすんだ。 (ちなみにこの後