ハッピーエンドの先の先 -4 (M  A)





あんなとこに。

入るワケない。

「い、 いや・・・・・・・・」

今度こそ、ありったけの力を出して逃げようとした。
でもすぐに押さえつけられた。 すごい力だった。
阿部くんは元々オレより力が強いけど、それにしても今日はさっきからずっと
恐ろしいくらいの力で、どんなに必死になってもどうすることもできない。

「だってさっき頷いた」

そ、それはそうなんだけど。 だってでもオレ知らなかった。
まさかあんなトコに入れるなんて。
てっきりお互い出しっこするんだと思ってて。

そう言おうとして口を開いて。

「あっ・・・・・・・・!!!」

言葉の代わりに悲鳴が出た。
指が無理矢理入ってきたからだ。  強烈な異物感と痛みに体がもっと竦んだ。

「あ、 や、 いやだ!!!」

怖くて、涙が出てきた。 なのに阿部くんはやめてくれない。

「あ、 阿部く、 ヤ、 ダ!!!!」

叫んでももがいても押さえ付けてくる手の力は緩まない。
どころか、指がそのまま奥に進んでいこうとするのがわかって。

パニックになった。

何も考えてなかった。 無我夢中だった。



次の瞬間、阿部くんの 「う」 という声とともに苦痛に歪んだ顔が見えて。

体が楽になった。

我に返ったら指が出ていっていて、阿部くんはオレの横に蹲って足の間を押さえて突っ伏していた。

やみくもに蹴り上げた足 (多分膝) が阿部くんの股間にモロに当たったんだ、 とわかった。


オレは呆然と阿部くんを見ながらしばらく動けなかった。
心臓がばくばくして、何も考えられない。
動悸が収まってきたところで 「どうしよう」 という気持ちが湧いた。

咄嗟だったとはいえ、何てことを。
どうすればいいのかわからずにひたすら見つめていても、阿部くんは一向に動く気配がない。
そんなに痛かったんだろうか。
急速に、心配になった。

「阿部くん・・・・・・・?」

肩に手をかけたみた。 動かない。
怒っているのかも、とびくびくしながらそーっと下から顔を覗き込んだら。

阿部くんは寝ていた。 

じゃなくて。   気を失っている、のかも。
それがわかってまたしばらく呆然としてしまった。
そんなに強く蹴っただろうか。
夢中だったからよく覚えていない。
そろそろと体を押して横たえたら、阿部くんはぐにゃりとベッドの真ん中に伸びてしまった。
その顔をよく見ると、特に苦しそう、ではない。
少しだけ、安心した。
それから苦労して、またジャージの上を着せた。
だってそのままにしておくと風邪が悪化する気がして。

散らばっている自分の服を集めて身に着けている間にも、阿部くんは気が付く気配がない。
帰る前にベッドのそばで顔を近くからまじまじと見た。
規則正しい寝息がしていて安心した。
気を失っているのか眠っているのか (この2つってどう違うんだろう) よくわからないけど、
とにかく苦しそうではないし。
蹴ったところが潰れてたらどうしよう、 と不安になったけど、怖くてとても確認できなかった。

ごめんね、阿部くん。

心の中で謝りながら逃げるように阿部くんの部屋を後にした。












○○○○○○○

気付いたら辺りは真っ暗だった。
一瞬自分がどこにいるかもよくわからなかった。
ぼんやりと、 「あ、オレの部屋だ」 と思った。  それから三橋の顔が浮かんで。

慌てて起き上がった。
体が軽くなってて、熱はほとんど下がっていると、それでわかった。
きょろきょろと見回したけどもちろん三橋の姿はない。
でも確かに、来た。
部屋まで来て、それから薬を持ってきてくれた。 水じゃなくて酒といっしょに。
そこまでははっきりと覚えている。
それを呑んで、頭がぐらぐらしてその後・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その後のことがはっきりしない。

目を瞑って思い出そうとすると断片的に浮かんできたのが。
ピンクの顔。 それから白い肌。 何だかやけに色っぽい声。
あと、何だかわからないけど激しく痛かった、ような気も。  それもあちこち。
でもそれだけだ。 イメージは浮かぶものの、具体的な出来事ではない。 
夢だったのかもしれない。 忘れかけた夢の記憶と少し感覚が似ている。

オレは呆然とした。
寝ちまったのか?  三橋がいるのに?
キスしようと思ってたのに?  これ以上ないくらいのチャンスだったのに?

思ってからふと、何かが頭を掠めた。

・・・・・・・・キス、・・・・・・・・したような・・・・・・・・・・気も。

でもよくわからない。 ぼんやりとしていて定かじゃない。
てことはやっぱり夢か。
気分悪くていつのまにか寝ちまってたのかも。

そう思いつつも何かが引っ掛かるのは。

残っている断片がやけに生々しいからだ。 
まさかと思うけど。    もし、夢じゃないとしたら。
オレは三橋に・・・・・・・・・・・・何を、 したんだろう・・・・・・・・・・・・・・・・

考えていたら頭が痛くなってきた。
夢であってほしい。
だってほとんど、 てか全然覚えていない。
正気じゃない状態でいろいろやってましたなんて、シャレになんねー。

オレは考えることをやめた。
いくら思い出そうとしても霧がかかったみたいにはっきりしないし。
もう夢だったことにする。

「つーか明日三橋に聞けばいーんじゃん!」

口に出してつぶやいたらすっきりして、さっさとまた寝てしまった。













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