不安





阿部くんはたまにおかしくなる。
おかしく というか意地悪、になる。  その日も。

お風呂から上がるやいなやいきなりベッドに押し倒されて、有無をも言わさず服を全部剥がれて
無理矢理うつ伏せにされてしまった。
それだけじゃなく腰を掴まれて高く持ち上げられて
ろくに抵抗もできないでいるうちに腰だけ突き出した恥ずかしい格好にさせられていた。
死ぬほど恥ずかしくて口もきけないでいたら、後ろに柔らかくて湿った感触が当たった。
そこで初めてオレは悲鳴をあげた。

「や・・・・・ヤダ・・・・・やめて・・・・・・・・!!!」

でもオレがベッドで嫌だと言って聞いてもらえたことなんてほとんどない。
聞いてくれていたのは最初のうちだけ。 慣れてきてからはダメになった。
嫌と言うとむしろそれが阿部くんをますます煽ることになるらしい、ということももうわかっているけど。
それでも言わずにはいられない。
後ろを舐められるのはオレがすごくイヤなことのひとつだって知ってるはずなのに。

阿部くんはますます執拗に嘗め回す。
逃れようと必死になっても、すごい力で腰を掴まれていてどうしても逃げられない。
あまり激しく抵抗して、いつかのように手を縛られるのもイヤなので
オレはもう諦めて耐えるしかなかった。  それに。
正直気持ち良くて体から力が抜けていく。
別の種類の声が出ないようにするのが精一杯だ。
唇を噛むと阿部くんが怒るから、今はもう噛まない。
けどやっぱり、できる範囲でつい抑えようとしてしまう。 
バレたら怒られると思いつつもどうしても。

後ろのほうでぴちゃぴちゃといやらしい音がする。
絶対わざと立てている、  と思う。
その音にも煽られる自分は実は淫乱なんじゃないかとか思って自己嫌悪を感じたりもするけど。

なすすべもなく目を瞑って羞恥と快感に耐えていたら
舌がやっと離れた。 ほっと息をつく。

でも今度は片手の指でそこを左右から押し広げられる感覚があった。
しかも阿部くんがじっとそこを見ているのがわかって
全身が燃えるんじゃないかというくらい恥ずかしかった。
お願いだからやめて、 ほしい  と思っても言えない。
そしてそのままの状態でまた舐められた。 舌が中まで入ってくる。

「あ・・・・あぁ・・・・・・・・」

声が出ちゃう。 もう抑えられない。
続いて舌の横から指まで入ってきた。
そろそろと奥まで侵入してきて感じる部分を擦られて、足ががくがくして姿勢を保っていられない。
でももう片方の手で相変わらず腰をがっちり固定されてて動けない。
濡れた音が大きくなる。
間違いなく自分の体が立てている音が、聞きたくないのにいやでも耳に入ってくる。
ひとしきり嬲られてから阿部くんの低い声が聞こえた。

「もうこんなに濡れてるぜ。」
「・・・・・!!!」
「イヤらしいな、三橋。」

阿部くん・・・・・がそうさせてるくせに・・・・・・・・・・・・

思うけどやっぱり言えない。
呼吸が浅くて口がきけない。  何かを考えることも覚束ない。
羞恥さえ麻痺してバカみたいに喘いでいたら、硬くて熱いものが押し当てられた。

ぐっと入ってくる。

「・・・う・・・・・・」

その瞬間は今でも少しだけ圧迫感がある。 熱い。
でも奥まで収まってしまうとそこからまた別の熱が生まれる。
どろどろに溶けてしまいそうなくらいの強い快感が襲ってくる。
すぐにゆっくりと動かれてまた思わず声が出た。

「気持ちいい?」

動きながら阿部くんが囁いた。 阿部くんはよく、こうやって確認する。

「・・・ふ・・・・・・」

恥ずかしいからできれば答えたくない。 というより口をきく余裕がほとんどない。
阿部くんはいつも余裕たっぷり に見えるのに。 少し悔しくて、だから黙っている。
その日はそれも許してもらえなかった。

「ねえ、感じてる?」

しつこく聞かれた。 わかっている、 くせに。
こういうときは答えるまで許してくれない ということももう知ってる、ので喘ぎ喘ぎやっと言った。

「・・・気持ち・・・いい・・・・・・」


途端に激しく動かれた。
容赦なく突き上げられてオレはすぐに昇り詰めて達してしまった。
程なくして、阿部くんも中で解放したのがわかった。

ほっとして力の入らない足を投げ出して、ベッドにぺったり伏してしまいたかったのに。
阿部くんの手はまだ腰をきつく掴んでいて離してくれない。
しかも終わっているはずなのに出て行かない。

「・・・・・??」

変だなとぼんやり思っていたら達したばかりのオレのをそうっと握られた。
敏感になっていたせいで体が勝手に跳ねた。

「・・・阿部くん・・・・?」

焦ったのは、その手がやわやわと扱くように動き出したからだ。

「・・・・・んぅ・・・・」

あっというまにまた下半身が熱くなってきてしまう。 
追い討ちをかけるように阿部くんがつぶやいた。

「すげ・・・・おまえの中 ・・・・動いてるぜ・・・・・・・」

そういうことを、 言わないで ほしい。
さらにオレの中で阿部くんがまた大きくなるのがわかった。 思わず逃れようとした、けど。
ダメだった。

「三橋、 わりぃ・・・・・・」

言うなり突き上げられた。
揺さぶられて、オレもまた浅ましく反応しながらアタマが朦朧としてくる。
かすかに阿部くんの声が聞こえた。

「おまえはオレんだからな」

阿部くん・・・・・・・・・・・・・・

「誰にも渡さねぇ・・・・・・・・・」

そんな心配全然必要ないってわかっているはずなのに阿部くんはたまにそう言う。
大抵オレが朦朧としているときに。
だからいつも返事ができない。

大して間隔を置かずに再度イかされて、オレは気を失った。  らしい。



でもその日の阿部くんは本当に変だった。  気が付いてからまた抱かれた。

「あ、阿部、くん?!!」

抗議の声も唇で封じられて、敏感なところを執拗に探られて体から力が抜けていく。

結局何回イかされたかわからない。
最後のほうは泣きながら 「もう許して」 と何度も言ったのに
なかなか許してもらえなかった。  大変だった。

でもオレもどこかで本気で拒絶してなかった。 だって。
それくらいその時の阿部くんは普通じゃなかった。
それで気が済むなら、  という漠然とした思いがあった。
翌日休みだから(練習も) というのも多分あったんだろうけど。  それにしても変だった。

ようやく離してくれた時、こういう時はいつもそうだけど阿部くんのほうが傷ついたような顔をしている。
「ごめんな」 と謝ってくれる顔もありありと落ち込んでいて。
それを見るとオレの中に僅かにあった恨めしいような気分なんて簡単に消えてしまう。
どころか却って愛しさばかりが募って、阿部くんのことをもっと好きになってしまう。
阿部くんはわかっているのかな・・・・・・・・・・。

変だった理由を聞こうかなと思ったけど。
聞く代わりに自分から腕を回してぎゅっと抱きしめてみた。
そしたらその倍の力で抱き返されて、胸がいっぱいになって思わず
いつもは心の中だけでつぶやいていることを口に出してた。

「オレ、  阿部くんのものだよ・・・・・・・・・・」

言ってから恥ずかしくなって慌てたけど。

ますます腕の力が強くなって 「うん」 という小さな声が聞こえた。

その声が震えている、ような気がしてびっくりした。
何か言いたい。 もっと伝えたい。 この気持ちを。
でも言葉にできない。 何て言っていいかわからない。 
息を潜めたまま手に力を込めるくらいしかできない。


そうしていたら、また阿部くんがつぶやくように、けどはっきりと 言った。

「でも三橋、オレのほうがもっとずっとおまえのもんなんだぜ。」

えっ・・・・・・・・・・・・

「知ってた?」

阿部くんが腕を緩めてオレの顔を見た。 それから微かに笑った。


そのときの阿部くんの顔を



きっと一生忘れない、



とオレは思った。














                                            不安 了
 (オマケ 変の理由)

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