チャレンジその1-4





そんなこんなでカラスの行水で風呂から上がって
さてこれからが本番と思いながら部屋に戻ったら。

明らかにさっきの何倍も緊張している三橋が待っていた。

でも三橋だってちゃんとわかって来ているはずだ。
三橋の鈍さをよく知っているからこそ、これ以上無理ってくらいはっきりと意思表示しといたんだもん。

いや、だからこそか。
三橋はちょっとかわいそうになるくらい、あからさまに固まっている。

(・・・・・ガチガチじゃん・・・・・・・・)

オレはこっそりため息をついた。
肩が強張ってるし顔は青いし目はさっきの倍も落ち着きがないし、
とてもこれから色っぽい雰囲気に持ち込めるような様子じゃない。
むしろ死刑台に上がる前の囚人って感じかも。 (見たことねぇけど)

無理もないかもしんないけど。
そりゃ初めてだし緊張するよな。 オレだってこんだけしてんだから。
とにかく2人して固まっていてもしょうがないと口を開く。

「三橋」
「うわははははい!」

そんなに怯えなくても。

「えーっと、もう寝る?」
「えっっ!!!」

ダメ? まだダメ? でももう会話とかできる状態じゃないだろ?
そう思いながら黙って見てたら三橋は小さく頷いてくれた。

「・・・・う・・・うん・・・・・・・。」

けど頷いたきり引き続き固まっている。
どうすりゃいいんだオレだって実は初心者なんだぞこういう時どうやって上手く甘い雰囲気に
持ってったらいいんだよ!!

とにかくいきなりベッドに入れる感じじゃないので、まずは三橋のそばに座ってみる。
びくっ と露骨に三橋の体が揺れた。

(・・・・ちょっと傷つくかも・・・・・・・)

これはもう緊張というより怖がっている、ような。
少々凹みつつもそっと手を伸ばして肩に触れたら、さらにこっちりと固まった。
それがわかったけど、もういちいち気にしてたら先に進めないので無視して そうっと口付けた。
最初は軽く。
久し振りだからやっぱり嬉しい。
何度もついばむように触れていたら、ちょっと肩の強張りが取れてきたみたい。 よしよし。
気を良くして少し深くした。

「・・・・・・ん・・・・・・・・」

三橋がくぐもった声をあげた。   あーその声、  と内心で唸った。
こいつはこのキスに弱い、 と思う。
でもオレも三橋の 思わず、という「声」にすごく弱いような気がする。
いっつもそれで理性がごっそりとどっかに。

そんなどうでもいいような事を考えながら
さらに深く貪っているうちにだんだん夢中になっちゃって、
三橋の状態がどうとか気にする余裕が全然なくなってきた。

「・・・・う・・・・ん・・・・・ん!・・・・・」

何だか妙に苦しげな声が聞こえて我に返って、一回離して改めて見たら。
三橋の顔が真っ赤になってて目が潤んでいて息が荒くなってて
それだけならいいけど、気付かないうちにオレまできっちり息が上がってて、
キスだけで2人してこんなになっちゃってどうすんだと
頭の片隅を不安がよぎったりもする。 けど、この際無視。

いやむしろいつのまにかいい雰囲気になってんじゃん。
やっぱこういうのは理屈じゃなくて勢いが大事なんだなうん!!

さらに気を良くしながらまたキスをする。
しながら、そっとジャージの下から背中に手をしのばせた。

(うわ・・・・・・すべすべ・・・・・・・・)

三橋の体が小さく揺れたけど、オレはもうその滑らかな手触りに感動しちゃって、触るのに大忙しだ。
そういえばこんなふうに直接触れるのは2度目だけど
あん時は一瞬だったし怒りまくっていて、ちゃんと味わう余裕もなかったっけ。
(・・・こいつ本当に肌きれいだな・・・・・・・・)
こういうのもち肌っていうんだなきっと。

手のほうに集中したくなって一回口を離して、夢中になって背中を探っていたら小さな声が聞こえた。

「・・・・・あの・・・・・」
「なに?」

その声がいかにも不安そうなのが引っかかるけど、とにかく手は休めないで返事だけする。

「・・・・・・・た・・・・」

た?  「た」 ってなに? なんの略?
オレもいい加減こいつのものの言い方には慣れてるから、半分くらい聞けば
大体何が言いたいかわかるようになったけど、いくら何でも一文字じゃわかんねぇよ! 
でも手のほうが忙しいんで(気持ちイイし) 待つのも苦にならない。

「・・・・・・い?」

い? 『たい?』 じゃねぇな。  真ん中が抜けたんだ。
じゃなくて声が小さ過ぎて聞こえなかった。

「え? なに?」

聞き返したら今度はもう少し大きな声が聞こえた。

「・・・・・たのしい・・・・・?」
(はぁあ??!!?)

ようやく聞こえたと思ったらこいつ何言ってんだ。
とちょっと脱力したけど、とりあえず答えてやる。

「すっげー楽しい。」
「・・・・・・・・。」

待てよ。 てことはこいつは楽しくねぇんかな。  楽しいのオレだけ?
そう思ったら悲しくなった、けど。
確かに今は楽しいより不安のが大きいのかも。
いいよすぐに楽しくさせてやるぜ!!
とかいささかオヤジみたいなことを考えつつ、とにかく気持ちいいしあまり深く悩まないことにする。
三橋はまだ何か言いたそうだ。 オレ今忙しいんだけど。 触るのに。

「・・・・・ないし・・・・・・」

ま、また聞こえない。 今度は前半がスポっと全部。 一体何なんだよ!!
何が言いたいんだよこいつは!!

「もっかい言って」
「・・・・胸、とか、・・・・・ないし」

また小さな声がして、ようやくオレは三橋の言いたいことがわかった。
わかった途端にさらに脱力しそうになった。
今さら何言ってんだこいつ。
そんなことがヤだってくらいならもうとっくに諦めついてるよ!!!

オレの内心の憤懣に気付くこともなく、続けて三橋は輪をかけて今さらなことをぬかした。

「ほ・・・・ほんと・・・・に、オレ、で、いい・・・の・・・・・・?」

オレは今度こそミもココロもぐたーっとなって、思わず手が止まった。
同時に こいつらしいな とも思っちゃった。

(本当にとことん自分に自信ないんだなぁ・・・・・・・)

さて何て言おう、  と思案する。 
もう2度とこのテの不安が湧かないように、一発でわからせたいんですケドくそ!
半ばヤケクソで言ってやる。

「オレは!! おまえでねぇと イ ヤ だ!!」

あーもう恥ずかしいこと言わせんなコノヤロウ!!
と思いながら言ったせいか、我ながら大分不機嫌な声になった。  さらに念押ししておく。

「おまえ以外の奴なんて触りたくねぇよ!」

また不機嫌な声になっちゃった、けど三橋は耳まで赤く染めてそれ以上何も言わなかったので
わかったんかな。
てかこんな基本的なことでいちいち不安になられたら困るぜホント。
いや言うけどさいくらでも。  不安になったら1人でぐじぐじ悩まないで
言ってくれるほうがオレとしても有難いんだけどさ!!

そう思いながら目の前の赤く染まった耳たぶが美味そうに見えて、何の気なくぺろりと、舐めてみた。
途端に三橋が小さく飛び上がった。

(へえ、耳って感じるんだ・・・・・・・・)

もう1度耳朶をぺろりとやったら、すーっと顔が逃げていきそうになったんで
片手で押さえつけて逃げられないようにしてまた舐めた。 また体が揺れた。
なので耳たぶを舐めたり噛んでみたり耳の後ろを舐めたり、いろいろやってみたら。
三橋の息がどんどん乱れてくるのがわかってすげぇ楽しい。
けど、耳の中にそーっと舌先を入れようとしたところで
腕に三橋の手がかかる感触があって、次の瞬間いきなりべりっと体を剥がされた。

(あ、くそ!!)

不意打ちだったんでオレは簡単に離されてしまった。
三橋は俯いて荒く息をついている。
でも両手はしっかりとオレの腕にあって、距離をとろうと伸ばされている。 このやろう。

「なに」
「・・・・ちょ・・・ちょ・・・っと・・・・待って・・・・・・」

待てねぇよ!
と思ったけど急ぐと逃げ出しそうなんでここは ぐっと我慢して、聞いてみた。

「何で。」

三橋は息を整えながら(多分)、なかなか口を開かない。
まださっきの件が納得できてないのかな。 それともまた別の何かか。
言ってもらわないとわかんないので、頑張って待つ。

(・・・怖いんかな・・・・・・・・)

いやわからない。 こいつのことだからまた何かとんでもないことを考えてんのかもしれない。
とにかく何か言うまで待とうと思ってじっとしてんのに。
待てど暮らせど何も言わない。
オレは結構気が短い (自覚済みだ) からだんだんイライラしてきた。

早 く 続 き し た い。

三橋はそこでようやく顔を上げて(ユデダコみたい) 口を開いた。
と思ったらまた閉じた。 また開けてまた閉じた。
何か言おうとしてるのはよーくわかるんだけど。
どうしても言葉が出てこない。
オレは待ちくたびれて、もう無視して先に進んだろかと思い、そこでふとある1つの懸念が頭に浮かんだ。

もしかしたら。

されるのがイヤなのかも。

こないだオレははっきりと 「抱きたい」 と言ったけど、三橋も 「いいよ」 と言ってくれたけど、
本当は三橋もそっちが良くて、でも言えなくて、でも実は本音はやられんのはイヤなのかも。

そう考えてオレは少し慌てた。
だってオレは絶対抱くほうがいい。 やっぱ男だもん。  三橋も男だけど。

(・・・・・・・・困ったな)

この状態で黙り込んでいても埒が明かないので、仕方なくオレから言ってやった。

「もしかしてされんのイヤなの・・・・・・?」
「へ?」

びっくりした顔してる。 違うんだろうか。
いや、でもこの点はちゃんと確認しておかないと。  重 大 な ことだもん。
こいつには遠まわしに言ってもダメかもしんないからと、もっとはっきり聞いてみる。

「挿れられんのヤなの?」  ストレートだ。
「あ・・・あの・・・ね。」

三橋はそれには答えずに(答えろよ) 言った。

「オ・・・オレ男だよ・・・・・・・」
「うん」     
あ、やっぱりそうなのか。 うーん。
「あ、あ、阿部くんも男・・・・・・だよね。」
「当たり前だろ」  イライラ。
「ど・・・どうやって・・・・・・・・」

そこまで言って三橋はまた俯いてしまった。  そこでオレは 「あ」 と気が付いた。 こいつ。
やり方知らないんだ。   男どうしの場合の。

「はー・・・・・・・・・・・・・」

予想外の展開にオレは内心また少し慌ててしまった。  そっからかよ。

「えーとあのさ。」
「・・・・・・・・・・。」

口では言いにくいんで三橋の体を引き寄せる。
手を後ろに回して 「そこ」 の辺りをさわさわと撫でた。

「!!!!!!」
「ここに挿れんだけど。」

次の瞬間、目の前から三橋の姿が消えた。
ばびゅっっという感じで1メートルくらい後ずさってしまったからだ。 
(は、早・・・・・・・・)
壁にびったり背中を張り付けて顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせて、金魚みたいになっちゃった。

「知らなかったんだ・・・・・・?」

無言でこくこくと頷いてる。 さてどうしたもんか。

「やる側のほうがいい・・・・・??」

ちょっとドキドキしながら聞いたんだけど、三橋はすごい勢いで顔を左右に振った。
それはそれで少々傷つく。 (オレも勝手だな。)
でもオレは元々はっきりした希望があるからホッとした。  問題ないじゃん!!

「じゃあされるほうでいいよな!」

元気よく聞いたらやや間があった。 嫌な予感がする。

「い・・・痛く・・・ない・・・・・?」
(・・・・やっぱそう来たか・・・・) 

普通はそう思うよな。 オレだって思うもん。
当然痛いだろうな、特に最初は。
上手くすれば痛くないのかもしんないけど、オレそんな自信全然ねえ。  ハジメテだし。

・・・・と思ったけどそのまま言ったら
「やっぱりやめる」 と言い出しかねないので (オレだったら言うな)
「うーん」 とか曖昧に唸ってみせる。

「慣れれば大丈夫なんじゃねえ?」    

ずるい言い方をしてみた。

「それまで・は・・・痛いよね・・・・・きっと・・・・・」

ごまかされてくれなかった。(当たり前か)  ちっっ。


三橋は壁に張り付いたまままた固まってしまっている。
その顔にはさっきまではなかった、明らかな恐怖の色がくっきりと浮かんでいる。
せっかくいい雰囲気になったと思ったのに。
元に戻っちゃった。   どころか後退したんじゃねぇか?

どうすりゃいいんだとオレは本日何度目かのため息を、またこっそりとついた。















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