チャレンジその1-3





オレは少し困っていた。

予定どおり今日は誰もいない。
首尾よく三橋をお持ち帰りできて
いい雰囲気で話して (半分以上野球の話だけど)、
夕食も食べて (母親が用意しておいてくれたのを温めただけ)
そのへんまではまぁ良かった。

けど、夕食の片付けを済ませるあたりから、三橋が目に見えて緊張してきた。
わかりにくいことも多い三橋だけど、今日ばかりはわかりやすい。
感情が顔に出まくっていて、それはもう見事なくらい。
目が泳いでるし、何か話しかけても上の空で返事が滑りまくってる。
しかもそれすらよくわかってないようだ。
心ここにあらず。 てかもう別のこと (それも心配事。 多分今日これから先の事。)
に気持ちがいっちゃってるのが丸わかり。

(・・・・・・無理ないかな・・・・・・・。)

そう思いつつも、オレにまで三橋の緊張が伝染してくる。
オレだってそれなりに緊張してんだけど、オレはある程度自分をごまかす術を知っているから
その技術 (てのかなこれって) を駆使して何とか平静を保ってんのに。
何だか無駄な努力になってるような。 それに。
・・・・こいつ見てるとそういう自分が少しイヤになる、かも。
なんて、妙にテツガクテキなことにまで思考が及ぶ自分にまた呆れたりして。
もっと単純に考えて、とりあえず。

まずは、風呂に入ってもらわなきゃなんないんだけど。
でもってさっき片付けの前に入れ始めといたから、もういつでも入れるんだけど。

「風呂入って」 の簡単な一言が言えずにいるのは
目の前の三橋の顔が明らかに引き攣りまくっているからだ。
それにもしかして 「やる前にきれいにしましょう」 というふうに取られたらヤだなと思ったり。
別にそんなつもりはねぇんだけど。  単なる習慣なだけで。  練習の汗流したいし。
てか普通どの家でも夜は風呂入るよな・・・・・
三橋も変な方向に曲解したりしねぇよな大丈夫だよな・・・・・

とにかく。
ごちゃごちゃ考えててもしょーがねぇ。
いくらなんでもこんな初期段階からつまずいているわけにはいかない。
初期段階どころかそれ以前だよなうん。

意を決して、ごく普通の口調になるように気を付けながら、ようやく言ってみる。

「あのさ、風呂沸いてるから入んなよ。」

うっかりすると上ずってしまいそうになるあたり
オレも思ったより緊張してる。  てか三橋のがそれだけうつってる。

「え・・・・・・・」

三橋はおろおろと視線をさ迷わせた。

「タオル出してやるから」 とまた何気なさを装って言いながら腰を上げかけたところで
「阿部、くん」 とやっと言葉が出てきた。 と思ったら。

「オレ・・・あああとでいい・・・・・・。」
「へ?」
「阿部くん、の後で入る・・・・・・・。」

それは困る、と思ったのは別に他意はない。
だって一応お客だもん。  だからそう言った。

「おまえ先に入れよ。」
「・・・・・・・・・。」
「客より先に入るわけにはいかねぇよ。」
「・・・う・・・ん・・・・・。」

やっと動いてくれた。 相当ぎくしゃくしてたけど (右手と右足がいっしょに出てるし)
とにかくタオルと着替えのジャージを押し付けて風呂場に行かせるのには成功した。

(あぁ疲れた・・・・・・・・・)

三橋の態度に疲れるというより、あれこれ考えるのに疲れる。
それにこんな段階からこんなに手間取っていて、大丈夫なのかな。

本当は実を言うと
いっしょに入んない?なーんてメロドラマみたいな展開も頭の隅にまるでなかったと言ったら
嘘になんだけど。
(わかっていたけど) 全然無理。
あんなに固まりまくっている三橋にそんなこと言えるわけない。
ていうか、オレだっていっしょに入ったりなんかしたら
きっと風呂の中で無体なコトに及ぼうとするのはもう目に見えているから (絶対理性もたねぇ)
提案する気もなかったけど。
だってハジメテが風呂場ってどうよ。

なんてしょーもないことをぼんやり考えながら、そわそわと待っていたんだけど、
いつまで経っても出てこない。
だんだんイライラしてきて、次に少し心配になった。
まさかと思うけど湯あたりでもして伸びてんじゃねぇだろな。
でももし違ってたら ヘタに見に行ったりしたら、
お互いにとってヤバいことになるような気がすごくするんですケド。
見に行くべきか行かざるべきかそれがモンダイ・・・・・・・

そんなふうに無駄にぐるぐるしていたら、やけに時間が経ってからやっと出てきた。 

(おっせーよおい!)

でも出てきた三橋を見たとたん、オレは少なからず焦った。
全体的にピンクになっちゃって、ホカホカ湯気が立っている。

(う・・・・・・・!!)

その姿だけでオレはいきなりキてしまった。 

(やべー色っぺえ・・・・・・・)

いや、多分普通に見たら普通なんだろうけど
やけに艶っぽく見えちゃうのはやっぱり恋してるってことなんかな、
とか思ったとたん  うわぁ恥ずかしい と照れてしまって
自分で自分の思考に恥じらってどうする とかまた自分で突っ込んでみたりして。

オレは心の中のわたわたした恥ずかしい考えを
表面では平静な顔を保って必死で隠しつつ (こんなんばっかだぜ)
「じゃオレも入ってくるから待ってて」  と三橋に声をかけた。
三橋が赤い顔のまま小さく頷くのを確認するや
急いで風呂場に行ってまた 「うわぁ・・・・・・・・」 と内心で唸った。
さっきまで同じ場所で三橋が浸かっていたんだなー と思ったら。

勝手に体が。

(あぁもう・・・・・・・・・・・・・・・・)


ちょっと落ち着けオレ。

いや、というかさっさと洗ってさっさと出よう。  ぐずぐずしてたら絶対のぼせる。
落ち着きながら素早く洗っちゃおう。 て何だよそれ。 我ながらバカみたいだ。

(こんなんでオレ、ちゃんとできんのかな・・・・・・・)

お湯に顎まで浸かりながらオレは少ーし、不安になってきた。














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