チャレンジその1-2





とりあえず、とオレは暫定対策を考えた。

部室でべたべた触るのは自粛しよう・・・・・・
今までも人がいる時はそれなりに控えていたけど (当たり前だけど)
これからは人がいなくてもやめたほうがいいかも。
ましてやキスなんかしたら、今度こそ止まれないかもしれない。
そんでもってまた誰か来ちゃったらどうする。
鍵かけてりゃいいとか、そんな単純な問題じゃない。
だって部室なんて窓もあるし、外から見ようと思えば簡単に見えてしまう。
自分だって見られんのはイヤだけど、
何より三橋のあられもない姿を誰かに見せるのなんか絶対ごめんだ。 冗談じゃない。

そう考えたオレは三橋への過剰な接触を控え始めた。
と同時に、機会を作らなければならないと思案する。

この前三橋は嫌がっていた。 それは確かだ。 (悲しいことに)
でも本気の抵抗じゃなかったことも間違いない。
女の子じゃないんだから、真剣に抵抗されたらあんなもんじゃないだろう。
それによーく思い出すと 「こんなとこで」 と言った。
ということは 「こんなとこ」 じゃなければいい、のかもしれない。
かも、じゃなくてそういうことにする。
それでも嫌がられたら、という一抹の不安もあるけど、その時はまたその時考えればいい。

とオレは前向きに考えた。
悩んでても話は進まないし、何しろオレは大変切羽詰っている。

一番いいのはどっちかの家だ。 必須条件は家族がいない時。 できれば長ーい時間。
さらに望めば一晩中。

(でもそんな機会滅多にねぇからな・・・・・・)
と半ば諦め気味に考え、せめて長時間留守になる日、などと思っていたら
ある日降って湧いたようなことを母親が言った。

「隆也、あんた旅行行きたい?」
「へ?」

別に行きたくない、けど何でまたそんなことを。
と疑問に思ったら、町内会だか何だかのくじ引きで旅行券が当たったんだと言う。 4名様まで。
内心の逸る気持ちを抑えて、しらっとした顔を作って言った。

「オレ、練習あるから無理だけど、みんなで行ってきなよ。」

そう? 悪いわね、 と申し訳なさそうに言う母親に
「全然」 とうっかり満面の笑顔で答えて、不審気な顔をされてしまった。
慌てて仏頂面を作りながら内心では小躍りしたい気分だった。
タイムリーに棚からボタ餅が降ってきた。
天が自分に味方しているとしか思えない。
あとは三橋を誘うだけ。
三橋の親がいいと言うかわからないけど、まず問題ないだろう。
こういう時同性だと便利だ。

なのにその日のうちに問題が勃発した。  弟が渋った。 
流石にもう親といっしょに旅行って年じゃないらしい。
オレは焦った。  というより怒った。

「せっかくだから行けよ」
「ヤだよ。 うぜぇ」
「行けってば!!」

鬼のような形相の (多分) オレに、弟は にやーっと笑って言った。

「アニキさ、女連れ込む気だろ」
「ちげーよバカ」

嘘は言ってない。 連れ込むのは男。
でも弟はふふーんと鼻で笑った。

「何くれる?」
「・・・・・・・!!」

結局行く代わりに何だかというゲームを買ってやるハメになった。
やっぱり人生そう甘くはない。











○○○○○○○

そんなふうに阿部が三橋の全部を自分のものにしたい一心で
あれこれ考えたり我慢したりフトコロを痛めたりしている間に、
三橋のほうはまたきっちりと宜しくない方向にじわじわと思考を向けていた。

なぜならあれだけ触ってきていた阿部が、機会があっても自分に触れてこなくなったからだ。
後ろ向きのカタマリのような三橋が
(飽きられちゃったのかな・・・・・・・)  と思うのは当然の成り行きであった。

でも普段は別に何てことない、
特に避けられている様子もない。
ただ単純に、触れてこないだけだということは三橋にもわかった。

三橋は恥ずかしくて自分からはできないけど、本当は阿部にキスされるのは大好きだった。 
幸せな気分になれるし、とても気持ちいいから。

だから自分から聞けばいいんだけど。
「何でキスしてくれないの?」 なんて
そんな恥ずかしいことは死んでも言えそうにない。

以前の三橋だったら聞くこともできず、一足飛びに最悪の結論を出していたかもしれない。
が、三橋の筋金入りの悲観主義も以前に比べればある程度は
改善がなされていたので (主に阿部のおかげで)、
完全に後ろ向きな結論を出すまでにも至らず、 でもさりとて確認することはやはりできず、
どっちつかずのやや不安な日々を送っていたのだが。

幸いそんな日々はさほど長く続かなくて済んだ。
ある日の練習後に阿部がこっそり言ってきたのである。

「三橋、今度の土曜 練習の後うちに来ねぇ?」

三橋は内心喜んだ。 嬉しい。  
(まだ飽きられたわけじゃない、のかも。)
なので即答した。

「行く、 よ。」

阿部も内心喜んだ。 けど、まだこれからが肝心だと言葉を続けた。

「その日、うち誰もいねぇんだ。」
「・・・ふぅん・・・・・・・。」
「泊まっちゃえよ。」
「・・・うん。  ・・・・いいよ。」

阿部はその時点でとりあえず 「よし!」 と思ったけど
それだけで会話を終わらせるつもりはなかった。
三橋がこのテのことについては鈍い (というか自信というものをまるで持ち合わせていない)
ということを、骨身に染みてわかっていたからである。
(こいつにははっきり言わなきゃわからねぇ。)
思いながら、確認した。

「意味わかってる?」
「へ??」

三橋は全然わかってなかった。

(やっぱり・・・・・・・)

内心で 聞いて良かったぜと思いながら阿部は
誰が聞いても間違えようがないというくらい明確に囁いた。

「オレ、おまえのこと抱きたい。」
「!!!!」

三橋は絶句した。
飽きられたかもとかで悩んでいたのに、急転直下の展開 (それも真逆の方向)
に頭がついていけない。    しばし呆然と阿部の顔を凝視した。
阿部は黙ってじぃっと三橋の返事を待っている。
何やら顔が微妙に怖い。 (ような気がする)
三橋はよく回らない頭で漠然と、なんてもんじゃなく相当な不安を覚えた。
正直なところ恐怖もあった。

でも。      どうしても断る気になれない。

それはやっぱり、三橋も阿部に触れられるのが好きだったからだ。
それに不安やら恐怖よりも、阿部が望むならという気持ちのほうがもっと強かった。
なのでしばらくの逡巡のあと
「いいよ」 と小さな声で承諾した。

(おっしゃ!!!)   

息を詰めて待っていた阿部は今度こそ、心中でガッツポーズをとった。

そして土曜までにいろいろ必要なものを (ローションとかゴムとか)
準備しなきゃなとウキウキと考えたのである。













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