選択不可能
         * 伝説の阿部さんで





「三橋さ、阿部に 『トリック・オア・トリート』 って言わないほうがいいよ」

昼休みにそう忠告したのは泉だった。 三橋はきょとんとした。

「何で・・・・?」

そう問う三橋の手にはお菓子が数個握られている。
田島に引っ張り回されて便乗している形だが、何人か(主に女子)にお菓子が貰えて
嬉しい気持ちが顔中に溢れている辺りはいかにも三橋だ。

「何でも」
「わ わかった!」

渋面の泉に素直に頷いたところもこれまた三橋だ。
アニキ分の言うことは聞くのである。

しかしながら、てぐすね引いて待てど暮らせど言ってもらえない男が
それで諦めるはずもないことは容易に想像がつく。
なので泉はもう1つ、付け加えた。 

「もし阿部にそれを言われたら、アメ1個でいいから渡せよ?」
「え・・・・・・・」

今度はすぐには頷かなかった。
三橋はお菓子が好きなのである。

「イヤだろうけど、そうしろ!」
「う、 うん・・・・・・・」

眉間のシワが深くなったアニキ分に、三橋は結局は頷いた。




その日の部活前に阿部は満面の笑顔で三橋に言った。

「三橋、今日って何の日か知ってる?」
「うん! ハロウィン、だよ!」
「じゃあさ、 トリック・オア・トリック?」
「・・・・・・へ?」

「阿部、それどっちも同じ」

そう来るか、と内心で呆れながら突っ込んだのはここでも泉だった。

「あー間違えた」
「嘘つけ」
「じゃあやり直すな、 三橋」
「はいっ」
「トリック・オア・トリック?」
「・・・・・・・う・・・・・・・」


いっそ清々しい、 とうっかり思った者は1人ではない。
もはや誰も突っ込まない、穏やかな秋の午後であった。










                                         選択不可能  了

                                          SSTOPへ





                                                    断固トリックな男 (オマケ