オマケ






オレって あったまいい

と阿部は素振り練習をしながらにんまりした。
隣の栄口が不気味そうに見ているのに気付いて、顔を引き締めながらも
また口元が勝手に緩んでしまう。

『イタズラしてくんなきゃ、イタズラするぞ』

というのは、もはやハロウィンじゃないけど、
三橋がそんなことを突っ込んでくるような性格じゃないのは知っている。
三橋から迫ってもらうのもいいし、それが無理だったら自分からイタズラできるわけで、
どっちに転んでも大変美味しい。

先刻は質問への返答に三橋が困っているうちに時間切れとなり、
うやむやになってしまったけど、それで済ませる気は毛頭ない。
練習が終わったら家に誘って、2人で過ごす算段をしながら阿部はさらに考えた。

(イタズラ、 というからには)

多少ハメを外しても言い訳に使えるし、 とまただらしなく緩めた顔を
少し離れたところからアニキ分がじっと見つめていたのだが、
阿部はそれには気付かなかった。





そんなわけで練習後にロッカーを開けて、自分の荷物がなかった時にも
入れ忘れたんだろうと、特に気にも留めなかった。 つまり、それだけ上機嫌だった。
が、着替えを終えてからその辺を探しても見つからない段になって、阿部は少し焦った。
なぜかというと早く帰りたかったからだ。 三橋を連れて。

(・・・・あ、 その前に誘わねーと)

まだ本人に言ってなかったことを思い出して三橋を見やると、
三橋は阿部が何も言わないうちに己のロッカーから何かを取り出して差し出してきた。
誘うのも忘れてそれを凝視してしまったのは、それが他でもない自分の荷物だったからだ。
なぜ、それが三橋のロッカーの中にあったのか。

そう聞こうとしたところで、三橋が言った。

「オレ イタズラ、しました。  阿部くん、 ごめんなさい」

ぱかりと、阿部は口を開けた。
練習中ずっとそわそわと考えていた目論見の前提部分が崩れていく。

(・・・・そんなバカな)

呆然としながらも、はたと気付いたことは。

「・・・・・それ誰の提案?」
「へ?」
「三橋、誰かにそうしろって言われたんじゃねえ?」
「あ」

うろたえる表情がそうだと告げている。

「怒んねーから言ってみな?」

最大限の演技をした阿部に三橋はころりと騙された。

「泉くん、だよ」

阿部は泉のほうを振り返った。
がしかし、そこは泉とて抜かりないのである。

阿部が見回した時にはとっくに遁走していたのであった。









                                                  了

                                              SSTOPへ





                                                  泉くんの勝ちー (さらにオマケ