オマケ






「兄弟どうしでキスはありだろうか」

阿部がそうつぶやいた時、花井はわざと聞き流した。
阿部の目は遠いし、独り言であってほしいと願いながらだったが
むろん徒労に終わった。

「なあ、ありかな、花井」
「・・・・・・すると思うか?」

しぶしぶと、真面目に答えてやった自分を自分で褒めてやる。

「そういう兄弟がいてもいいんじゃないかと、オレは思うんだ」

キスをするバッテリーのがずっとマシだろ、と言いたい衝動を辛くも抑えた。
応援していないわけでは決してないが、
夏大前にごたごたは勘弁してほしかったからだ。 

「・・・・・・・おまえは弟とそういうことできんのかよ」

げえっという顔を阿部はした。

「・・・・・・・やっぱ無理があるか・・・・・」

当たり前だ、と呆れたものの素直に落ち込んだ様子に哀れを感じたので。

「でもさ、何でそんなこと思ったんだ?」

どうせ三橋絡み以外にはあり得ないと知っているそれを
わざわざ聞いたのは、お愛想ってやつだ。
本人は隠しているつもりな以上、まともに答えるとははなから期待してなかったけど。

「棚から落ちてきたダンボールがボタ餅だったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ」
「いや餅じゃねーな、プレゼントだな」
「・・・・・・・良かったな」

棒読みになったことを責める人間などいないだろう。
ぼーっと異次元を睨みながらさらに何やらつぶやく男に
まともに付き合う奴なんて水谷くらいだ。

と思いながら花井は賢明な選択をした。 シカト決定。 
それでも耳だけは機能させたのは友情、およびキャプとして義務だった。
どっちが何割かはともかくとして。

「あれ? そういや・・・・・・結局何で泣いたんだろう?」
「・・・・・・・・・・。」
「きっとびっくりしただけだな、うん」
「・・・・・・・・・・。」
「くだんねーことですぐ泣くよなー相変わらず」
「・・・・・・・・・・。」
「それくらいわかんだぜ、オレだってさ」
「・・・・・・・・・・。」
「最初ちょっと間違えたけど」
「・・・・・・・・・・。」
「あー、勘違いで良かった・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・。」
「そんなことよりアレだ、アレをどうにかしねーと」
「・・・・・・・・・・。」
「兄弟どうしで反応するのは流石にまずいよな」

花井は予定変更した。 シカト返上。
アレってなんだよとは断じて聞かないが。

「オレもそれはまずいと思うよ」
「やっぱそう思うか?」
「思う思う」
「男って不便だよなー」
「まあそう言わずに」
「ごまかせねーもんなあ」
「なせばなる!」
「引かれたらオシマイだし」

ハジマるだろ、 とは呑み込んだ。
夏大前のゴタゴタは以下同文。

「とにかく、対策を考えねーと」
「ぜひ考えてくれ」
「でも自信ねえ」
「いやいやいやいや」
「次ん時、オレ大丈夫かなあ」
「おまえなら大丈夫だ!」
「そうかな・・・・・・・・」
「つーか大丈夫になってくれ阿部!!!」

心からの願いを、花井は叫んだ。

アレの心配も非常に重要だけど、その前に
そのだらしない顔を何とかしろ と思ったのは言わなかった。












                                        オマケ 了

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                                                    隠してる?
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