オマケその2






沖が教えてあげたのは親切だった。
何故なら花井が箱の中を探しながら 「あれ?」 と困惑したような声を出したし
理由も推測できたからだ。 沖は基本的に優しい性格だった。

「あのさ、その箱こないだ落ちて中身がバラけちゃって」
「・・・え?」
「だから入ってる場所とか変わってるかも」
「あ、そうなんだ・・・・・」
「なくなってはないはずだけど」
「あーほんとだ、あった。 サンキュ」

感謝されたことに沖が嬉しくなったところで ふっと、花井は表情を変えた。

「落ちたって、何で?」
「え、地震で・・・・・・・」
「え?!」

花井は少し焦った顔になった。 理由は次の言葉でわかった。
流石キャプだなと、沖は素直に感心した。

「誰かに当たった、とかはないよな?!」
「え、あった」
「誰に?!!」
「阿部・・・・・・・」
「ええ?!」
「あ、でも大丈夫だったみたいだよ?」
「・・・・・そうなのか?」
「背中だったみたいだし」
「背中か・・・・・・」
「痛がってもいなかったし、平気じゃないかなー」

ホッとした顔になった花井は笑い混じりで言った。

「まあ災難だけど、あいつも案外間が抜けてるな」

今度は阿部に対しての親切心が湧く沖である。

「でも阿部、偉かったんだぜ?」
「は?」
「三橋を庇ったらしいから」
「・・・・・・・・・・。」
「そのままだったら三橋に当たるところを体で庇ったみたい」
「・・・・・・・・その場にいたのか?」
「え、や、たまたま庇ってるとこに入って」
「・・・・・・・ああそう」
「オレその時勘違いしちゃってさ、一瞬抱き合ってんのかと」

あはは、 と笑いかけた沖は途中で引っ込めた。
花井の顔が引き攣ったことに気付いたからだ。
何か悪いことを言っただろうか。
とまどっているうちに花井は急にまた表情を変えた。
今にも ぽん! と手を打ちそうな様子になった。 打たなかったけど。

「なるほどそれでか・・・・・・」
「へ?」
「ああいや、こっちの話」
「・・・・・・・?」

沖は花井をじっと見た。 また顔が変わった。
疲れてるのかもしれない、 と沖は思った。
キャプテンという立場には何かと苦労も多いのだろう。
大丈夫? と聞こうかと思ったところで花井は淡々と言った。

「阿部は偉いな、うん」

言葉と表情が微妙に合ってないような気がしつつも相槌を打つ。

「三橋命だよね」

また引き攣った。 大げさだったろうかと沖は不安になった。
キャプテンは意外と心配性のようだからと付け加えてみる。

「捕手としては普通なんだろうけどさ」
「・・・・・・・・・・・・。」
「やっぱバッテリーがしっかりしてると安心だよな」
「・・・・・・・そうだな」
「花井も三橋については阿部に任せてられるから、楽なんじゃない?」
「・・・・・・・ははは」

力のない笑いの後につぶやかれた言葉は小さ過ぎて
沖の耳には届かなかった。
やっぱり疲れているようだ、と沖は思った。












                                       オマケその2 了

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                                                  「普通、だったらな・・・・」