嫉妬 -1






     
今日もいい天気だなー・・・・・・・

古文の授業中先生の講釈は適当に流しつつ、校庭を眺めているのは阿部である。
ぼーっと見ているようで、実はさっきから1人の人間だけに焦点が合っているわけだが、
本人はあまり意識していない。

校庭では9組の連中がマラソンの真っ最中だった。
ばらけながらだらだらと校庭を回っている。

    
・・・・・あいつも頑張ってんじゃん。
    あいついろいろトロいけど、妙に根性ありそうだもんなうん。

ほのかに顔がニヤついているのだが、本人は気がついていない。                

    
こうして遠目に見てっとやっぱあいつ色白いな。
    髪も茶色いし、全体的に色素が薄いんだな・・・・・・。
    日に焼けても赤くなって色が定着しないタイプだな。
    真夏はきついだろうなぁ・・・・・。

その 「あいつ」 が2〜3歩よろけたかと思うと、つんのめるようにして転んだ。

「あぁ!!!」
「どうした阿部。」

    
あ、しまった声出ちゃった

「いえ何でもありません先生。 すみません。」

教師の胡散臭げな視線を意識して一応教科書に没頭するふりをする。
が、顔の左半分がうずうずする。  見たくて気になって仕方ない。
教師の講釈が再開するやいなや、また先ほどの場所へと視線を走らせた。

    
・・・・・・・誰だあいつ・・・・・・

知らないヤツが三橋を助け起こしている。  そこまではまあいい。

 
   ・・・・・・・なんで肩なんか抱いてんだよ
    何話してんだよ   大丈夫か? とかナントカ言ってんのかな
    もういいだろさっさと離れろよべたべた触ってんじゃねーよこの

そこまで考えて阿部はハタと我に返った。

 
   別にむかつくこたねえんだ。
    ・・・クラスでもちゃんと友達できたんだな・・・・・・。
    ・・・・・いいことじゃねーか・・・・・・。
    怪我とかしてねぇだろうな大丈夫かなあいつ・・・・・・・・・

幸い大丈夫だったようで立ち上がった三橋はまた走り出した。
その、クラスメートといっしょに。

    
・・・・・だからいいことなんだってば。

いいこといいことと心の中で念仏のように繰り返す阿部の顔は、
眉間にしわが寄ってたりするのだが、自分ではこれまた全然自覚していない。

 
   田島は何やってんだ田島は。
    あーあんなとこに・・・・・あいつもマイペースだよな・・・・・。
    三橋といっしょに走れよおまえ。
    知っているやつのがまだずっとまし。

思考が若干おかしな方向に行っているが、もはや我に返ることはなかった。
じりじりしているうちにやっと校庭では集合の笛が鳴った。
ぞろぞろ集まりだす9組連中をホッとする気持ちで眺めていたら。

「あ、・・・・おい!!!」 
ガタ!! という大きな音とともに教師の怒声も上がった。
「だから何だ!? 阿部!!」

 
   何であのヤロウまた肩なんか抱いてんだよもう転んでないぞ
    理由がねえだろ三橋も嬉しそうにへらへらしてんじゃねーよこのやろう!!!

「阿部っっ!!!」
「は??」
「は? じゃない!!」

気が付いたら教師の鬼のような形相が目の前にあってのけぞった。

 
   しまった・・・・・・・・。  てかオレまた声出してた? 気が付かなかったぞ。
    おまけにオレいつのまに立ったんだろ。
    さっき ガタって音がしたのオレが立った音? もしかして。

「阿部は今日やったとこ次回までにまとめてこい。 宿題だ。」

    
え〜〜〜!!!

内心で叫んだもののもう後の祭なので大人しく  「わかりました。」  とだけ言った。
散々な授業だった。


そして少し離れたところで花井がひっそりとアタマを抱えていたのにも、
阿部が気付くことはなかったのである。











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