嫉妬 -2




「あーやっと部活だぜ!」

授業は午前だけで午後いっぱい部活ならいいのに  とか何とか
言ってもしょうがないことをぼやきつつ、
それでも花井や水谷とともに部室に向かう阿部の足取りは軽い。

今日の授業は特に・・・・そうだ古文が最悪だったな  と考えながら、
とにかく今からがお楽しみと部室に入るが、相棒の姿はまだなく
少々肩透かしの気分になりながらも着替え始めた。
わざとゆっくり着替えていたら田島と、続いて三橋が入ってきた。
栄口や泉も来て、部室の中は一気に賑やかになった。

「うーっす」
「よお」
「おせーぞ」

挨拶が交わされる中、早い者はどんどん外に出て行くが、
阿部は着替えが終わっても三橋の近くのイスに座って待っていた。

(・・・・あれ? もしかして阿部くん、オレのこと・・・・ま、待ってる・・・・のかな・・・・・)

気付いた途端に三橋の手は却って覚束なくなった。

(早くしなきゃ・・・・・)
(何だかものすごく睨まれている気が・・・・・!!)

痛いような阿部の視線を感じながら、三橋は焦った。
が、それは気持ちだけでいかんせん手のほうがおっつかない。
ばかりか焦りと緊張のせいで、いっそうもたつき始めた。
三橋にとって阿部に嫌われるのは、投げられないことの次に恐れていることなのだ。

しかしながら阿部のほうは全然別のことを考えていた。

(やっぱ色白いな・・・・・・)

自分の思考内容が微妙に危ないことに気が付きもしないで
食い入るように三橋 (の後姿) を見つめる阿部の様子を、
少し離れたところで花井はぐったりした気分で眺めた。

(阿部・・・・・・・・。
 おまえ三橋を無駄にビビらせてるぞ・・・・・・。 気付けよ・・・・・・)

花井は (さっさと着替えて早く行こう) と思いつつ
三橋の手があからさまにわたわたしているのを見て、
助け舟出したほうがいいか でも下手なことをやって
この無自覚タレ目男に睨まれるのもイヤだしどうしたものか、
などと一瞬の間にいろいろループしているうちに。

何をどうしたのか三橋が滑って後ろに転びかけた。

「ひあ?!?」
「!!!」
「危ない!!」

次の瞬間には、三橋はきちんと阿部の腕に支えられていた。
それはそれはもうがっちりと。

「なにやってんだよおまえ」
「あ・・・あぅ・・・・・・」

三橋は目を白黒させて口をぱくぱくしている。 びっくりしすぎてしゃべれないらしい。

「しょうがねーなおまえは・・・・」

文句を垂れながらも阿部の目がどこか笑っているのを、
花井はしっかり見てしまい、またもげんなりした。

(大体着替えているだけで何でまた転べるんだよ!)
と花井は呆れたが、まぁそこはそれ三橋だからと納得する。 (ことにする)

「ごごご、ごめん。 阿部く」
「いいよもう」
「・・・・・・あ、あべくん」
「なに」
「も、もう・・・・・・大丈夫・・・・・だか、 ら」
「うん」
「・・・は・・・・・・・離して・・・・」
「あ、そっか」

阿部はそこで始めて気が付いたみたいにやっとで三橋を離した。
さらにあろうことか  「おまえ危なっかしいからオレがやってやる」 と
三橋の着替えを手伝い始める始末。
その時点で花井は  (もう出よう・・・・)  とそそくさと退散を決めこんだ。

一方で三橋は  (また、呆れられた・・・・・きっと・・・・) と内心で激しくうろたえていた。 
おどおどびくびくしながら阿部の顔色を窺ってしまう。
しかし阿部は三橋のボタンを手際よく留めながら、ここでも全然別のことを考えていた。

(・・・アンダー着る前だったらな・・・・・・・・・この白い肌に直接・・・・・)

もう言い訳しようもなく危ないことを考えながらさらに

(オレは転ぶ前にちゃんと受け止めたぜざまーみろ
 こいつの世話はやっぱりオレが一番務まるんだぜ!)

と 鼻息も荒くニヤリと笑ったのであった。
それからふと思い立ち、きっぱりと命令した。

「おまえな、オレのいないところで転ぶなよ!!」

そして、わけがわからない三橋が怯えながらも
「ははははい!」  と頷くのに、また満足そうに笑ったのである。









                                        嫉妬-2 了

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                                                  根に持っていた。