告白(前編)





もう我慢できない。

ある日オレはそう思った。

あいつにちゃんと言おう。 好きだって。

ずっと想ってた。 随分前から。
いつもあいつが欲しかった。

最初は笑顔が見たいって思ったんだ。 幸せそうな笑顔を。
もちろんあいつだって時々は笑っていたけど。
そのうち気が付いた。
「オレ」 が笑顔にしてやりてぇんだよな・・・・・・・・・

気付いた最初の頃は絶対に言えない、と思ってたんだけど。
諦めよう、とか考えたこともあったんだけど。
それにもしかして自分の一時の気の迷いかも、とか思おうとしたこともあったんだけど。
だって男だもんな・・・・・・・・・。
オレってホモじゃねーはずだし、いき過ぎた友情を勘違いしてんのかな、とか。

でもやっぱ勘違いじゃねぇ。
いつまで経っても消えない、あいつへの想い。

隠してんのももう限界ぽい。
2人きりでいる時とか、引き寄せたい衝動を抑えるのがすっげー大変で無駄に疲れる。

下手に言って避けられちゃったりしたらどうしようという恐怖でずっと言えないできたけど。
このままの状態でいるほうが耐えられねぇ・・・・・・・・・

あいつがオレのことどう思ってんのかわかんねーけど、
懐いてくれているのは間違いない、から
全然全く望みがない てわけでもないような気がするし。
・・・・・・・ダメな確率のほうが高いのはわかってっけど。

・・・・ダメでもいいんだ。
あいつの性格を考えると、それでいきなり絶交、とかはないと思うし。
最初はダメでももしかしてそのうち・・・・・・て可能性もあるだろ。
意識してくれたらひょっとしたらいい方向に転ぶかもしんねぇし。  とにかく。

オレはもう限界なんだ。
想いが溢れそうになって苦しいから。
とっとと言って、楽になっちまいたいんだ・・・・・・・・・



そんなことを悶々と考えてオレは心を決めた。  告白しようと。

なので、いつ言おう、と虎視眈々とチャンスを探し始めた。

なのに。

ちょうど決心を固めたそのあたりから、三橋の様子が変になった。
変、てか。 もっと明確に言うと、オレを避けてる ような。

最初は気のせいかな、と思ったんだけど。

たとえば、すっげえ小さいことだけど部活中にナンか食うときとか
前は必ず近くに座っていたのに、最近はいなくて、きょろきょろ探すと一番遠いあたりにいたり。
いっしょに帰ろうと待っていたのに、「用事があるから」 とか何とか言って
走っていっちゃったり。 (アレはちょっとキズついたぜ・・・・・・)

さっぱりわけがわからない。
決心した直後だったこともあって結構堪える。
せっかくの決心が鈍るのも困るし、それ以前に単純にしんどい。

なので、もう本人に理由をはっきり聞くことにした。







○○○○○○

三橋が鍵当番の日、オレはわざとのろのろと帰り支度をした。
他の連中が全部いなくなるくらいまでゆっくり。  それこそ三橋よりゆっくり。
あいつは帰るに帰れない。
ちらちらと顔を盗み見ていたら、だんだん青くなっていくのがよくわかった。

何なんだよクソ・・・・・・・・
今日ははっきりさせてやるぜ・・・・・・・・

他に誰もいなくなってからようやく全部終わらせて、正面から三橋を見た。

「三橋」

声をかけたら露骨に、体が揺れた。
だからキズつくんだってば!!!

「・・・・・最近、オレのこと避けてるよな。」
「・・・え・・・・・・」
「何で?」
「・・・・・避けて、なんか」
「嘘つけ」
「・・・・・・・・。」
「オレ何かした?」
「・・・・・・・・。」
「言ってくんなきゃわかんねぇよ。 いっつもそう言ってるだろ。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「三橋!」

焦れて少し声が荒くなった。
三橋がまたびくっとして一歩後ずさった。
その怯えた様子を見た途端にオレの中の何かが、小さく切れた。

ゆっくりと三橋に近づく。
あいつはますます後ろに下がった。  バカだな。 後ろは壁だぜ。

オレは三橋を壁まで追い詰めて両手を壁について逃げられないように囲い込んだ。
三橋の顔が真っ青になった。

そんな顔すんなよ。 悲しくなるじゃねーか・・・・・・・・・
それに。
襲いかかりたくなんだけど。 ものすごく。
もちろん、そんなことしねぇけど。
今までずっと大事に想って我慢してきたオレの忍耐 (あんまねぇのを振り絞ってさ) を
ここで台無しにするわけにはいかねぇんだよ。

「なぁ、怒ってんじゃねーんだ。」
「・・・・・・・。」
「知りたいだけなんだよ。」
「・・・・・・・。」
「頼むから言ってくれよ。 黙ってちゃわかんねーだろ。」
「・・・・・・あ・・・の・・・・・」
「うん。」
「・・・・ごめ・・・・・」

ごめ?  ごめんって言いてぇの?  何が?

わからなくて、ちょっとボケっと考え込んでいたら。

体に衝撃を感じた。

え?   と思った時はオレは無様にも後ろに尻餅をついてた。
いってぇよ!!

なんて痛がっている場合じゃねー! と気付いて目を上げた時はもう三橋はドアに手をかけていた。
次に 「ごめん、なさい!」 と声がしたと思ったらその直後にはいなくなってた。

文字どおり呆けてしまった。

えーと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
つまり。

あいつ、  オレのこと。
突き飛ばしやがった・・・・・・・・・・・・・・・・?
そんで逃げちゃった・・・・・・・・・・・・・・・・?

すぐ追いかけようと頭では思ったけど、オレはしばらく立つこともできなかった。
追いかけたら誰が鍵閉めんだってのもあったけど (あいつ忘れて逃げやがって)。 それよりなにより。

ショックで。

だって、いくら何でも露骨すぎる。
避けるなんて生優しいもんじゃねぇじゃんよ・・・・・・・・・。
ホントにオレ、何したんだろ。 あいつに。
最近はそんなに怒ってねえし。 マジで思い当たることなんて何にも・・・・・・・
それに 「ごめん」 と言ったところを見ると
オレが何かしたんじゃなくて、あいつが何かしたってことか? オレに謝るようなこと。
何も、してないと 思うけど。

そこまで考えてオレは 「あ」 と気が付いた。
まさか。

もしかして。

オレの気持ちが   バレた・・・・・・・?

そんで、避けてる・・・・のか・・・・・?

その、可能性を思いついた途端にもうそれしかないような気がした。
だって他に思いつかねー・・・・・・・・・
それで困って、とか キモチワルイ とか思って、逃げてる、のかも。


一大決心して告白しようと思ったのに。
言う前から失恋確定かよ。



オレは部室の床にへたり込んだまま、真剣にしばらくの間立てなかった。













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