告白(後編)





そんなわけでオレの告白計画はとりあえず棚上げになっちゃったんだけど。
てかもうどうやらダメってわかったし、棚上げというよりはお蔵入り、なのかな・・・・・・・・・。


その後も三橋はオレを微妙に避け続け、オレはもうしんどくて死にそうだった。
何でバレちゃったんだろ・・・・・・・
そんなに顔に出てたかな。
なるべく意識して隠してたのにな。
オレの誕生日にあれだけのボケをかましたくらい鈍いあいつなら
多分気付かないだろうってくらいには。

そんなことをぐるぐる考えながらしばらくは我慢していたんだけど、
三橋の態度は一向に戻らねぇし、オレはだんだんつらくてやってらんなくなってきた。

やっぱ言おう。
せめて避けるなって。
オレ、あいつがイヤなら何も無理強いしようとかいう気はねぇんだから。
ちゃんとそう言って、わかってもらおう。
そうでないとオレもうちょっとヤバい。
何がどうヤバんだかよくわかんねーけど。

こんな生殺し状態よりは白黒はっきりしてもらえたほうがずっとマシだ。
それにあいつ最近全然笑わねぇし。
・・・・・・オレはさ、そもそもあいつの笑顔が見たくて。
その笑顔にさせてやるのが一番にオレでありたかったワケなのに。
笑顔にさせるどころか奪ってんじゃシャレになんねーよ。

そう思ったらオレは少し、いや、大分切ない気分になった。
けど、仕方ない。 失恋すんのは最初から覚悟のうえだったし。

仕方ねぇじゃん・・・・・・・・・・。







○○○○○○

オレはまた言う機会を探し始めた。
でも部活の間は周りに誰かいるし、2人きりになりたくても三橋が逃げ回っているせいで
なかなかチャンスがない。
電話すればいいんだろうけど、オレにとっては大事なことなんだからできれば直接言いたい。 
長い間想ってきたのに。   声だけで振られるなんてあんまりだ。
それに三橋は口下手だから、表情を見てないとわからないことも多い。

と思うのに、機会を見つけられない。
最初に避けられ始めてからかれこれ3週間近くも、経つような。
いつまで続くんだこの生殺し状態・・・・・・・・・・。



そんなふうに悶々としていたある日、
練習が終わって帰る途中で教室に忘れ物をしたことに気が付いた。
それがないと明日までの課題ができない。  ダルいけど諦めて戻るしかない。
仕方なくまた学校まで取って返した。




教室に入るなりオレはぎくっとして立ち止まった。

もう薄暗くなって誰もいないはずの教室に、人がいたからだ。

三橋だった。

しかも、オレの机のところにいて、手には何か持っている。
その何か、をオレの机の中に入れようとしているように見えた。

けど、びっくりして固まっているオレに気が付くと三橋はそれこそ
ぎょっとしたように飛び上がった。
それからやにわに走り出した。
教室のもうひとつのドアのほうに向かって。

今度こそ、間髪入れずに動いた。

速攻で廊下に飛び出して、逃げ道を断とうとした、けど間に合わなかった。
走り出た三橋はオレより素早くそのまま廊下を全力疾走し始めた。

もうショックを受けてる場合じゃねえ。
千載一遇のチャンスとばかり、胸の痛みはこの際無視してオレも全力で追い始めた。

距離はなかなか縮まらない。
あいつ、とろいくせに逃げ足だけは速いんだよなまったく!

三橋が階段を下に降りずに上に向かって駆け上がり始めた時 しめた、と思った。
これで外には出られねぇ。
あいつ相当動転してんな。
そのせいで冷静な判断ができねぇでいるんだ。

案の定一番上まで行って屋上の扉の前で立ち往生したところで追い詰めた。
屋上へのドアはもう閉まっていて出られない。

・・・・・今日は逃がさねぇぞ・・・・・・。

それでも逃げようとするあいつの左腕を素早く引っ掴んでその華奢な体を壁に どん! と押し付けた。
同時にもう一方の手首も念のため押さえつけた。
これでこないだみたく突き飛ばすこともできねぇだろ。

三橋の引き攣った顔を見ながら、ふとその手に握られているものが目に入った。
さっきオレの机に入れようとしてたやつだ。
見ると、それは手紙みたいだった。
ピンクの封筒のかわいい感じの、女の子っぽいヤツ。
まさか三橋が書いた・・・・ワケねぇな、 こんなデザインの封筒ありえねえ。

「それ、なに?」
「・・・・・・・・。」

三橋は涙目になっている。
でももうこの状況では絶対逃げられないと観念したのか、大人しくオレに掴まれて小さく震えている。

・・・・・だから。
そーゆー顔すんのヤメロって・・・・・・・・・・・・・
我慢すんの大変なんだぜ・・・・・・・・・・・

「なあ、それ、なに?」

もう一度聞いたらやっと口を開いた。

「・・・ごめ・・・・・・・」

またそれかよ。 だから何がごめんなんだよ!

「ちゃんと説明しろよ。」
「・・・・これ・・・・」
「うん」
「阿部くんの、手紙・・・だよ。」

は?     ・・・・・よくわかんねぇんだけど。

「阿部くんの机に入れるの、見て・・・・・」

は?
「誰が?」
「・・・・女の子。・・・・知らない子・・・・」
「いつ?」
「・・・・・もう、大分 前・・・・・・・」
「大分?」
「・・・・さ・・・・三週間くらい、前・・・・・・・・・」
「!!」
「オレ、その子が・・・行った後で・・・取り出して・・・・・」
「・・・・・・・。」
「ご・・・・ごめんなさ、い・・・・」
「・・・・・・・。」
「あ・・開けてはない・・・から・・・」

言いながら三橋はそれをオレに渡そうとした。 (オレに手を掴まれてるから上手くいかなかったけど)
なのでそっちの手を離して手紙を取った。
改めて見たら、いかにもって感じの封筒だ。
中身はわかんねぇけど、果たし状には見えねーしやっぱいわゆるアレ、だろな。
今時古典的な・・・・・・・・
で、誰か知らないけどオレの机に入れたのを、三橋は勝手に取って今まで持ってたと、そういうことか。

「もしかして、それでオレのこと避けてたのか?」
「・・・う・・・・ごめん・・・なさ・・・」

オレは急に身もココロも軽くなったような気がした。 だってさ。
何で三橋がそんなことしたのかってところがこの場合もんのすごく重要なワケだな。 オレにとっては。
そんでその理由は何となく考えなくてもわかるような気が。
自惚れかな。 そんなことねぇよな多分。

オレはとりあえず手紙はポケットにしまった。
遅くなったけど、きちんとお返事はしなきゃだよな。 お断りの。

三橋はでも、涙目でオレがしまうのを見ていた。 だから言ってやった。

「断るにしてもちゃんと読んでからじゃねえと悪いだろ。」
「え・・・・・」
びっくりした顔になった。

「断る・・・の・・・・?」
「断るよ。」
「・・・・何で・・・・」
「オレ、好きなヤツいるもん」   目の前に。

三橋の顔がまたみるみる蒼白になった。
悪いけどオレはその瞬間さらに幸せにミチミチた心境になった。
予感が確信に変わったからだ。

「そ・・・う・・・なんだ・・・」

うなだれた三橋にちょっと意地悪を言いたくなった。
だってな。 オレがここんとこおまえに避けられまくってどんだけしんどかったか、わかるか?

「おまえさ、これ何で取ってったの?」
「・・・・・・・。」

今度はみるみる赤くなった。 と思ったらさらに深く俯いてしまった。
わかりやすいヤツ・・・・・・・・

「なぁ、何でさ。」

重ねて聞きながら、でも本当は言わせる気はなかった。
だって、自分からちゃんと言ってやりたかったから。
言うって一度は決めたんだから。
だから俯いたまま黙り込んでいる三橋にオレはやっと、
ずっと言いたくてたまらなかった言葉を囁いた。


「好きだ。」


三橋はまだ俯いている。
なのでもう一度言った。

「オレ、ずっとおまえだけが好きだったよ。」


まだ顔を上げない。

でもオレは待った。
長いこと待ってたんだからこれくらい何でもない。


やっと三橋が顔を上げてオレを見てくれた。


その顔は、

涙で濡れていたけど。

オレがそうであればいいなと願っていたような
少しはにかんだ、  でも心から幸せそうな



笑顔        だった。















                                                告白(後編) 了

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                                                この後チューしたに違いない。