事件-1





毎日のことだけど 本日の授業終了の鐘が鳴る瞬間 が一番嬉しい。
部活の始まる瞬間でもあるからだ。

いつものようにとっとと支度して花井や水谷といっしょに部室に向かった。
途中9組に寄って田島や泉、それに三橋と連れ立っていくこともあるけど
今日は覗いても3人ともいなかったので先に行ったらしい。
今日のH・Rはいつもより長引いたからそのせいだろう。

なのに部室に着くと田島と泉はいるのに三橋の姿が見えない。
三橋が先に着替え終えて外にいるなんてことはあり得ない。

「三橋は?」

田島がすごく変な顔をしてオレを見た。 何だ?

「阿部が知ってんじゃないの?」






○○○○○○○

その約20分前のこと。


H・Rが終わってざわざわする9組の教室に見慣れない3年生 (と思われるヤツ) が来た。
目ざとくそれを見つけた田島は 「誰だあいつ・・・・・・」 とつぶやいた。
しかも勝手に入ってきたかと思うと、まっすぐに三橋の机に向かい、
もたくさと片付けている三橋に向かって声をかけた。

「三橋くん?」
「へ?」
「ちょっといいかな?」
「え? あ・・・あの・・・・」

とまどっている三橋を見て田島は傍に行こうとした、けど続いての言葉に足を止めた。

「そこで阿部ってやつが呼んでいるんだけど。」 

「あ、・・・・・・は・・い・・・・」

阿部と聞いた三橋は急いで立ち上がっている。

(? 何で自分で来ないんだ? てかあいつ誰だ?)

どこかで見たことがあるような気がするけど思い出せない。
何か、不自然な感じがする。

(誰だっけ・・・・・・・?)

目を瞑って思い出そうとしている田島に、クラスの女子の声 (怒声に近い) が飛んだ。

「田島! あんた今日の当番ちゃんとやってってよね!」 
「げっ」

首をすくめながら田島はうっかり忘れていたギムを思い出した。
今日はその女子といっしょに日直だったのだ。

「あーもう早く行きてーのに・・・・・」

ぶつくさぼやきながらも猛スピードで日誌を書き始めた。
そして見知らぬ3年について廊下に出て行く三橋を目の端にとめながら
(ま、 後で阿部に聞けばいいや)  と思って、 そして忘れてしまった。







○○○○○○
一方三橋は廊下に出たはいいけど、阿部の姿は見えない。
自分を呼んだ先輩はなぜかどんどん歩いて行ってしまう。

「?? あの、」
「あーここじゃないんだ。 別のとこ」

言ったきりまたすたすたと歩き出す。

「????」

三橋は混乱した。 事態がよくわからない。 でもゆっくり考えている時間もない。 
わけがわからないけど、とにかく阿部が呼んでいるのならとそれだけ考え、後を追った。
着いたところは校舎の端っこにある生物準備室の前だった。 
三橋はさらに混乱した。

「・・・・・??」
「こん中」
(何で 阿部くんが、こんなところに・・・・・・?)

全然わけがわからない。 だけでなく、何だかイヤな感じがする。
しかし内心で躊躇している三橋を気にする様子もなく、その先輩は
「じゃ、オレはもういいね。」  と言うなりあっさり引き返していった。
ホっと、 三橋はとりあえず息をついた。

(一応見るだけはしてみないと・・・・・・・・・・)
(いなければ、さっさと戻れば  いいんだし。)

そう思いながら おずおずと中を覗いたけど薄暗くてよく見えない。
2〜3歩中に入ってみた。

「阿部、 くん・・・・・・??」

辺りはしんと静まり返って、呼びかけた声がやけに大きく響いた。 誰もいないようだった。

(待ってたほうがいいのかな・・・・・・・・・・・・)

でも、 と三橋は不安になった。  どう考えても妙だ。  何かの間違いじゃないのか。

(やっぱり、 戻ろう・・・・・・)
そして、支度して部室に行こう、  と踵を返しかけたその時。

「やあ」

後ろからかけられた声にぎょっとして飛び上がった。
振り向くと、同じ委員会の先輩がドアのところにいて入ってくるところだった。
いつか田島にからかわれた、あの先輩だ。

あの後阿部に 「そいつにはホイホイついて行くなよ。」 と
さんざん言い含められて 「阿部くん、考えすぎ」 とか 「田島くんの誤解」 とか思いながらも
一応言われたとおり何となく避けていた人物だ。

「・・・あ・・・の・・・・・」
「あぁ阿部くんね、もうすぐ来るから」

言いながら先輩は後ろ手に すーっとドアを閉じた。

それからカチリと、

鍵のかかる音がした。










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