自覚-2





一瞬目を逸らしてそれからまた大急ぎで目を戻した。

「・・・なんだよこれ・・・・・・」   

我ながら低い声が出た。
三橋はきょとんとしている。 わかってないのか。

自分でも乱暴だと思うような勢いでシャツの襟を掴んで左右に開いた。
首の付け根のところ、肩に近いあたりに付いている薄赤い鬱血の痕が露になった。

頭に かーっと血が上るのが  わかった。

「おまえな・・・・こんなの・・・・付けられ・・・・・・・・・・・・」

てんじゃねーよ!!  と怒鳴りたいのを寸前でこらえた。

「・・・・え・・・なに・・・・?」

三橋はわけがわからないという顔をしている。
本当に気付いてないのか。 でも次の瞬間に 「あ」 という顔をしてみるみる赤くなった。

(思い当たることがあるんだ・・・・・・・・・・。)



オレはその時もう完全に怒り狂っていた。
何に対してかもわからないくらい。
その痕が付いたであろうシーンが勝手に脳裏に浮かんでフラッシュする。
頭がガンガンして冷静にものを考えられない。

夕焼けに染まる三橋の白い肌。
と、そこに付いた薄赤い痕。
そこのとこだけ削り取ってやりたいような凶暴な気分に襲われた。



魔が差したとしか思えない。



「それ消してやろうか。」 

またしても低い声が出た。
赤くなっておろおろしていた三橋はびっくりしたような顔をしてオレを見た。

「・・・でき・・・・るの・・・・?」

オレは黙ってそこに顔を近づけた。
何も考えてなかった。 ただ、無性に腹が立って仕方なかった。

「えっ・・・・・・あ・・・・・・あの・・・・あべ・・く・・・」

とまどったような声が聞こえる。
構うことなく三橋のそこに口を付けて思い切り強く吸いあげた。








三橋が息を呑むのが気配でわかった。
こんちくしょう と何に対してかわからない怒りのままにぎゅうぎゅう吸ってやった。

「い・・・・イタ・・・・痛い・・・・」

弱々しい声が聞こえて我に返った。
ぱっと、慌てて離れた。

(・・・オレ、  今、 ・・・・何やった・・・・・・???)

呆然としながらそこを見てみれば、鬱血は少し大きくなって色も濃くなっていた。 
(うわぁどうしようオレ何考えてんだよ!)  と内心で焦りまくった。 同時に確かに。
ざまーみろ、   と刹那思った。


三橋はと見るとまっかっかだ。   多分オレも真っ赤だ。
お互い真っ赤な顔で数秒黙り込んだ。

(えーと、 何か言わなくちゃ・・・・・)
(とにかく何でもないふりして・・・・・)

「ホラな。 これでそいつの付けた痕は消えただろ。」

オレのになった。 我ながらめちゃくちゃなことを言ってる。

「・・う・・・・ん」
(おまえも納得するなよ・・・・・・。)

呆れてから思い直した。
(いや、してないか。 多分、してねーな。 えーと・・・・・・・・・・・)

「わりぃ・・・・・・」
「・・・や、・・別に・・・・・」
(き、気まずい)

「・・・・・じゃあ・・・オレ帰るな。 ・・・・・また明日。」

言い捨てるなり三橋の返事も待たずに、今来た道を全力疾走で走り出した。
今日はよく走る日だな、 なんてどうでもいいことをちらと考えた。

つまり情けないことにオレは、 逃げたんだ。
逃げながらさすがに
(いくら何でもオレ少し変だろう・・・・・・・・)  と思わないわけにはいかなかった。

自分の気持ちから逃げられる自信は、

あまりないような気がした。











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                                             阿部は恋敵と間接ちゅーしたことに気づいてない。