表面化-1
阿部は三橋の掴めない態度に次第に不安な気持ちを募らせていたから ある日の帰り道に 「映画のチケットがあるから・・・行かない・・・・・?」 とおずおずという調子で三橋に言われた時は、内心で飛び上がって喜んだ。 (もちろん実際には飛び上がらなかった) と同時に驚いた。 三橋が映画。 (に、似合わねぇ・・・・・・。) 野球観戦に誘われるのならともかく映画。 自分も大概似合わないけどそれ以上だ。 聞けば練習のない日曜日 (日曜も通常は練習があるけどたまに休みがある) の 指定席券を2枚もらったのだと言う。 タイトルを聞くと話題作で、阿部も観たいなと思っていたやつだった。 その場で自分の分のチケットを渡されて、阿部はニヤつく顔を抑えるのに苦労した。 (これってデートだよな・・・・・・。) ハタから見れば違うけど自分たちにとっては立派なデートだ。 終わってからもいっしょに遊べるしなと 照れながらも気持ちがウキウキするのを止められない。 何より三橋から誘われた、ということが嬉しくて堪らなかった。 当日まで浮かれまくって過ごしたから (花井にこっそり引かれていた) 当日の朝電話がきて 「寝坊したから先に入って席に座ってて」 と言われた時も (デートの日に寝坊すんなよなと 内心ぼやきつつも) 上機嫌で承諾したのだった。 ○○○○○○ そわそわと落ち着かない気分だったので、オレは早々に家を出た。 必然的にかなり早く着いてしまったから、当然三橋はまだ来てない。 席に座って (何か食うもんでも買おうかなぁ) と考えながらも顔が緩んでしまうのがわかる。 我ながら恥ずかしいな とは思うけど、嬉しいもんは嬉しいんだからしょうがない。 (早く来ねぇかな・・・・・・・) 浮き立つような気分で待っていたら、知らない女の子が隣にやってきた。 そして、 あれ? と思っているうちに座ってしまった。 不審に思って見ると軽く会釈された。 そういえばどこかで見たことあるような気もする。 (・・・・・・・・??) 「あの、そこ、人来るんだけど」 当然 「間違えた」 という展開になって去るのだろうと思い込んでいたオレに、 女の子は 「阿部くん」 と言った。 (オレのこと知ってんのか? もしかして同じ学校?) イヤな予感がした。 「ごめんね、阿部くん。 三橋くんにお願いしたの。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「阿部くんて誰の誘いも断っているでしょう。 だからこんな方法しか思いつけなくて。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 今自分は ものすごくマヌケな顔をしてるんだろうなと 思った。 事態を呑み込むのにしばらくかかってしまったのは、 事実を認めたくなかったからだ。 ショックで。 呆然とした後に湧いてきたのは猛烈な怒りだった。 三橋に対しての、だ。 楽しみに、すごく楽しみにしていた自分は一体なんだったんだ。 というかそれ以前の問題だ。 これはいくら何でもひどすぎる。 席を立って飛び出したい衝動に駆られたけど、 「怒った?」 という女の子の顔が必死だったのと 三橋へのあてつけの気持ちも手伝って、黙ってそのまま座って映画を観た。 怒りで内容なんか何も頭に入ってこなかった。 終わってからとりあえずいっしょに外に出た。 オレはまだ怒り狂っていたけど、「あてつけ」が意味のないことにも気付いていた。 三橋はやっぱりオレと同じ気持ちじゃないのかもしれない。 それならば三橋にとっては、オレが他の子とデートしようが何だろうが どうでもいいことなんだ。 むしろ上手くいくことを望んでさえいるのかもしれない。 そう思ったら、体中の力が抜けるような脱力感に襲われた。 でも。 女の子が小さな声で 「このあと、お茶でも」 と言いかけるのをさえぎって きっぱりと告げた。 「オレさ、好きなやついるんだ。」 「だからごめんな」 と言い捨てて後も見ずに歩き出した。 かわいそうかな、 と思ったけど変な小細工をしたその子に対しても あまり優しい感情は持てなかった。 ○○○○○○○ 怒りの勢いのままにまっすぐ三橋の家に向かった。 いないかもしれないという不安があったけど杞憂に終わった。 ちゃんと家にいた。 部屋に入るなり、怒鳴りつけたい衝動を抑えて低く言った。 「どういうつもりだよ。」 三橋の顔は真っ青だ。 「・・・・・た・・・頼まれて・・・・・・・・」 「それは聞いた。 そうじゃなくて。」 「・・・・・・・・・・・。」 「何で引き受けんだよ。」 三橋は黙っている。 来る道々、冷静に話さなければと理性を保とうとした。 けど、本人の顔を見るとダメだった。 気持ちがどんどん焦ってくる。 動悸が勝手に速くなる、のがわかる。 胸の辺りにイヤな感じの塊りがあって、苦しい。 断りきれなかったからと、本当はイヤだったんだと言って欲しい。 そう聞けばまだ望みはある。 オレは待った。 祈るような気持ちだった。 早く。 早くそう言ってほしい。 そうすればオレは。 「バカだな」 と言って笑ってやる、ことができる・・・・・・・・・。 なのに三橋は青い顔のまま何も言わない。 こんなに、切望しているのに。 三橋の 言葉を。 「何で黙ってんだよ。 何とか言えよ!!!」 沈黙している三橋に焦りとともに抑えていた怒りが募る。 声が叫びに近くなる。 まずいと思っても止められない。 「三橋!!!!」 焦れて思わず怒鳴ったらびくっと揺れて、少し後ずさった。 その逃げるようなしぐさにずきんと、胸が痛み 同時に 何かが、はじけた。 痛みより大きい怒りの感情に任せて、腕を掴んで力任せに引き寄せた。 瞬間 驚いたように見開かれた茶色の目がちらりと見えた、けど 衝動のままに半ば無理矢理口付けた。 ひどく 凶暴な気分だった。 表面化-1 了(表面化-2へ) SSTOPへ |