オマケ1 (三橋くん視点)






見たくない、と思った。 なのに足が動かなかった。
珍しいことじゃないとわかっているし阿部くんは断るだろうけど
実際にその場面を見てしまうと不安に襲われた。 ドキドキした。


放課後いつものように着替えてグラウンドに向かう途中で
阿部くんの声が聞こえた気がした。
声のしたほうに向かった時は空耳かもしれないと思ってた。
でも気のせいじゃなくて阿部くんは、いた。 しかも1人じゃなかった。
見たことのない女子が向かい側に立っていた。 上級生っぽかった。

どういう状況かなんて、鈍いオレにだってわかる。
阿部くんはまだ着替えてなくて、オレとは逆に部室に行く途中だったんだろう。
見た途端にその場から動けなくなった。
ドキドキしながら聞き耳を立てて 「断ってくれた」 とホッとしたのは束の間だった。

「オレ、好きなコいるし」

どきりと、大きく心臓が跳ねてから必死で思い直した。
あれはきっと断るための口実だ。 だから大丈夫。

でも会話はそこで終わりにならなかった。 相手の女の子がしつこかったからだ。
話し方を聞いてると、阿部くんには合ってないと感じてしまうのはきっとオレの醜い嫉妬だ。
ぐるぐるしているオレの耳に阿部くんの言葉がまた突き刺さった。

「ちゃんと付き合ってっから」

嫌な汗が出た。 でもきっと嘘だ。 嘘に決まってる。
バカの1つ覚えのように言い聞かせていると。

「別の学校のコなんだ」

今度は足の力が抜けた。 嘘じゃないかもしれない。
逃げ出したくて堪らないのに、足が萎えたせいで結局最後まで聞いてしまった。
阿部くんが歩き出したのを見て慌てて、頑張ってその場を離れた。
阿部くんの向かう方向が逆なのが有り難かった。



その後数日間、オレは悶々と悩み続けた。
落ち着いて改めて考えると、やっぱり嘘のような気もする。
けど、本当かもしれない。
あの女の人にその誰かを 「彼女」 と紹介するのかもしれない。

想像すると涙が出そうになる。
欲しくて欲しくて堪らない、阿部くんの隣。
野球以外でも欲しいその位置は、いつまにか誰かのものになっていた。
でも一方で希望も捨て切れない。
だって阿部くんに彼女ができた様子なんて全然ない。
デートとかもしてる時間なんてないはずだ。 やっぱり口実かもしれない。

その希望的推測も大きかったから、練習には支障を出さずに済んだ。 奇跡的に。
阿部くんに聞きたいと思っても、もし恐れた答が返ってきたらと思うと
怖くて聞けなくてぐるぐるするばかりの数日が過ぎた。

そんなだったからその日、まさに阿部くんが「そのこと」を話し始めた時
心臓発作を起こすかと思った。 でも同時にどこかでホッとした。
これで真相がわかる。
「実は彼女できたんだ」 という死刑宣告をも覚悟しながら、手だけは止めない。
探し物をしていたんだけど、そんなことはもうどうでも良くて
ただ不審に思われたくない一心だった。  阿部くんは言った。

「断りきれなくて」

知ってるよ、と内心でつぶやきながら
「ふーん」 と精一杯の演技で返す。
阿部くんの気が変わっていて 「だから付き合う」 と言ったらどうしようと
別の不安まで湧いて、沈みかけたところだったから。

「てことで、そいつに諦めさせるためにおまえ、1日だけオレの彼女のふりしてくんない?」

沈下がぴたりと止まって、真っ先に感じたのは安堵だった。 
良かった。 やっぱり口実だった。
安心のあまり手が止まって、その後一拍してからびっくりした。 
とんでもないことを頼まれたような。

(む、無理・・・・・・・)

そう思ったのに。
ここで断ったら阿部くんは別の人に頼むんだろう。 誰か女の子に。
そしてそのコを 「オレの彼女」 と言うんだろう。 

(そんなの ヤだ・・・・・・!)

それしか浮かばなかった。 他のことは何も考えられなくなって
後先考えずにオレは承諾した。 言ってしまってから青くなった、けど。
そこでぽんと浮かんだことがあった。 ぱっと光が差した気がした。
もうすぐルリが泊まりで遊びに来る。 協力してもらえるかもしれない。
阿部くんに日にちを聞いたら、幸いまだいる日だった。

(ラッキー、だ!)

だからといって不安は消えなかったけど、オレは平気な振りをした。
だってここでオタオタしたら阿部くんは気を変えてしまうだろう。
自分で頼んだのに 「無理だろ」 って言ったってことは冗談だったのかもしれない。
今にも 「冗談だよ、誰か女子に頼むよ」 と言われそうで怖くて、
意識して何でもない顔を作った。 必死だった。
それでも不安が顔に出てるかもと怖くて、具体的な打ち合わせも何もしないうちに背を向けた。
幸い阿部くんは、それ以上反論してこなかった。 ホッとしてから強く念じた。

絶対に、うまくやるんだ。







○○○○○○

早速その日の夜にルリに電話した。
えええ? とすっとんきょうな声が耳に痛くて、
耳から携帯を離してしまったくらいの派手な反応に一気に不安が大きくなった。

『女装って、・・・・・・何で?』
「なんでって・・・・・・・」

少し迷ったけど、オレは正直にざっと事情を話した。
阿部くんがすごーーーく困ってる、と強調したのはちょっと嘘だったけど
それくらいは許されると思う。  ルリは電話の向こうで小さく唸った。

『いいけど、いくら細くても男ってわかっちゃうんじゃないかなあ』

目の前が暗くなった。 頼みの綱なのに。

「そ、それじゃ ダメなんだ!」
『レンレン・・・・』

レンレンって言うな、と文句を言う余裕もない。
声が半泣きになったのは本当に泣きそうだったからだ。
それがバレたかも、と思ってもそれもどうでもいいくらい、オレは必死だった。
オレの様子を察してくれたんだろう、ルリは急に明るい声になった。

『わかった! カバーできそうな服持ってくから!』
「あ、ありがとう」

また湿った声になってしまったけど、とりあえず安心した。
だからその後の2日間、阿部くんが心配そうに聞いてきた時にも
オレは何とか、平気なふりをすることができた。
本当は不安で堪らなかったけど、その役を他の誰かにやらせたくなかった。

そしてルリはきちんと約束を守ってくれた。
服とか化粧道具とかいっぱい持ってきて
「お母さんに借りてきたんだ」 と言ってにこにこと笑った。
何だかやけに楽しそうで、別の意味で不安になったけど。

当日2時間もかけて服だの顔だのをいじられて最後に鏡を見せられた時
オレはびっくりした。 自分じゃないみたいだ。
まじまじと凝視しているとルリが言った。

「レンレン、声は?」
「へ?」
「声どうするの?」
「あ、それは・・・・・・なるべくしゃべらない、ように」
「そういうわけにいかなくなったら?」

突っ込まれてぐっと詰まった。 そうなったら裏声を使うしかない。 
そう言うと、ルリは何か考えるような顔をしてからまたにっこりと笑った。

「練習してみよう!」
「うえ?」

やっぱり妙に楽しそうで、少し引いた。
でも確かに練習はしといたほうがいいかもしれない。
阿部くんが来るまでまだ時間もあるしと、オレは予行演習した。

「ダメ! それじゃ不自然過ぎ!」

ルリの厳しいダメ出しに何度もやり直して頑張ったのは、とにかく上手くやりたかったからだ。
阿部くんの役に立ちたいだけじゃなくて、あの人に諦めてほしかった。
最後にようやっと 「うん、今のなら大丈夫!」 と太鼓判を押されて息をついたところで
玄関のチャイムが鳴った。 






○○○○○○

どきどきしながら迎えたら、阿部くんは妙に他人行儀だった。
それでなくても小さくなかった不安が増した。

「阿部 くん」

呼んだ途端に阿部くんの様子がおかしくなった。
目がまん丸になって、それから口がぱかっと開いた。
次に
顔がびっくりするくらい赤くなった。 もしかして。

(オレだって、わかんなかったのかな・・・・・・)

ちょっと自信がついたんだけど。
その後阿部くんは手で顔を押さえながらオレをじろじろと見た。
何も言わずに頭からつま先まで、ただ見ている。
いつまで経っても見てるだけなんで、オレはまた不安になった。

「へ、変、かな・・・・・・・」

いたたまれなくて聞いてみる。 消えたいような気分で答を待っていると
阿部くんが何か言う前にルリが出てきた。
ルリの自信満々な様子にハラハラしたけど
「どこから見ても女の子だよね?」 という言葉に阿部くんが頷いてくれて、
ホッと力が抜けた。 気を遣ってくれたのかもだけど、それでも安心した。


店に着くまでの間、阿部くんはオレに注意事項を言いながら何だか楽しそうに見えた。
ルリもそうだったし、いっぱいいっぱいなのはオレだけみたいだ。
店に入って席に座ると、一気に緊張が増した。
大丈夫だろうか。 オレは、上手くできるだろうか。

緊張がピークになったところで見覚えのある人がやってきた。
凄い目で睨まれたもんで怖くなって慌てて俯いた。
顔が見えにくいほうがいいからちょうどいい。
声もできれば出したくなかった。
ルリにはOKがもらえたけど、自信がない。 震えてしまうかもしれない。

「あなたさ、阿部くんのどこが好きなの?」

オレに向かって聞かれた時、どうしようと思ったんだけど。

阿部くんとのやり取りを聞いているうちに、だんだん変な気分になった。 もやもやした。
何だろうこの気持ち。
阿部くんには合わない、と最初に感じた印象が強くなっていくだけじゃない。
底のほうからふつふつと、何かが湧いてくる。
これは一体なんだろう。

それから
何故かすうっと落ち着いた。 自分でも不思議なくらい。

「あの、ね」

オレの気持ちを告げる日は多分来ない。
でもこの場では言える。 本音だから演技なんかしなくていい。
阿部くんにとっては嘘でも、オレにとっての真実に精一杯の想いを込めた。

「全部 好き」

言いながら少しだけ泣きそうになった。
でもその人は信じてくれなかった。 嘘なんかじゃないのに。
そう言っても頑として信じてくれない。
また何かがふつふつと湧いてくる。 
さっきと同じ、正体のよくわからないそれは、とても強い。

阿部くんにはいつか恋人ができるだろうけど、この人じゃない。
オレでもないけど、この人でもない。 もっと素敵な人だ。
こんな人、オレはイヤだ。

顔を上げるとその人はぎくりとした表情になった。
オレは今、どんな顔をしているんだろう。

「絶対 渡さない」

本心を言った。 一生言う予定のない本音を演技の振りをして言った。
ズルいと、思った。 オレはズルい。
だって気持ち良かった。
オレにそんなことを言う資格なんてないのに、気持ち良くなったオレはズルい。
でも今だけだから。
今だけはそれが許されるんだから。

(これで、いいんだよね・・・・・)

心で言い訳しながら、また下を向いた。 
その人が明らかに気分を害したのがわかったけど、
これで終わると思ったらやっぱりホッとした。 なのにまだだった。

「じゃあ、今ここでキスしてみせてよ」

とんでもないことを言い出したもんだから、オレの心臓もとんでもないことになった。
阿部くんだって焦ってる。
でも阿部くんが抗議している間、ふいに思った。 魔が差した。
人の見てるとこでなんてイヤだけど、でも。

(この先一生ない、んだから)

ドキドキが増した、なんてもんじゃなくて全力疾走した時みたいになった。
そのせいで頭がくらくらした。 貧血を起こしそう。
でも一度でいいから 阿部くんとキスしたい。
阿部くんはイヤだろうけど、理由も言い訳も揃ってる。 全然不自然じゃない。
この場合仕方ない、と阿部くんだってきっと思う。

「あの」
「へ?」
「・・・・・・・いいよ、しても」

阿部くんの目が丸くなった。 ぶわっと冷や汗が出る。 祈るような気持ちだった。

「・・・・・ほんとに?」
「うん」

気持ち悪いかもしれない。 かもじゃなくて、阿部くんはイヤに決まってるけど。

(して、くれますように)

願いながら目を閉じた。
緊張とか恥ずかしいのとか恐れとか期待とか、いろいろなもんがいっしょくたにどばっと湧いた。
目を瞑ってても目が回りそう。

その時ガチャンと大きな音がして、ぎょっとして目を開けたら睨まれていた。

「わりーけどオレら、帰るな」
「え」

驚いたのは言葉の内容にだけど、それよりも阿部くんの様子にびっくりした。
阿部くんは、怒っていた。 
それもさっきまでとは比べ物にならないほど、すごーく怒っていた。
誰が見てもわかるくらい、顔と声ががらっと変わった。 オレはといえば。

どっと脱力した。
してもらえなかった。
緊張が解けてホッとしたのも本当だけど、がっかりのほうが大きい。

(そりゃ、そうだよね・・・・・・・)

何が悲しくてオレなんかにキスしなくちゃならないんだ。
それもこんな理不尽な理由で。 阿部くんが怒るのは当然だ。
1人でこっそり落ち込んでいると帰るように促されて。

(い、いいのかな・・・・・)

ちらとその人を見て躊躇いが湧いたけど、腕を掴まれたんで立ち上がった。
歩き出す時一瞬肩を抱かれてどきりとした。 
見せるためだとわかってても、嬉しかった。

(オレ、役に立ったのかな・・・・)

いろいろと不安が残ったけど、阿部くんはもうどんどん出て行くんで付いていくしかない。
とにかくオレの役目は終わったようだった。






○○○○○○

外に出たらいい天気だった。 来る時は緊張しててそれすら気付かなかった。
阿部くんはまだ怒ってるだろうか。
おそるおそる顔を見たら意外にも穏やかだったから、少し安心して聞いてみる。

「あ、あの 出ちゃって良かったの?」

途端に笑われた。
うっかりまだ声を作っていたことを指摘されて、恥ずかしくなったけど
阿部くんが笑っているのが嬉しくてオレも笑う。
まだもう少し、いっしょにいたい。
願っていると阿部くんが駅じゃなくて公園に向かったんで、いそいそと付いていく。 でも。

(してもらえなかったな・・・・・・・)

未練が消えない。 だってしてほしかった。
あんなに怒るほどイヤだったってのも悲しい。
ベンチに座ってから阿部くんがねぎらってくれたり御礼を言ってくれたりして、
役に立てたらしいのはすごく嬉しいのに、小さな棘みたいにその「がっかり」が消えない。
それに結局しなかったことで。

「あれで、大丈夫なのか な」
「え?」
「信じない、って言ってた」
「あー・・・・・多分大丈夫」

阿部くんは自信ありげだ。 何でだろう。
でも阿部くんがそう言うならきっとそうなんだ。
ホッとしたと同時にまた棘がちくりと痛んだ。

「ほんとに しても 良かったのに」

ぽろっと出てしまった。
阿部くんがむせた、だけでなく缶を落としたんで、そこで今さら慌てた。
深く考えずに出ちゃったけど、きっと変なこと言ったんだ。
阿部くんはしたくなかったなんて当たり前なのに。

改めて落ち込みかけた時、思いがけないことを言われた。

「・・・・・・震えてたくせに」
「え」
「おまえ、震えてた」

びっくりした。 そんなの知らなかった。
でもそうかもしれない。 だってあの時半分パニックだった。
もしかして、嫌がってると思われたんだろうか。
阿部くんは何か考え考えしながら、ゆっくりと言った。 そういう阿部くんは珍しい。

「なんかさ」
「・・・・・へ」
「違うだろ」
「・・・・・・違うって・・・・」
「だからなんつーか、」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「証拠のため、とか変じゃん」
「・・・・・・・うん」

頷くしかない。  阿部くんの言いたいことは何となくわかるし当然だとも思う。
それでもオレは、してほしかった。
この先そんな機会もうないだろうから。 
それに理由はきっとそれだけじゃないんだ。 気を遣って言わないだけで。

「・・・・・・・気持ち悪い」
「へ?」
「・・・・・とかも あるよね」
「は?」
「オレにするのは」

半分やけくそだった。 自分に言い聞かせるのに疲れた。 
そうだって言ってもらえればいっそすっきりする。 
言葉で言われなくても顔に出るだろうから。

と、思ったのに。  阿部くんはちょっとの間ぽかんとした。

「全然」
「へ」

今度はオレがぽかんとした。

(聞き違い・・・・・・?)

じゃない、今確かに 「全然」 って言った。 

「そう なんだ・・・・・・」

かーっと顔が火照って、あ、マズい と焦ったところでつられたのか、阿部くんまで赤くなった。
わかってる。 阿部くんが気持ち悪くないのはきっとこの格好だからだ。
もしかして、オレはすごく危ないことを言ったんじゃ。

(バ、バレたら・・・・・・)

どうしよう、と汗が噴き出しながらも勢い良く湧いたことが1つ。
イヤじゃないなら、それも全然なら。

今 してほしい。 

この流れなら言っても変に思われないかもしれない。 軽い感じで。 何気なく。

もう変に思われてもいいとすら掠めた。
して欲しくて欲しくて えいっとばかりに口を開けたのと同じタイミングで
阿部くんが何か言いかけた、と思ったら。

「あーらかわいいカップルねv」

びっくりし過ぎて心臓が引っくり返りそうになった。

(そうだった、ここ 公園・・・・・)

忘れてた。 オレって何てマヌケんだんろう。
思い出した途端にすうっと勇気が萎えた。 やっぱり無理だ。
また魔が差した。 引かれちゃったらオシマイなのに。 引かれないわけがないのに。

(あ、危なかった・・・・・・)

胸を撫で下ろしてから気付いた。
さっきのオバさんにも普通のカップルに見えたってことは。

「そ・・・そんなに このかっこ 違和感ない、かな」

今さら情けなくなって聞いてみたら、曖昧に肯定されてしまった。 
喜んでいいのか悲しんでいいのかわからない。 でも。
阿部くんはしても構わなかったんなら、あの時あんなに怒ったのはもしかして本当に。

(オレ、のため・・・・・・?)

嬉しくて、ぼうっとした。 しかもそれだけじゃなかった。

「あのさ、頼みがあんだけど」
「え?」
「写真撮らせてくんねえ?」
「へっ・・・・・・」
「今度またしつこい女がいたら、オレの彼女ってそれ見せっから」

聞き違い? とまた一瞬思ってから次に冗談かな? と思った。
でも阿部くんの顔は真剣だった。 本気でそうするつもりなんだ。

いいに決まってる。 頷きながら嬉しくて堪らない。
嘘でも一時でも阿部くんの恋人になれたうえに、これからもなれる。 話の中だけでも。
恥ずかしかったし緊張もしたけど、頑張って良かった。

「・・・・・・三橋」
「へ?」
「・・・・・・今日は本当にありがとう」

ぶんぶんと首を横に振った。
御礼はむしろ、オレのほうが言いたい。 だって。

阿部くんの役に立てたことが嬉しい。 これからも立てることも嬉しい。 
そして何より 言うなんて考えたこともなかった、
言えないはずの言葉をたくさん言えた。 夢みたいだった。 
きっと一生忘れない。

だからありがとう

と、それも言えないけど代わりに心でつぶやきながら
オレは笑った。













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