ハッピーエンドのその先に(後編)





反射的にドアのほうを見た。
そこには花井と田島が真っ赤な顔で突っ立っていた。 (いや正確には赤いのは花井だけか。)
三橋も2人を見て、こっちりと固まっている。

沈黙が落ちた。

誰も何も言わない。

沈黙を破ったのは田島だった。

「なーんだ。 ははは」

田島は明るく笑った。
時に、こいつの明るさにはホント、救われるぜ・・・・・・・・・・・・
なんてどうでもいいことを考えた。

「三橋、やっぱ誤解だったんじゃん!!」

花井が俯いて腹と頭を押さえているのが見えた。
オレが花井でもそうするだろうな、  とヒトゴトみたいに考えた。
いけね  原因はオレか。

「あ、オレら忘れ物取りにきただけだからさ!」

田島は言うなりずかずかと入ってきて隅っこにあったカバンを取って
(頼むからカバンなんか忘れないでほしい)

「行こうぜ花井!」

元気良く言ったかと思うと花井を引っ張ってソッコーで消えてくれた。
あいつ、やっぱいいヤツだなうん。

友情に感謝しながら三橋を見ると、三橋は今度は真っ赤な顔をしていた。
そうだ誤解は無事に解けたのかな・・・・・・・・・・

「オレ、おまえと別れる気なんてねーぜ」

ダメ押しで言っとく。

「そ・・・う・・・なんだ・・・・・・・・」

三橋がホっとしたように笑ってくれたんで、オレもホっとして嬉しくなって、次に
そうだこれ以上のチャンスはない! と気が付いた。
ここでキスしなくていつするんだ!!!

なのでそろりと、近づいた。
なのに三橋は今度は青くなった。 そして一歩、後ずさった。

なんで? もう誤解は解けたんだろ??
三橋だってオレのこと、そういう意味で好き、なんだろ??

「えっと、 あの、 阿部くん」
「なに?」

三橋が明らかに逃げ腰なのが気に入らないけど、意識してなるべく優しい声を出した。
今日こそキスしたいもん。 キスキス。

「あの、オレ、・・・・・部室、 ではちょっと」
「え?」
「あの、誰が、来るかも、わからない し」

えー・・・・・いーじゃんかよキスくらい!!

思いながらまた黙って近づいた。 三橋は びょんっと飛び上がった。

「お、オレ、したことない、し」
「オレもねーよ」  

言ってから、そうだったオレも初めてだった、 と唐突に気付いた。
緊張するはずだぜ・・・・・・・・・・

「む、む、無理・・・・・・・・・・・・」

顔を引き攣らせながら三橋はじりじりとドアのほうに逃げていく。

「いーじゃんしようぜ?」
「こここ心の準備が」
「そんな大したことじゃねーじゃん!」   キスくらい。

このチャンスを逃すまじ、とオレは必死だ。
もうこの際強行してやる、と三橋の腕を掴んだ、途端に

「わぁっ!!!」

盛大に悲鳴をあげやがった。
同時に思い切り腕を振り解いて、脱兎のごとく走り出ていった。
目の前で ばん!! と音を立ててドアが閉まった。

呆然。

がっくりと、オレはへたり込んだ。   追う気力も出ない。

なんだよ・・・・・・・本当にオレのこと好きなのかよ・・・・・・・・・
キスくらいさせてくれたって・・・・・・・・・・・いーじゃんかよ・・・・・・・・・・・・・・・・


ぐったり思ってぐったりしたまま帰って、
また三橋の夢を見てまたパンツを洗濯して、朝からぐったりした気分のまま登校した。
のろのろと自転車を漕いでいたら、学校に着く前に田島が追いついてきた。
田島はにやにやしながらオレに聞いた。

「昨日さ、あの後やったの?」
「・・・・・・・・できなかった」
「あーそりゃ無理だろうなぁ」
「何でだよ?!」

八つ当たりと自覚しつつも不機嫌な声になっちゃった。
田島はけろりと言った。

「部室でエッチはまずいだろやっぱ。」
「えっ」    待て。
「三橋だしさぁ」

オレそんなつもりじゃ、 と言いかけて 「あっ」 と気付いた。 昨日三橋は。
別の意味でまた誤解したんじゃ。
オレはキスしたかっただけなんだけど。
・・・・・・・・そのちょっと前に叫んだ言葉が・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・まずかった・・・・・・」
「そうそう、焦りは禁物だぜ阿部!!」

だから違う、     と訂正する気も起きない。

また誤解解かなきゃ。
いや最終的には誤解じゃないんだけど。
オレ、三橋とエッチできる日なんて来るのかな・・・・・・・・・・・・
というかその前に。

一体いつになったらオレはあいつとキスできるんだろう・・・・・・・・・・・・・


オレはまたぐったりと考えてしまった。












                                   ハッピーエンドのその先に 了 
オマケ

                                         SSTOPへ
    







                                                さあいつでしょう。