オマケ






その時オレは本当に 「今言おう!」 と考えていたわけじゃなかった。
けど、オレからボールを受け取りながら、ふにゃっと笑いかけてくれたその笑顔が
あんまりかわいくて。
もうオレのすべてを許してくれているような気がして。
口が勝手に動いていた。

「あのさ、昨日の誤解だから」
「へっ?」
「オレ、なにも部室で押し倒そうとしたわけじゃねーから。」
「・・・・あ・・・・・」

真っ赤になって俯いた。

「そ、そうなんだ・・・・・・」
「そうそう。 おまえの早とちりだって」

三橋はオレの言わんとすることをわかってくれたんだろう。
「あ」 とか 「う」 とか言いながら、それでもまたオレの顔を見て頬を染めながら
えへへ、と笑ってくれた。


あ、 今 したい。  キス。


衝動的に手を伸ばしたら、でも素早くかわされてしまった。
(どうしてこいつはこういう時に限って素早いんだろう)

ダメ? ねぇダメ? 今したらダメ?

「三橋・・・・・・・・・・・・・・・」

意識して憂いを込めて呼んでみた。 
同時に想いを込めつつ じーっと熱ーく見つめてみたりなんかして。
その気になってくんないかな・・・・・・・・・・・・

「あ、の、阿部くん・・・・・・・」
「なに?」
「み、みんな、見て、るよ・・・・・・・・・」

え?  と周りを見回した。
野球部の全員がオレを見ていた。
何だかそれぞれいつもより顔が赤いように見えるのはきっと夕日のせいだろう。
中には青ざめている奴もいるようだけど、腹がすいてんだな多分。

冷静に分析してからハタと思い出した。

そうか。 今練習中だっけ。
しかもここはそのど真ん中、マウンドだもんな。
ここでしたらオレは全然構わないけど、三橋は恥ずかしいかもしんねーな。
三橋の嫌がることはしたくない。   嫌われたらヤだもん。

瞬時にそう判断したオレはにっこりと笑って諦めた。 うん、偉いオレ!

「そうだな。 また今度な?」

オレの言葉に三橋もホっとしたように笑ってくれた。
心なしか今度の笑顔は少々引き攣っているような気もしたけどそれは気のせいに違いない。

戻りながらめまぐるしく考えた。

めでたく誤解も解けたことだし、次のチャンスをいつ作ろうかな。
やっぱ練習が終わって皆が帰ったあとかな。
三橋の家に押しかけてもいいけど、それだとうっかり本当に押し倒しちゃうかもしんねーし。
三橋は純情だから、あんまり急ぐと引かれちゃうかもしんない。

・・・・・・・まぁ焦らずに、ゆっくりで いいか。



結論を出しながら     オレって本当に健気だ、

と自分で自分を褒めてやった。











                                               オマケ 了

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                                                    それはどうだろう。