花井くんの疑問-1





最近花井は1日に5回くらい同じ疑問が頭に浮かぶ。
それは

「うちのバッテリーの仲は一体今どうなっているのか?」

であった。

1学期から夏にかけて、とにかくある意味問題の多いバッテリーだった。
阿部はなにしろ短気だし、三橋は性格のせいか中学のトラウマのせいかすぐにビクつく。
結果阿部がさらに怒る。 悪循環だ。
そんな2人も夏を経て2学期が始まった現在に至って随分落ち着いて、
双方それなりに相手の性格に慣れてきたように見える。 むしろ慣れたどころの話じゃなく。

実は仲がいい、 のは間違いないと思う。
それがどの程度のものか。
もっとはっきりきっぱり言ってしまえば、まだ友達なのか
すでに恋人 (という単語を思うと花井は うわぁ恥ずかしい とのたうち回りたくなる) になっているのか
そのへんのことがいまいちよくわからないのである。

そして花井が未だに一番よくわからないのは、
(その前に三橋は一体どうなんだろう)  ということだ。
懐いているのは間違いない。 けど、普通に友情の域のようにも見える。
阿部のことをどういう意味で好きなのか。
三橋は感情が顔に出るタイプだと思うのだが、
出方が普通と違う (ような気がする) ので微妙にわかりにくい。

阿部のほうはもうイヤっちゅーほどよくわかる。
一見クールでポーカーフェイスのようにも見える阿部だが、この件に関してはダダ漏れだ。
多分たまたま自分が同じクラスなため、そういう場面に出くわす機会が多いせいもあるとは思う、
ので他の連中がわかっているかどうかまでは不明としてもだ。

(まだ片思いなんかな・・・・・・・・。)

しかし本人に聞くのは憚られた。
なので主将としても個人的にも (そりゃやっぱ興味あるんである) 知りたい気持ちを持ちながらも、
確認できない日々を送っていた。

そんなある日。

昼休みの屋上にて野球部メンバー4人が何となく固まってそれぞれの昼食を摂っていた。
水谷や栄口が加わることもあるが、今日は阿部・花井・田島・三橋だけである。
よくあるいつもの平和な風景だ。

そしてこののんびりのほほんとした平和を壊すのは、大体において田島であった。
今日も。



「エロビデオをさ」

「ぶはっ!」
「あ〜もうきったねぇな花井!」
「ぶ・・・・・田島がいきなり変なこと言うからだろぉ?!」
「いい加減慣れろよな。 オレはもう慣れたぞ。」
「オレは阿部と違って繊細なんだよ!」
「で、エロビデオがどうしたんだ田島。」

阿部はあくまでも冷静に聞いた。

「中学んときのダチが貸してくれたんだけどさ、オレんちっていっつも誰かがいて見れないんだよ。」

(・・・・・・イヤな予感がする。)
とは花井の内心の声である。 予感は当たった。

「だから花井んちで見ていい?」
「ダメ!」
「何で!」
「妹がいんの!2人も!」
「じゃ阿部」
「お断り。 うちも大体弟がいるし。」

その時点で三橋がこっちりと固まった。  3人の視線が三橋に集まる。

「み」
「ダメだ!!」

田島が一文字しか言わない段階でにべもなく断ったのは阿部だった。

「何でだよー! 阿部!」
「ダメなもんはダメ。」
「何だよ横暴!!! つーかその前に何で阿部が口出すのさ。
 オレは三橋に頼んでんだよ!な! 三橋!」

「う。  あ、 あの。」
「ダメだよな三橋! オレがダメって言ってんだぞ?」
「う」
「だーかーら阿部は黙ってろよ!」

気の毒に三橋は2人の間でパニックになっている。
花井は三橋に深く同情しながらも、思わず心中 (お!) と唸った。

(阿部のこの言い方・・・・・・・・
 やっぱりもう恋人なのかそうなのか??)

もっと聞いていたい気もしたが、白目をむいてあわあわしている三橋に
長男体質の血がうずき、つい助け舟を出してしまった。

「そんなことよりさ、9組の林とうちのクラスの吉井って付き合ってんだってな」
「マジ!?」
「へぇ・・・・・・」

いささか強引な話題転換だったがあっさりくいついてきた。
そこはそれ、自分たちだってお年頃なワケだし、知ってるヤツの恋愛事情にはやっぱり興味を隠せない。
話題が逸れて、あからさまにホッとする三橋を横目で見つつ花井は苦笑した。

(オレってそんなにお節介じゃないはずなんだけどなあ・・・・・・・・・) 

「あーいいなーオレも彼女欲しいなー」
「オレ別にいいや時間ねーし。 面倒くせぇ。」
「へえぇ。 阿部って変なやつぅ。」

(おっと、今度は彼女不要発言。 やっぱきっとそうなんだ。
 こいつらもうデキてんだ・・・・・・・・。)

花井が内心こっそりと日頃の疑問に回答を出そうとしたその瞬間。

それまでずーっと黙っていた三橋が小さな声で、でもはっきりと言ったのである。

「阿部くん・・・て・・・彼女・・・・いない、の?」
「「へ?」」

ハモった。   阿部と花井である。

「いねーよ。」
「ふうん・・・・・・・・。」

花井はまさに出そうとしていた結論を一度引っ込めた。

(何だ? 今の?  カモフラージュ・・・・・て感じじゃないよな・・・・・。
 そんな器用なことこいつできねえだろ・・・・・。  てことは。)

「まだなのか・・・・・」
「何だよ花井、まだって」
「あ? オレ今そんなこと言った?  あーごめん。  何でもない何でもない。」

ひらひらと手を振って曖昧に笑った後、物思いにふける花井を深く追求することもなく
ここでまたも田島が爆弾を落とした。

「そういえばさ!  三橋って男にもてるんだよね!」

「!」
「ひぁ?!?」
「何だとぅ!!?」

(ななな何てこと言うんだよ田島ぁぁっっ!!!!)

花井の絶叫は心の中だけでなされたので誰にも聞こえなかった。











 

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                                     田島最強