花井くんの疑問 -2





「何だよ男にもてるってどういうことだよ!!」

阿部が怒鳴った。
膝立ちになって、今にも田島に掴みかからんばかりの勢いである。

「えーだってさ、な、三橋!」
「そうなのか三橋! え! どうなんだよ!?!」
「ひぃっっ」

かわいそうにまたもや三橋は目を白黒させて目をうるませている。
一難去ってまた一難。

(気持ちはわからないでもないけど)
「ちょっと落ち着けよ阿部」

前半部分は心の中でつぶやきながら、かろうじてフォローを入れる花井だが、
田島の言葉の根拠を知りたい気持ちはある。
いやむしろとても知りたいぜひ知りたい、ので今度は話題転換する気もなく
阿部といっしょになってじいっと田島を見つめた。

通常の人間ならマジでビビるであろう突き刺さりそうな鋭い視線 (と好奇心丸出しの視線) を受けて
全然まったく動じないのは田島が通常の人間ではないからである。

「えーだからさ、2年? あれ違った3年かな?
 まぁいいやとにかくナントカって先輩がしょっちゅうオレらのクラスに来るんだよ三橋に会いにさ。」
「へ、えぇ〜〜」
「本当かよ三橋!!」

うっかり、花井はびびった。
(・・・・・・・・・今阿部の目 光んなかったかギラって。)

「え。 あ、 ・・・・あれ、はちが・・・・・・。 いいいい委員会の人・・・・で・・・・・」
「委員会ぃ? それが何の用で来るんだよ!」
「だ・・・・だから連絡事項・・・・とか」
「毎日?!!」
「だから阿部少し落ち着け。 泣いてんだろ三橋。」
「おまえは黙ってろ花井。」  
(ひぃこえぇ)

じろり、 という擬音が聞こえるような阿部の視線に花井は首を竦めた。

「毎日連絡なんてあるはずねえだろ委員会なんかで!!!」
「ひっ   う。 や、  だから。」
「だからさ、連絡とか名目つけて三橋に構いに来てんだよ
 あれぜってー三橋に気が、いってぇ!!! 何すんだよぉ花井!」
「田島おまえはもう黙れ。」
「何で!」
「何でも!」
(つってももう遅いけどな・・・・・・・・)

「そんなヤツ断れよ!!」
「え、  う、  あ」

(いやまだ何か言われたわけじゃないんじゃ。)  なんてことはもう、口には出さない花井である。
三橋はもはや言葉が文章にならないくらいパニくっている。 三橋にはよくあることだが。

(田島のバカヤロこの状態にどう収集をつけろと)
と頭を抱えかけた花井はしかし、次に阿部が放った言葉を聞いて仰天した。

「付き合うならまともに女にしろよな!!」

「えぇぇえ!!!!」
「「何だよ花井。」」

またハモった。 今度は田島と阿部である。
しかし花井は驚きすぎて、もはや心の中だけにとどめておくのも忘れて阿部に向かって聞いた。 
というより叫んだ。

「いいのか?!」
「は?」
「それでいいのか阿部??!!」
「・・・・・・・いい・・・・・・に決まってんだろ。」
「・・・・・え・・・・・・」
「三橋に好きな子できたらオレ協力してやるよ。  な、三橋?」
「い! あ・・・あああありがと、 う。  阿部、くん・・・・・。」
(マジかよ・・・・・・・・・・・・)

花井は呆然としながらも忙しなく考えた。
自分の気持ちがバレないようにごまかしたんじゃないだろうか。

(三橋と違ってこいつならやりそう・・・・・・。
 あれだけ垂れ流しておいて今さら無駄な努力だけどな。
 いや待てよ。
 でもそれじゃあ肝心の三橋にも伝わらないじゃんそうだよ。
 ・・・・もしかして両思いになるのはもう諦めちゃってる・・・・とか?
 男どうしだから?   だから三橋に誤解されても構わない・・・・とか?)

そこでふと、花井の脳裏に恐ろしい可能性が掠めた。

(それとも)

(まさか)


(まさかと思うけど。   このタレ目)



(自  覚  し  て  い  な  い  の  か ・・・・・・・・・・・?)





「何か顔色悪いぞ花井。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「どしたの? 皆急に黙っちゃって。」


(田島以外の) 奇妙な沈黙が落ちたところで昼休み終了の予鈴が響いた。
4人は我に返ったようにそれぞれの弁当を片付け立ち上がった。

そして  「午後の授業ダリー」  とぼやく田島の後をよろよろ歩きながら
花井は随分前からすっかりお馴染みになった習慣に従った。


つまり、

「深く考えないようにした」  のである。












                                        花井くんの疑問-2 了(オマケ  
阿部の心の声

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                                                   そのまさか。