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「彼女が泊まりに来てくれて、一生忘れられない誕生日になったんだ」
とだらしない顔で惚気ていたヤツ、あれは誰だっけ。
合同体育の時間だったから、あの場にそういえば田島もいたかもしんない。

オレはそんなもん望んでない。
というかそんな段階じゃない。
欲しいのは三橋からのお祝いの言葉だけで、それ以上のことなんて望んでない。
完全完璧片想い、というのが現状の今 「おめでとう」 の一言で
オレは幸せいっぱいになれるんだ。

でもじゃあ体が欲しくないかといえば、それはウソになる。
欲しいに決まってるわけで、だから今の状態は狼と兎が1つの檻に入っているようなもんで
危険なこと極まりない。
三橋にとってだけじゃなく、オレにとってもだ。
何故ってオレが一番怖いのは三橋の信頼を失うことと嫌われること、だからだ。

とにかく起こせばいいことだ。
それはわかってる。 2人きりの密室だけでも相当ヤバいけど
三橋が起きればまだマシのような気がする。 オレの理性の糸が切れにくくなるからだ。

とあれこれ頭では思うものの。

理性どおりに体が動かないのは何故だろう。
三橋の寝顔が信じられないくらいかわいいからか、はたまた腹を思う存分眺めたいからか。

(両方だろうな・・・・・・・・・)

己の心理状態を無駄に冷静に分析する。
三橋の着替える様子なんて自慢じゃないけど全然見れない。
以前は平気だったのに、自覚してから見れなくなったのはもちろん、体の都合ってやつだ。
トコロ構わず状況お構いなしな自分の愚息に何度ため息をついたかわからない。
見たいのに見れないジレンマが、毎日毎朝毎練習前毎練習後に襲い来る日常にあって、
今のこの光景をもう少し長引かせたいと願うオレを責められるやつがいるだろうか、
いやいない。

顔だってそうだ。 
寝顔を見る機会は多くはないし、たまにあっても1時間も見惚れたりしたら
ハタから見たら変だろう。
別に周りにはバレてもいいんだけど、第三者の口から本人にバレて
引かれてしまったら人生終わるってくらいオレは三橋に惚れている。
だからとにかく、ヘタなことはできないんだ。

等々考えると、すぐに起こすのはやっぱり勿体ない。
しばらく目の保養をしたってバチは当たるまい。
問題なのは目の保養だけじゃ済まなくなって、うっかり体の保養もしちゃいたくなることだ。 
本人に知られて嫌われるのが一番怖いのに、オレの手はさっきオレを裏切って
ふらーりと腹のほうに伸びていきやがった。 危なかった。
あそこといい手といい、どうしてオレの体はオレの言うことをちっとも聞いてくんないんだろう。
オレはどこか異常なんじゃないだろうか。

自分 (の体) が信用できない以上、腹に触るだけならまだしも、
その感触に何かがブチ切れてそのまま不埒な行為に及ぶことは絶対ないなんて
絶対言い切れない。
嫌がる三橋を押さえつけてあれやこれやいたしちゃって、
ヤバいと思いながら止まれない自分がリアルに想像できる。

と、実際の場面を想像して熱くなりかけてから慌てて、
そうした場合の翌日の情景を考えてみた。
目を合わさないどころか、オレに対して嫌悪の表情を浮かべながら
泉の背に隠れる三橋。 一巻の終わり。

ひやっと冷水を浴びせられたような心地になって、熱しかけていたトコロはソッコー収まった。 
ホっとしてから次に怒りが湧いた。
これが田島曰くの誕生日プレゼントなのは明らかだけど、あまり有り難くない。  
つーか 全 然 有り難くない。
田島はオレが三橋を襲うと踏んだんだろうが、嘗めてもらっちゃ困る。
三橋の嫌がることをオレがしたいわけないだろうがくそっ

(あのバカヤロウ・・・・!!!)

ムカムカしながらもオレは三橋から離れた隅っこに移動して、壁にもたれて座り込んだ。
もちろん腹と顔がよく見える位置にすることを忘れない。
体が勝手に動き出さないように両手で膝を抱え込んで万全の体勢を作ってから、
じっと見惚れる。
さながら目の前に極上のステーキがあるのに匂いしか嗅げない、ような状況に
幸せより不幸のが若干勝っているような気もするけど、
存分に見られるのはやっぱり嬉しかった。  前言撤回して田島に少しだけ感謝する。

ちょっと落ち着いて見回せば、呆れたことに隅っこに普段はない毛布と枕まで出現していた。
一体どこから調達してきたものかは知らないが、
つまりは本気でここで一晩過ごさせようという魂胆なのか。
枕は2個なのに毛布が1枚って辺りが露骨だ。
田島のぶっ飛んだ思考回路にはやっぱりついていけない。

その田島と仲のいい三橋に惚れたオレは無謀以外のナニモノでもないと
改めて思うものの、恋なんてそもそも計画的にするもんじゃないんだから仕方ない。
気付いたら好きになってたんだ。
傾向も対策も防護策も立てるヒマなんかなかった。

実は恋じゃないんじゃねーの  なんて抵抗は空しいだけなのもすぐにわかった。
行き過ぎた友情はどんなに行き過ぎても、キスしたいとは思わないだろう。
これが恋じゃないなら何をもって恋というのか、オレにはわからない。
今この瞬間だって、あれこれと分析するオレの目に映る三橋の寝姿は
どうにもこうにも表現する言葉が見つからないくらいにかわいらしく、
きらきらと輝いて見える。 重症だ。

当面の心配事をとりあえず全部棚上げして、ガン見するオレ。


がしかしここで、次の大問題が勃発した。









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