ドリーム*ドリーム




以前、オレはいつも思っていた。
もっと普通にしゃべれるようになりたいって。

そうすれば畠くんとか他のチームメイトにもムカつかれなくなるかもしれない。
けどもちろん、そんなことはないだろうってのもわかってた。
みんなに嫌われてるのは話し方よりももっと別のことだって。
でも少しはマシかもしれない。
もっといろいろ思ったこととか上手く言えたりスムーズに説明できれば
みんなの怒りも減るかもしれない。

そしてその思いは、今も続いている。 
けど理由は以前とちょっと違う。
だって今のチームメイトはオレの話し方ウゼーなんて言わないから。
みんなすごく優しいから。
最初は慣れなくて、いいのかなとかも思ったけど今はもう思わない。 けど。

「オレ、早く話せるようになりたい です!」

そう言うと、目の前のその人は意外そうな顔になった。

「・・・・・そんなことでいいんですか?」

オレは頷いた。 オレにとっては そんなこと、じゃない。

「私が神だって、実は疑っていませんか?」

今度は首を横に振った。 疑ってないです。
だって見るからに神様だもん。

白くてずるずるした感じの服を着てて、長い髪も髭も真っ白で
神様ってこんな感じかな、ていうオレのイメージそのまんま。
その人はオレが部屋でぼーっとしてたら、いつのまにか立っていたんでびっくりして
「誰ですか?」 と聞いたら 「神さまです」 って言ったんだ。
そんで 「もうすぐ君の誕生日ですね。 お祝いに願い事を1つ叶えてあげましょう」
と言ったからオレは真面目に考えて、そして浮かんだのがこれなんだ。
でも神様はうーん、と唸った。

「早く、というのは早口という意味ですか?」
「そ、そうです。」
「ぺらぺらぺらっと立て板に水くらいの勢いとか?」
「タ、タテイタ・・・・・?」
「・・・・・・・・つまりものすごく早口という意味です」
「あ、いえ、そこ までじゃなくていい んだけど普通・・・くらいで・・・・」
「はあ」
「あと 早いだけでなく もっと 上手く言えたり、も」
「上手く?」
「えーと 相手にわかる、ように?」

そうなれば阿部くんともっと普通に会話ができる。
阿部くんもオレの言い方に怒ったことはないけど、
時々イライラしてることはあるって、知ってる。
そういう時は悪いなって思うし、それに阿部くんともっと仲良くなりたいんだ。

神様はまた、うーんと小さく唸った。

「もっと別の願いはないんですか?」
「え・・・・・・・」
「もっといい願いだってあるでしょう?」
「・・・・・・・どんな」
「たとえば、お金持ちになりたいとか」
「へ・・・・・・・」

お金は大事だけど、でも毎日ご飯食べれてるし親も困ってないし。
とか考えていると神様はぽんと手を打った。

「あ、君は学生でしたっけね。 ではそれほど切実でもないですね」
「は、はい」
「じゃあ別の・・・・・そう、君は野球が好きなはず」
「す 好きです!」
「もっと上手くなりたいとか」

オレは考えた。 そりゃ誰よりも上手く投げたい けど。

「そ れは 自分で 頑張ります」
「ああなるほど・・・・・」

神様は小刻みに何度も頷いてくれたけど、それで終わりにはならなかった。

「ではこういうのは? もっともてるようになりたい」

オレはそれについてちょっと考えたけど、首を横に振った。 
もてなくても別にいいから。
神様は今度は少しつまらなそうな顔になった。

「そうですか? 本当に?」
「ほんとう です」

オレはもてなくていいんだ。 だって好きな人いるから。
と胸の中でつぶやいたところで、神様の目がきらりと光った。 ような気がした。

「特定の誰かにもてたいとか、あるでしょう?!」
「え・・・・・・・」
「誰かいるでしょう誰か。 その人にもてたくはないですか?」

見透かされたようでどきりとした。
やっぱり神様にはわかっちゃんだろうか。 でも。

「・・・・・・・・・・。」

オレが黙っていると神様はやけに熱心にまくしたてた。

「好きな人いるんじゃないですか? その人にもてるようにもできますよ?
両思いになりたいでしょ?」

オレは黙ったまままた首を振った。
その人とどうこうなんて、無理だもん。
両思いなんて、そんな大それたこと願ってない。
もっと普通にいっぱい話せるだけで、オレはいいんだ。

・・・・・・・てのは言わないけど。

「実はやっぱり私が神だと信じてないんじゃ」
「信じてます、よー」

ほんとに疑ってない。 けどもちろん、わかってる。 
これは現実なんかじゃなくて、夢だって。

「もう一度よーく考えてみて下さい」

オレは目を瞑って、言われたとおりによーく考えた。

「では改めてお聞きしますが」
「はい」
「願い事を1つ言ってください」
「もっと普通に、上手く、しゃべれるように なりたいです」

はーっと神様はため息をついた。
何だかがっかりさせたみたいで、申し訳ないような気分。

「わかりました。 叶えましょう」

神様はまだつまらなそうな顔だったけど、オレは嬉しかった。
そこで目が覚めた。
覚めてから、ベッドの中でくすくす笑ってしまった。
面白い夢だった。 それに。

服とか髪とか髭を別にすると、神様の顔は阿部くんによく似ていたんだ。






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