罰ゲーム






花井は今まさに後悔していた。



一体誰がそんな罰ゲームを考えたんだろう。
誰かが冗談のように言ったことがその場のノリと勢いで決まってしまったんだっけか。
その場にいたのはたまたまよく遅刻する3〜4人と自分だけだったのは
覚えているけど。
止めようかなと一瞬思ったけど、冗談のノリだったし
あまり深く考えずに笑って見過ごしてしまった。


『今度練習に遅刻したら、罰として阿部を怒らせること。』


けど、なぜかその後しばらくは皆きっちりと遅刻しなくなった。
それぞれ 「マジでやることになったら」 と想像して青くなって、抑止力になったようだった。
なにしろ 真剣に怒った阿部  というのは、
かなり、何と言うか、つまり要するに  怖い  からだ。

でもやはりと言うべきか、恐怖心のほとぼりが冷める頃になって
(あるいは最初から抑止力になっていなかったのかもしれないけど)
田島がその罰ゲームを遂行するハメになった。

その時田島はむしろ楽しげに言ったのだ。

「阿部を怒らせるのなんてかーんたん!!」

(それはそうかもしれないけど。)

そう思いながら花井は内心気が気じゃない。
やめさせたほうがいい、と本能が告げている。 が。
あの時の面々が皆一様に面白そうに、あるいは興味津々で見守っている中、
そう言い出すのもためらわれた。

そんな花井の不安などどこ吹く風で田島はスキップでもしそうな勢いで
グラウンド整備している阿部のそばに寄っていった。
そして何事か言った。
次の瞬間阿部の怒声が響き渡った。

「なにぃい?!!!」

お見事。

見守っていた面々はそれぞれ内心で感嘆した。
まさにほんの一瞬で阿部を怒らせた。 しかも凄まじい勢いで怒っているようだ。
遠目にも阿部の形相がみるみる凶悪になり、背後におどろおどろした暗雲が発生したのが
よくわかる。

しかも田島自身はその怒りの被害に全く合うこともなく
さらに一言二言何事か言葉を交わすと、また軽い足取りで戻ってきた。
これじゃあ罰になってない。

「どうやったんだ田島?」
という水谷の問いに田島は 「内緒〜」 とにやにやしながら返している。

花井はその様子を見ながら
(やっぱりオレがちゃんとした罰則を考えなきゃな) と生真面目に思った、けど
その直後にぎくりと固まった。

阿部がこっちを見ている。

世にも恐ろしい形相で。

反射的にきょろきょろと辺りを見回した。
あの禍々しい視線の先にいるのは自分じゃない、と思いたかった。
なのに、あいにくすぐ近くには誰もいない。
てことは。

花井は慌てて田島のそばに駆け寄った。

「おい田島!!」
「おー花井! 阿部、怒っただろ?」
「何て言った!?」
「え?」
「何て言って怒らせたんだよ!!?」

田島は一瞬目を宙に泳がせて、それから 「へへ」 とごまかすように笑って、次に
「ごめんな花井」 としおらしく謝った。

すこぶる嫌な予感がした。

「だからなんつったんだよ!!!」
「えーと そのー、さ」
「早く言え!!!」
「『花井が三橋にキスしてんの見ちゃった』」
「!!!!!!!」
「て言った。」
「ば・・・・・・・・・・・・バカ!!!!!!」

言うに事欠いて何てことを。

「でも一発で怒っただろ?」
「お、おまえな・・・・・・・・」
「や、でもあんまりすごい顔だったし、すぐに『冗談』っつったんだぜ?」
「・・・・・・それで?」
「信じたかどうかわかんない」

・・・・・信じてない、 と思う。  「冗談」 のほうを。


花井は天を仰いだ。

一体誰がそんな罰ゲームを考えたんだろう。
なぜ、自分はその場にいたのに止めなかったんだろう。
そしてなぜさっき己の嫌な予感に素直に従わなかったんだろう。


背後に迫る何やら重ーい気配をひしひしと感じて鳥肌を立てながら
花井はこれ以上ないくらい深く深く、 後悔したのだった。











                                    罰ゲーム 了
                                
オマケ(それでどうなったかというと)

                                    SSTOPへ








                                               田島ったら・・・・・・