すれ違えども







最後のグラウンド整備をしながら、ふと目についた雑草取りに夢中になってしまって
気付けば最後になっていた。 思いの他長くやっていたようだ。
そういえば途中で 「程ほどにしとけよ?」 とかけられた声は水谷だったか。

(多分オレが最後だな・・・・・)

思いながら部室に戻った栄口は入った途端にぴしっと硬直した。
もう誰もいないだろうと思っていた部室に人がいたからだ。
いただけでなく。
くっついていた。

それが阿部と三橋だったので瞬間 「マズい」 と思ってから気付いた。
別にマズいことはしていない。

阿部がロッカーにもたれて座っており、その膝に頭を乗せて三橋は眠っていた。
改めて見れば別に何てことない、自然な光景だった。
他の誰かがやっていたら、多少違和感があるかもしれないその様は
このバッテリーに限っては 「普通」 だった。
阿部がそれだけ日常的に三橋に構っているからだ。
栄口は2人の仲を知っているから、少しどきどきして顔を赤らめてしまったものの、
むしろ微笑ましい光景とも言えるだろう。
一瞬変な勘ぐりをしてしまった自分を恥じながら、話しかけた。

「三橋、寝ちゃったんだ?」
「あー、うん。 なんか寝不足みてーで」
「じゃあ今日は鍵頼むな?」
「うん、やっとくよ」

他愛無い会話を交わしながら栄口は手早く帰り支度をした。
そのうちに、目覚めたらしい三橋の慌てたような声が聞こえた。

「あ、 阿部くん、 ごめ・・・・・」
「いーよ、別に」
「オレ、いつのまにか寝て・・・・・・・・」
「疲れてんだろ。 今日は早く寝ろよ?」
「うん・・・・・・・・」

背後の会話を聞きながら、着替えを終えようとしていた栄口は、でも次の瞬間
ぎょっとして飛び上がった。 唐突に阿部が鋭く叫んだからだ。

「触んな!!!」

反射的に振り向いたら真っ青な顔の三橋が涙目で硬直しており
阿部はなぜか顔を歪めていた。 
続いて止める暇もなく涙目のまま三橋は外に飛び出していった。

「ごめん、なさい!」

という悲痛な声を残して。
急転直下の展開に呆然としながら栄口が阿部を見ると。
阿部はおそろしく焦った顔をしていた。
その顔を見て、率直に思ったことを口にした。
多少、非難の響きを帯びてしまったのは、
理由はわからないけど三橋がかわいそうだ、 と思ったからだ。

「・・・・・・・追わないの?」
「追えねーんだよ!」
「え? なんで?」
「あ、足が・・・・・・・」
「??」
「痺れて・・・・・・・・・・」

あっ   と栄口は気付いた。 同時に納得した。

「あいつ、ぜってー誤解した・・・・・・・」
「あー、そうだろうね」
「・・・・・くそっ!!」
「痺れてる、て最初に言えば良かったのに」
「・・・・・・・・・。」
「かっこわるい、 とか思った?」
「ちげーよ!!」
「違うの?」

多少からかいの気持ちを込めて言った栄口に阿部は当たり前のように言った。

「そんなこと言ったら、あいつまた、気ぃ使って謝りたおすだろーが!!」

あはは、  と栄口は笑ってしまった。
それが容易に想像ついたせいもあるけど何よりも。

阿部の咄嗟の気遣いが微笑ましいと同時に何だか嬉しくて。

「笑うなよ!」

睨みながらも阿部はまだ足がじんじんするのか 
「うぅくそ」  ともどかしそうに悪態をついている。

「オレ、三橋に説明してやるよ。」
「へ?」
「待ってて」

言い残すなり、阿部の返事を待たずに部室を飛び出した。
三橋の後を追って走りながら、
栄口はかつての意思疎通の上手くいかなかった2人を思い出していた。
今でもあまり上手くいっているとは思えないけど。

(・・・・・・・・なんだかんだ言っても結局大丈夫なんだよな・・・・・・・・)


走りながらまた、 「はは」 と声を出して笑ってしまったのである。












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