目的は







水谷が指摘する前からオレは気付いていた。 もちろん。

「また阿部がいない」
「だな・・・・・・・・」
「またあっちかな?」
「多分・・・・・・・・」
「先生に見つかったらまずいんじゃないかなあ。 自由時間ならともかく」

内容とは裏腹にのんびりした調子で言う水谷の顔を見ながら
オレは別の心配をしていた。

(あいつ、夜も三橋のクラスに行くんじゃねぇか・・・・・・・?)


この修学旅行中、阿部はほとんど自分のクラスにいない。
気が付くといつのまにかちゃっかりと三橋の隣に移動している。
団体行動中にそれはまずいだろおい!  とか思うけど
三橋の周りの連中は苦笑しながらも気にしてないみたいだし
先生もそこまで目がいかないようだった。

あいつの三橋バカは今に始まったことじゃないけど、
何でそこまでやるのかよくわからない。
単にいっしょにいたいだけ、 だろうか。
それだけじゃないような気がしてしょうがない。

夜寝る時までこっそり三橋の布団に偲んでいったらどうしよう。
そんなことになったら阿部は何をするかわからない。
ヘタすると大問題になりかねない。
それだけは断固阻止しなければ、 と力んでいたんだけど。

意外にも阿部は夕食後田島に何やら熱心に頼んだだけで
三橋のクラスの部屋に行くことはなかった。
とにもかくにもホっとした。
翌日田島に聞いたら、『三橋の両隣は野球部で固めるように!』 と
鬼の形相で言ったらしい。

結局阿部は先生に見つかって怒られることもなく
昼間はほとんど三橋といっしょに行動して無事に修学旅行を終えた。


一体何だったんだ。





そんなオレの疑問は数日後に解けた。

旅行の写真が廊下に張り出されたことによって。

見事に、ことごとく三橋の隣には阿部が写っていた。
写真でもはっきりとわかる。
嬉しそうな三橋とそれを見つめている阿部の表情、は
鋭いやつにはわかっちゃうんじゃないかってくらい露骨だ。
意識してそうしたわけじゃないんだろうけど。

「阿部・・・・・」
「なに?」
「おまえ、 これが目的だった・・・・・・・?」
「なんの話?」
「いっしょに写真に収まりたかった・・・・・?」
「だから何の話?」

白々しくすっとぼけながら阿部は自分と三橋の写っている写真の番号を
せっせと申し込み用紙に記入している。 
きらきらした嬉しげなオーラが見えるようだ。

オレは呆れた。

けど不覚にも微笑ましい気分にもなってしまった。

(ホンットかわいいヤツだなこいつ・・・・・・・・・・・)

三橋に関してだけだけど。

もちろんそんなこと言ったら殴られるだろうから、言わねぇけどな。













                                                 了

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                                                      言ってやってほしい