その原因は







「花井、ちょっと」

自分と同じようにとんぼを手にした栄口が近づいてきながら呼んだ声は
朝だというのに何やら不安げな響きを帯びていた。
あくびをしかけていた花井は、その声音に思わずとんぼを操る手を止めて栄口を見た。

「今三橋が来たんだけどさ」
「うん」
「口が腫れてた・・・・・」

続けて心配そうに言う栄口の言葉を聞いて、眠気が飛んだ。
顔を見合わせた2人は同じことを懸念している、とお互いにわかった。

((誰かに殴られたんじゃ・・・・・・・))

「ひどく腫れてたか?」
「それほどでもないけど・・・・・・・」
「切れてたりとかは?」
「・・・・・ぱっと見じゃそこまではわからなかった」
「三橋に聞いてみたか?」
「聞けなかった・・・・・・」
「なんでだよ?」
「だってあからさまに隠そうとしてんだもん」
「・・・・親? とかかな・・・・・」
「・・・・・・うーん・・・・・」

「おー、そこ真面目にやれよな!」

眉を顰めて話し込む2人に、そぐわない明るい声が降ってきた。
てことは。

(まだ、知らないのか・・・・・・) 

思いながら2人は顔を上げて声の主を見た。
知ったらおそらく一番心配して騒いで原因を聞きだそうとするであろう、その男を。

そして。

また顔を見合わせた。

それからくるりとお互いに背を向けて、それぞれグラウンドの整備にやみくもに没頭し始めた。

そうしながら2人が頭の中だけで叫んだ言葉はほぼ同じだった。



((唇が腫れるほどすんなよな!!!!!!))










                                              了 (NEXT

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                                                 2人してタラコ (いやだそんなバッテリー)