日常の幸せ
だってわかってしまったんだその瞬間。 皆が帰って阿部くんとオレ以外誰もいない部室で、 もたくさと着替え終わってホっとした途端に指摘されたそれ。 「三橋、ボタン」 あ、 と自分のシャツを見下ろした。 見事に掛け違えていた。 恥ずかしくて かぁっと、 顔が火照った。 阿部くんは呆れたように笑いながらオレのシャツのボタンに手をかけて、 器用に次々と外していく。 やけに楽しそうなその顔にぼんやりと見惚れながら、 2番目からだから、ほとんど全部だなぁ、 と情けなく思って。 阿部くんは見ていたんだから、もっと早くに気付いたはずなのに と ふと思ってそれから。 わかってしまった。 最後まで黙って見ていた理由を。 何も考えずに言ってしまった。 「阿部くん、・・・・・わざと、 黙ってた・・・・・?」 口に出してから あ、 と思った。 もし違ってたら、 というか、 違ってるに決まってる。 そんな、オレに都合のいい解釈。 なのに、こっそりと慌てるオレの目に映っている阿部くんの顔が。 びっくりするくらいの勢いで赤く染まった。 「あ」 驚いた拍子に思わずまた口をついて出た声に、ますますその赤が濃くなって。 つい笑ってしまったのは無意識だった。 だって、 幸せで。 次の言葉は怒ったような顔の阿部くんに乱暴に呑み込まれてしまった。 幸せだな、 とまた思った。 了 (NEXT) SSTOPへ |
アベは世話を焼きたかっただけですよ。(念のため)