失言






部室に入ると皆が固まって何か覗き込んでいた。
・・・・・・・・何だろう。

「面白そう」 より 「また何か良からぬことを」 という不安が先に立ってしまうのは
中心にいるのが田島だからだろう。
皆の頭ごしにちらりと覘いたら案の定、
真ん中にあるのは いわゆる エロ本 だった。

「おー、花井も見ろよ! いいぜこれ!!」

田島があっけらかんと言ってくる。

「オレはいいよ」
「まーたホントは見たいクセに」
「いいってば」

言いながらオレは もう1人、 我関せず という顔で
群れから離れてさくさくと着替えている人間に気付いた。
阿部だ。

「阿部も花井も無理しちゃってさ〜」

・・・・・・・・阿部は無理なんかしてないだろ全然。

とは思うだけに留めておいた。 (いやオレもしてねーけどさ!)
それで済めば良かったんだけど。

着替えながらふと横を見たら阿部が近くに来ていた。
そしてオレにだけ聞こえるような声でぼそりと言った。

「三橋の写真集、 とかあったらいいのにな・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかってるけど!!
そういうことを真顔で言うのやめてほしい・・・・・・・・・・・

げんなり思いつつも深く考えずにオレはつい言ってしまった。

「作ればいいじゃん」
「え?」
「デジカメで撮ってパソコンで」

そこまで言ってから 「あ」 と思った、時は遅かった。
すでに阿部の目はきらきらと、 輝いていた。

「・・・・・・・・そうだな・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、あの、阿部・・・・・・」
「・・・・できるよなうん。 そうだよな・・・・・・」
「あの、冗談だからさ!!」

祈るような気持ちで言ったオレを見て、にっこりと阿部は笑った。

「わかってるよ」

・・・・・・・・・・あ、そう、わかってるんだ・・・・・・・けど。
マジで作る気だろおまえ・・・・・・・・・・

とはとても聞けなかった。
代わりに 「ごめん。 三橋」 と心の中だけで謝った。

それから。

頼むから練習に支障のない程度の普通の写真にしてほしい、

と心から願った。










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                                                    むなしい願いかと。