君を呼ぶ







ごくたまにだけど、不安になる。
根拠はない。  ただ、不安になる。
なぜかなんて、わからない。
理由なんてない。  原因もない。   なのに、なぜ。





「三橋」


三橋が振り返ってオレを見る。 
なに?  と目だけで問うてくる。

別に用事なんてない。 

不安だっただけ。

なんて言えないから黙っている。  三橋はきょとん、としている。

「三橋」
「なに・・・・・・・?」

今度は返事が付いた。
でもオレはやっぱりその先が言えない。
だって用事なんてないから。   呼びたいだけ。 
呼んで、振り向いてくれる、それだけで    どこかで何かが少しだけ

救われるような気がする。  安心できる。

だからオレは三橋を呼んだ。
言葉にできないたくさんの想いを込めて。
それだけだったのに。



「・・・・・阿部、くん」
「なに」

「オレ、 いなくなったりしない、 よ?」

えっ、   と驚いて三橋の色の薄い目をじっと見た。

すうっと、  吸い込まれそうな気がした。

「なんで」
「へ?」
「なんでそんなこと、言うんだよ」
「え・・・・・・・」

薄い色が困ったようにゆらゆらと、揺れた。

「な、なんとなく・・・・・・・・・」
「何だそれ?」

言いながら三橋の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
ついでにぐいぐいと押さえつけたもんだから三橋は 「わ、 わ」 とか言いながら焦っている。
ごめんな、 と思いながらオレはなおも押さえ付ける。
だって、今顔を見られたくないんだ。


・・・・・・どうしてオレの欲しい言葉がわかったんだ、

なんてやっぱり口には出さない。

代わりに出てきたのはまた同じ。

どれだけの想いが詰まっているのか自分でもわからないその 呼びかけの意味を。
含まれているたくさんのことを。





「三橋」





おまえは実はちゃんと、   わかっているのか?











                                                     了

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