末期症状







ごく些細なことでもそれは起きる。 
原因はその時々でいろいろだけど。
もう慣れた、 と阿部は思う。  慣れている、はずだ。
だから1年の頃に比べればイライラも随分軽減した。
その順番だって見なくてもわかってしまう。


まず うっすらと膜が張る。

それがきらきらと輝く。

元々薄い色合いの瞳が、そのせいで色だけに限れば余計に明るく見える。

まもなく輝きは目の下方に集中して増えて。

続いてすっと盛り上がって、そうなれば
雫となって赤い頬をつぅと流れ落ちるのも時間の問題。

一度溢れてしまったら、魔法のように次々と珠になって肌の上を滑っていくのだ。


(きれい、  だな)

ぼぉっとそう思ってから阿部は我に返った。

ぼけっと見ている場合じゃない。 練習中なんだし。
三橋が泣き止まないと、次のメニューに移れない。

そう自分を戒めて何とか状況を変えるべく、フォローの言葉を言うとか
あるいは行動するとかしようと思った。
が、思ったきり、見慣れているはずのその、
零れ落ちる透明な雫にうっかりまた見入ってしまったのは、
夜中まで他校のデータ整理なぞしていて寝不足なせいで
頭の回転数が通常より3割がた落ちているからだろうか。

「阿部!!」

花井にどつかれて阿部は再び我に返った。

「なに見惚れてんだよっ」
「あ・・・・・・・いや、ちょっと寝不足で」
「・・・・・・・・・本気で」

そう思ってんのか?   と言いかけた言葉を花井はぐっと呑み込んだ。

「じゃあ、とりあえずあっちで休んでろ。 ここは栄口に任せて」

タイミング良く寄ってきた栄口に目配せしながら花井は付け加えた。

「おまえさ、ちょっと病気なんだよ」
「え? いや寝不足なだけ・・・・・・・」
「いいから!!!」

強引に引っ張りながら、先刻の阿部の 三橋を見詰める目を見てしまった花井は、
心の中だけでさらにもう一言付け加えた。

(恋の病  てやつだけどな!)












                                             了 (NEXT

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                                                 今さらぽいので2年になりたてくらいで。