縁の下にて







主将の仕事はいろいろある。
それこそ雑用みたいなことだってやる時はやる。
何でこんなことまで、 ということだってあるのも
最初からわかっていたつもりだったけど。

西浦野球部ではそんなオレの予想を超えた特殊な、
でも実は重要な仕事が1つあるんだ。











「阿部くんの好きな話題教えて?」

と、その子が赤い顔して恥ずかしげに聞いてきた時、
いつものようにオレは一番賢明な答を返した。

「阿部はさ、天地がひっくり返っても別れそうもない恋人がいるから諦めな」

なんてことは一言も言わなかった。

だって、結局自分で 「ダメだ」 とか 「いやだ」 と思わない限り
諦めなんてつかないだろう?
人間て、 つーか恋ってそういうものだろう?

「野球部のエースの三橋くんについて」

オレの答にその子は妙な顔をした。

「・・・・・・え?」
「野球部のエースの三橋くんについて、 が阿部の好きな話題。」

もう一度同じことを言うと、引き続き妙な顔で 「ありがとう」 と言った。
嘘はついてない、 とオレは思った。

オレだって鬼じゃないんだから実際のところ心は痛む。 すごく痛む。
でもこれが一番手っ取り早く、かつ傷も浅くて済む方法なんだよな・・・・・・・・・・・・・





翌日その女の子がまたオレのところに、今度は恨めしげな顔でやってきた。

「花井くん、嘘ついたでしょ?!」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「阿部くんに 『三橋くんのこと、教えて?』 て言ったら」

あぁそれはまた、    とオレはいささか同情してしまった。
一番効果的な聞き方を。

「すごい目で見られて・・・・・・・・・・」

だろうな。

「何でそんなことが知りたいんだ、とか言われて」

目に浮かぶようだぜ。

「こ、怖かった・・・・・・・・・」

怖かったろうな、 とオレは心の底からまた同情した。

「あんな怖い人だなんて知らなかった・・・・・・・・・・」

思い出したのか怯えたような顔になって、ぶるっと震えた。
昨日の頬を染めていた表情なんてきれいさっぱり、微塵もなかった。
阿部のあの顔で睨まれて まだ好き、 というツワモノがいたらお目にかかりたい。

でもな、オレは嘘はついてないぜ?
それにな、悪いけどエースに余計なストレスがかかるのは
部としてはあんまり歓迎できないんだなこれが。



「花井くんのバカ!!」

あぁまた言われた・・・・・・・・・・・

これもある意味主将の務め、と思いながらも

何となく損な役回りをしてるような気がしないでもない今日この頃。












                                            了 (NEXT

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                                                    花井くんに幸あれ。