寄り添う





執拗に舌が這わされる。

びくびくと跳ね上がる体を押さえつけてくる手の力も容赦がなくて、
耐え切れずに上がる声を抑える努力もとっくに放棄した。
もうどれくらいこうしているのか時間の感覚すら覚束ないほど
延々と乱され続けていて、羞恥などすっかりマヒしている。

「・・・・・・や、・・・・・・もう」

喘ぎながらの懇願はまともな言葉にならなくて
まるでもっとと強請っているようにも聞こえる。
実際強請っているのかもしれないと、朦朧とする頭で三橋は思った。

ようやく舌から解放されて少し息をついていると、
阿部は体を上にずらして三橋の顔の脇に手をついた。
そのままじっと見つめてくる視線は何かを探るように強くて、
とまどいながらも見つめ返すと黒い瞳が時折不安定に揺れることに気が付いた。
それでなくても今夜の阿部はおかしい。
情熱的と言えば聞こえはいいが、ありていに言えば異様にしつこかった。

「・・・・・・・どうして」

口をついて出た問いかけにゆらゆらと瞳を揺らす様は
やっていることとは逆に、幼い少年のようにも見えた。
何かあったのかもしれない、 とまでは三橋にもわかる。
高校生の頃から、阿部の落ち込みや葛藤はしばしばこういう形で表れるのだ。
でもそれが何なのかまではわからない。
自分が原因のこともあるが、別の何かの時もあり
今も三橋自身に特に思い当たることはなかった。
最後まで言えなかった質問を、阿部は察したところを見ると
自分でも常とは違うことを自覚しているのだろう。

「無理、させてんな」

ううん、と顔を振りながらなおも見つめると、それでもまっすぐに見下ろしてきてから。

「・・・・・・ごめんな」

つぶやきとともにゆっくりと、強く抱き締められた。
三橋も阿部の背中に腕を回してぎゅうと力を込める。
馴染んだ広いその背は少し汗ばんでいて、微かに震えていた。

「大丈夫 だよ」

言ってから、これでは伝わらないかもしれないと気付いた。
なので言い直す。

「阿部くん、は 大丈夫」

なにが、 と返ってきてもおかしくなかったけれど阿部は無言だった。

「・・・・・・・うん」

随分経ってから小さな声が聞こえた。
全部、 全部包んであげられたらいいのにと その時三橋は思った。










                                          寄り添う 了

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                                              阿部は 「おまえがいるからな」 と思っている。