過ぎたるは





しめしめ、とオレは内心でほくそえんだ。

思った以上にコトは上手く、かつ美味しく運んでいる。

オレの目の前で三橋はほんのりと赤く染まって、
潤んだ目でオレをぽーっと見つめている。  やけに色っぽい。





一晩中2人きりでいられる、という滅多にない絶好の逢瀬の夜に、
オレはかねてからこっそりと目論んでいたことを実行することにした。
つまり、 「三橋に酒を飲ませる」 ということだ。

三橋が酒に弱いことはもうわかっている。
以前それでオレは制服のシャツ1枚血だらけにしてダメにして
母親にぶつぶつ文句を言われたんだ。

酔った三橋は今思い出してもうっかり鼻血が出そうなくらい
かわいくて、素直で、色っぽかった。
その時は周りに野球部の連中がいて何もできずじまいだったけど。
今日はオレの部屋で2人きり、だから美味しい言葉だっていくらでも聞けるし、
それからその後は ベッドで。

普段できないかっこをさせたりすんのもいいし、
普段させてくれないコトとかもいろいろいろいろいろいろ・・・・・・

と、てんこ盛りで想像して知らずニヤけてしまって
「阿部くん・・・・・・・・?」   と不審気に呼ばれて我に返った。
その声もすでにおっとりとしていて耳に心地よい艶を含んでいる。

「あ、わり。」

謝りながらにっこりと顔が笑ってしまう。
三橋もにっこりと笑いながらまたグラスを口に運んでいる。

酒は最初ジュースみたいなフリをして出して、少しだけ飲ませるつもりだった。
けど三橋は一口飲むなり 「これ、お酒・・・・・?」 ととまどったような声を出した。
なるべく甘そうなのを選んだつもりだったけど気付かれてしまった。
内心で慌てまくりながら大急ぎで考えて下した、
もうヘタな小細工はせずに正攻法でいこう! というオレの咄嗟の判断は
「当たり」 だった。

「ちょっとさ、今日は飲んでみねぇ?」
というオレの誘いに最初三橋は躊躇うような顔をした。
けどそこはお年頃の好奇心、というか 「飲んでみたい」 という気持ちがあったのかな。
「明日は休みだしさ」
とさらに畳み掛けると意外にもあっさりと頷いた。
そうなれば隠す必要もないわけで、オレはいそいそと
用意しておいたフルーツ味のチューハイとか
おやじのビールとか適当に冷蔵庫から出してきて並べて
2人してちびちびと飲み始めた。

最初は遠慮がちに少しずつ飲んでいた三橋も次第に飲み方が大胆になった。
オレは適当にセーブしながら (オレが酔っ払っちゃまずいもんな) 観察していたけど
三橋は気分が悪くなるような気配もない。
弱いのは確かだけど量は飲めるタイプなのかもしれない。
オレは今夜これからのことに思いを馳せて、すっかり嬉しくなってどんどん勧めた。

そして予定以上に美味しそうになった三橋は今 目の前でオレの顔を
潤んだ目で、見つめている。
オレがじーっと見つめ返してもいつものように視線を
あさっての方向に飛ばすこともない。 大変いい感じだ。

そろそろいいかな・・・・・・・・・・

そう判断したオレは三橋の横にさり気なく移動して肩を抱いた。
普通ならそんな露骨なことをすれば、びくりと揺れるその華奢な肩も今日は揺れない。

どころか三橋は待っていたかのようにオレのほうを向くと首に腕を回してきた。
内心で小躍りしながら、オレも背中に手を回してどちらからともなく唇を寄せた。
何だか恋人どうしみたい。
いや恋人だけど。
こういうふうにキスすんのって滅多にない。
大抵オレから。 だもんな・・・・・・・・・
無理矢理っぽいことも多いしな・・・・・・・・・
感動しながら、ひとしきり唇を堪能して離して目を見たらますます色っぽく潤んでいる。

わくわくしながら聞いてみた。

「三橋、オレのこと好きか?」
「うん。 大好き」

いともあっさりと、三橋は望んだ答を言った。
咄嗟に鼻を押さえてしまった。 条件反射だ。
けど大丈夫だった。
今日はとにかく鼻血吹くわけにはいかないんだ。
できることもできなくなっちまう。

瞬時にあれこれ思いながらも顔がニヤけちまう。
こんなに簡単に言ってもらえるなんて思わなかった。

「もっと言って?」

ほわっと三橋は笑った。

「だいすき」

あぁ幸せ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しばらく浸ってしまった。
今日のオレの運勢は最高に違いない。

オレはいそいそと移動してベッドの端に腰掛けて三橋に 「来いよ」 と手招きした。
いつもなら 「え・・・・」 とか言って躊躇うところだけど
三橋はすぐにオレの前まで来てなぜか床に正座した。
そして 「えへへへへ」 とかわいらしく笑った。

信じられないことが起きたのは 次の瞬間だった。
三橋は座っているオレに、 顔をすりすりと、 寄せてきた。
それだけなら今日の三橋ならありかも、だったんだけど、寄せた場所が。

オレの  股間   だった。

「三橋??!」

驚愕なんてもんじゃない。
脳天を突き抜けるってのはこういうことか。
予期せぬ強烈な快感に体が跳ねそうになった。
そんなオレにお構いなしに三橋はさらに頬をオレの、まさに中心部分に
ぐりぐりと擦りつけた。

「うぁ・・・・・・・・・」

それやめろ三橋!  いやもっとやって。 (どっちなんだオレ!!)

気持ちいいやらびっくりするやらでオレはまともに頭が働かない。
その間も三橋はオレの股間に嬉しそうに
すりすりとその童顔を擦り付け続けている。

「はっ・・・・・・」

みるみる張り詰めていくのが自分でもわかる。
強過ぎる快感にたちまち息が上がってきた。
ダイレクトな感覚もすげぇけど。
ビジュアルなものが。
いや正直言うと今の三橋の顔は 「色っぽい」 て感じじゃない。
むしろ 「嬉しそう」 てかコドモがヌイグルミに頬擦りするような雰囲気なんだけど。

何しろその場所がオレのあそこなワケで。

こんな光景この先見れることなんてない、かも・・・・・・・・・・

必死で呼吸を整えながら食い入るように見入っていると、
三橋はふっと顔を離して、それから嬉しそうに言った。

「阿部、くん。  勃って きた」

これで勃たねー男がいたらお目にかかりてーぜ・・・・・・・・

三橋はにこにこしながら今度は手でやわやわと揉み始めた。

「う・・・・・・・・」

また耐え切れずに呻いちまった。  すげー気持ちいい。

「オレ  ね、」
「・・・・・なに」  

息が上がってるせいで声が掠れた。
くそっ これじゃいつもと逆だぜ・・・・・・・・・・・

「阿部くんのこれ、 大好き」

うわっ・・・・・・・・・・

オレはまた慌てて鼻を押さえた。 けど無事みたいだった。
これあんま長くやってるとマジでヤバいかも。  でもな。 

こいつがここまでやったり言ったりしてくれることなんて
この先あるかわからない。
もちろん同じ状況にすればいいわけだけど、できればあんまりやりたくない。 
やっぱ未成年だからいいことではないし。 バレたら危険でもある。

なんてぐるぐるしている間にもオレのあそこはどんどんヤバくなってきた。

この際だからダメもとで何でも言ってみよう・・・・・・・

「三橋、あのさ」
「へ?」
「直に触ってよ」

またびっくりしたことに三橋はにっこりと頷くなり、躊躇することもなくオレのベルトに手をかけた。

おぉすげぇ・・・・・・・・・・・

驚きを通り越して感動してしまった。 けど。
まずベルトを外すのに一苦労だ。  もたもたもたとはかどらない。
「あれ?」 なんてつぶやきながらまたもたもた。
酔っててもこういうところはいかにも三橋だ。 当たり前か。
結局イライラして 「自分でやる!」 とか言いつつ自分で開いてしまった。 ちぇっ

でも。

開いた部分に三橋の手がそうっと入って
慈しむようにオレの中心を包んだ時は思わずまたくらくらした。

例によって快感だけでなくビジュアルで。

今日の三橋の手は温かい、というより熱い。
オレのモノだってかなり熱いはずだから相当だ。
その手が両手でオレのを包んでやわやわと締め付けた。

「・・・・・・ん・・・・・・・」
「気持ち、イイ?」
「・・・・・・すげぇいい・・・・・・・・」

マジですげぇいい。
いっつもオレがしてやっていることだけど。
そんで喘ぐ三橋の顔を見るのがめちゃめちゃ楽しいんだけど。
・・・・・・たまにはこーゆーのもいいな・・・・・・・・・

「阿部くん、・・・・・・・色っぽい」

・・・・・そうかよ。 
でもいつものおまえには負けんじゃねーの?

とか思っても言えない。
真剣に しゃべるのが億劫、なくらいイイ。
いつもしてる最中の三橋が普段に輪をかけて無口になるのがわかったような気が。
でもオレばっか息が上がってていささか癪に障る。 
のでオレは無言のまま屈んで三橋の顔を引き寄せて口を塞いでやった。
三橋はびっくりしたんだろう、手のほうが止まった。

一回口を離した。

「続けてよ」

言うと慌てたようにまた片手で包んでくれた。
その感触を楽しみながら口のほうも思い切り容赦なく貪っていたら
手のほうがどんどん覚束なくなってきた。
離してやったら涙目になって三橋の息も荒くなってた。
よし! これでおあいこだぜ。

けど。

続いて起こったことにオレは本日一番驚いた。 なんてもんじゃなく仰天した。

潤んだ目でオレを見た三橋は、次に すーっと顔を手の中にあるオレのモノに寄せて
先端をちろりと、舐めたんだ。

「み、みは」

思わず言いかけて またオレは呻いた。
三橋の口がオレのを深く、咥えたからだ。
柔らかい舌に包まれる感覚がして。

気持ちいい、の前に驚きすぎて少しの間呆けてしまった。
三橋は目を瞑ってオレのを一生懸命口に頬張っている。
目に映っている光景が信じられない。   つーか。

もう死んでもいいオレ。

とまで一瞬思ってしまった。 いや死ぬのは困るけど。
だってあの三橋が、未だにキスだって自分からはあまりしてくれない三橋が。

感動に浸りつつ ぼーっとその顔を凝視しながら、でも体のほうは逆に物足りなくなってきた。
当たり前だけど三橋は慣れてないから。
微妙〜〜にもどかしい、ワケだな。
時々歯が当たったりして痛かったりもするわけだ。

少し余裕ができたオレはまたちょっと屈んで三橋の体の下に手を入れて
服の上から胸の先端を探り当ててぎゅうっと摘んでやった。
途端にまた口のほうが覚束なくなってきた。

「ん、 ん」

鼻にかかった声が上がった。 楽しい。

もう。
されるだけじゃ物足りなくなってきたかも。
三橋にもしたい。 そんでもっと声とか聞きたい。
オレやっぱ、されるよりするほうが性に合ってんだな。
これはこれですげー楽しいし、気持ちいいけど、それより三橋の色っぽい声を聞きたい。
今日はきっと、いっぱい聞ける。 いつもよりいっぱい。

そう思ったオレは三橋に囁いた。

「オレもおまえにしたい」

三橋はふっと口を離してオレを見上げて、それからまたとんでもないことを言った。

「今日はね、オレがいっぱい舐めて、あげる」
「え・・・・・・・」
「他の、トコ、も」

瞬間思ったのは 「舐められるより舐めるほうがいい」 だった、けど。
・・・・・・・・たまにはいいかも。
舐めている三橋の顔を見てるのも楽しそうだし。
その後で今度はお返しにめいっぱいいろいろしてやればいいんだもんな。

と、その気になったと同時にハタと気付いて、言った。

「じゃあオレ、もっかいシャワー浴びてくる」
「え・・・・・・・・・」

三橋はものすごく何か言いたげな顔になった。
何を言いたいのかわかる気が。

「・・・・阿部くんは、 いっつもオレに、 そんなのいいとか言う、  くせに」

やっぱそうきたか。 

「オレはいんだよ」
「・・・・・・・・。」
「でもおまえはダメ」

ワケのわからない理屈に三橋の顔はますます不満気になった。
いつもより「おどおど」感が少ないのはやっぱり酒のせいかな。
でもマジで三橋にはあんまり大変なことはさせたくない。
オレはへーきだけど。
こいつは慣れてないんだし。
帰ってからすぐにざっと浴びたけど、その後結構また汗かいたから。

そう考えたオレは 「とにかく待ってろ!」 とだけ言い置いて
さっさと風呂場に向かった。


それが1つ目の失敗だった。


いやそれを言うならそもそもオレはその前段階ですでに失敗していたんだ。








○○○○○○

ソッコーでシャワーを浴びてスキップでもしそうな気分で (しなかったけど)
部屋に戻ったオレの目に映ったのは。

ベッドの上ですやすやと気持ち良さそうに寝こける三橋の姿だった。



・・・・・・・・・・・マジかよ・・・・・・・・・・・・

オレは呆然としてその体を見下ろした。
三橋は熟睡していた。
以前にもこんなことがあったような。
あん時はまさにしてる最中に寝られたからそれに比べればまだマシ、というか
あり得る事態ではあるけれど。

呆けたまま次に自分の体を見下ろした。
シャワーなんかものともせずに、オレの期待の表れのように
パンパンに膨らんじゃっているコレを一体どうしろと。

一瞬  「眠っている三橋に突っ込んでやろうか」、
なんて考えが頭をよぎった、けど、 自分にそんなことができるわけがないのも
もうわかっていた。

情けない気分で安らかな寝息を立てている三橋の頬をつついてみた。
もちろんのこと、起きない。
服の上から乳首のあたりを探ってこねてみた。 寝息が乱れもしない。
さらに服の下から手を入れて、その小さな突起をそろそろと指で転がしてみた。
まるで変化なし。

やけくそで股間のあたりも探ってみた。
ふにゃふにゃしている。
さっき部屋を出る前に見た時は確かに半分くらい勃っていたっぽいのに。
オレのいないほんの5分かそこらの間に戻っちゃってる。
そーっと揉みしだいても
「んー」 とか色気のない声を発しながら身じろいだだけでびくともしない。


・・・・・・・・ダメだこりゃ・・・・・・・・

呆然としたままぼんやりと悟った。

飲ませ過ぎた。 量の加減を間違えた。

どうりでぶっ飛んだことばかりしたはずだ。
ヘタすっと明日なにも覚えてない、かもしれない。

オレはため息を吐いた。

ひとつ学習したから良しとしよう


なんて前向きな気持ちには全然なれなかった。 



ちくしょう。







○○○○○○

翌朝目覚めた三橋はまず 「うー」 と唸った。
それからオレの顔を見て 「あれ?」 という顔をした。

「おはよう」
「・・・・・・おは・・・・・」

小さな声で返しながらまた 「う」 という顔になった。

「・・・・・・・アタマが痛い・・・・」

あぁやっぱり、  とオレはまた朝からため息をついた。

案の定、三橋はいわゆる二日酔いで。
見事に何も覚えていなかった。

一応責任を感じたんで、薬をやったりなんだりと世話を焼きながら、
オレは考えた。

覚えてないってことはあれは三橋の普段隠れている無意識の成せるわざで
つまり三橋の本音なんだろう。
それだけオレに惚れてくれてるってことだよなうん。

そう思って自分を慰めた。  けど。

やっぱりどこかで 煽るだけ煽った挙句1人で寝てしまって、
そのうえ なーんにも覚えていない三橋を恨めしく思っていたんだと思う。

今回2度目の失敗をやらかした。

三橋に昨日やったことを全部、一切合財 話してしまったんだ。
思ったとおり、三橋は真っ赤になって恥ずかしがった。
それを見ながらオレは
「気持ち良かったなぁ」 とにやにやしながら追い討ちをかけたりなんかして。
さらに耳まで赤く染めて涙目になった顔を堪能して
少し溜飲を下げたりしたんだけど。



その時三橋は内心で固く、あることを決心したらしい。


オレがそれを知るのはもっと後になるわけだけど。








要するにオレが三橋の酔って乱れる姿を見るためには

それから何年も待たなければならない羽目になったんだ。









オレのバカ















                                            過ぎたるは  了

                                           SS-B面TOPへ











                                                     バカだよ。