その笑顔のためならば (後編)(SIDE A)





その顔のあまりの引き攣り具合にまた傷つく。

そんなにオレにすんのイヤなのかよ!!!!
いやいや、きっと初めてだから緊張してるだけだそうに違いない。

自分でフォローしながら仰向けに寝てちょいちょい、と手招きしてやったら、
赤くなっておそるおそる という風情で上に乗ってきた。
ふぅん。  ちょっといいかもこれ。

少し楽しくなるオレ。
三橋のリードなんて100年待っても無理そうだから、
自分でさっさと入れやすいように体勢を作ってやってからじぃっと顔を見た。
三橋の必死の形相が大変かわいらしくて、つい見惚れてしまう。
それにやってる時の顔はぜひとも見たい。
快感を得られないんだったらそれくらいのご褒美はないと、と思いながら
らんらんと見つめていたら。

「あの、 阿部くん・・・・・・」
「なに?」
「目、  瞑って、ください・・・・・」
「なんで?」

つまんねーじゃんかよ!!

「あの、そんな、に見られてる、と、 ・・・・・できな・・・・・・・」
「・・・・・・・・あ、そう」

非常に不本意ではあったが仕方なく目を閉じた。
入れたらこっそり薄目を開けて見ちゃおう、 と目論見ながら。

程なくしてオレの後ろ部分に当たる感触がして、
や っ と いつもと違う展開になった、とむしろホっとした。
もう痛くても何でもいいや、という心境だった。  なのに。
当たってるは当たってるんだけど、それだけでちっとも入ってこねーし・・・・・・・・・・・・
とまたもやイライラする。
でもここで  「なにやってんだ」  とか言おうもんならまた萎縮させちまう、と踏んで
イライラしつつも辛抱してたら。

「阿部、くん・・・・・・・」

涙声だった。  目を開けて見るともう今にも泣きそうな三橋の顔があった。
 
「なに」
「は、入んない・・・・・・・」

それはな、思い切りが足んねーんだと思うんだけど。

「無理矢理入れればぜってー入るから!!」
「・・・・・うぅ・・・・・」
「オレは大丈夫だから遠慮なく突っ込め!!」
「う、 でも」
「早くしねーと、乾いちゃうだろーが!!!」
「ひっ」

三橋はぎゅうっと目を瞑った。 
と思ったら体に衝撃を感じた。 一瞬目の前に火花が散った。

「いっっ」

てぇえ!!!!!!

叫びの後半はぐっと呑み込んだオレは偉いと思う。
やっぱ三橋のに塗ったくらいじゃダメだったか、と後悔してももう遅い。
ここで 「痛い」 なんて言おうものなら三橋は絶対この後続けられなくなる。
まだ、先っぽしか入ってねーのに!

瞬時にそう判断したオレはとにかく体の力を抜く努力をした。
三橋は目を瞑ったまま頬を上気させてはぁはぁ言っている。
色っぽい、んだけどそれより悲壮感のほうが強く漂っているのはナゼだコノヤロウ!

「阿部、く、  は、いった、よ!」

わかってる!!!!

「き、き、 きもち、いい?」

いいわけねえ!!!!!!

「うぉ」

僅かに動いた三橋が妙な声を出した。 とともに、顔が一気に艶っぽくなった。
思わずにやりとしちゃった。 初めてのときを思い出したりして。
そうそう、焦るよな?  と内心で共感してやりながらもオレのほうは依然として痛いだけだ。
なのでとりあえず。

「あのさ、三橋」
「・・・・・は・・・・・・・・」
「もうちょい進んでくんない・・・・・・?」
「う、うん・・・・・・・」

奥まで進む感覚がして、最初より少し楽になった、と息を吐いた途端に。

「・・・・あぁっ・・・・・・」

やけに悩ましげな呻きとともに。

いきなり大分楽になった。

三橋はぷるぷると小さく震えて残りを全部出してから (多分)
うっすらと目を開けて、それから熟れた林檎もかくや、
というくらいのすごい顔色になってしまった。  湯気が見えそう。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

・・・・・・・・・・えーと・・・・・・。  こういう時は何て言えば。

オレは途方に暮れた。

「・・・・・ご ご ご ごめ・・・・・・・」

いやいいですケド。 結局痛い時間がとっても短くて済んだし。
どうせ快感を得るのは無理そうだったし。
とか言ってもなぁ・・・・・・・・・余計落ち込ませるだけかも、   なんてこっそりと慌てるオレ。

「あ、あの、 抜く、 ね?」
「うん・・・・・」

ずるりと、出て行く感覚がしてやっぱりホっとした。
三橋ははーっと長く息を1つついてから呆けたように座り込んだ。

「三橋」
「う?」
「気持ち良かった?」

こくこく! と迷いなく首が縦に何度も振られたんでもう、よしとする。 けど。

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

今度は2人してじーっとオレの股間を凝視してしまった。
当然だけど元気満々だったりする。  オレのしたいことはひとつだけど。
でもそれじゃあいつもと何ら変わったところがなく・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あの、 あべ、くん」
「は?」
「す、する?」
「・・・・・・・・・・いい?」
「い、いい、 よ!」

三橋が今日初めて 「本当に」 笑ったんで。
元々紙のように薄いオレの理性なんかひとたまりもなく。

オレは三橋を押し倒した。   いつものように。











○○○○○○○

「あぁ、何だか」

後始末をしてやりながら思わずぼやいたオレの声に、
終わってからずっとぐたりとベッドに突っ伏していた三橋が半身を起こした。

「当初の目的がなぁ・・・・・・」

がっくりしながらつぶやいたオレに三橋は言った。

「あの、オレ、嬉しかった、よ!?」
「・・・・・・・そう?」
「び、びっくりした けど、 す、すごく嬉しかった!」
「・・・・本当に?」
「うん!!」
「・・・・じゃあ、もう不安になんない?」
「う」

一瞬間があった。

「う、うん」

慌てたように頷く三橋を見ながらオレは複雑な気分になった。
ダメそうだ、とわかったからだ。  これはやっぱり。

「もっかい頑張ってみるか・・・・・・・・」
「え」

三橋の顔が引き攣った。

「だからさ、今度の時またおまえが上に」
「も、もういい」

やけにきっぱり言い切った。  ますます複雑な気分になった。

「あの、オレやっぱり、向いてない、ような気が」
「慣れだよこんなん」
「いやあの」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「そ、それに、阿部くん、も 向いてない、 と思う・・・・・・・・」
「・・・・・・・・あ、そう・・・・・・・」

まぁ確かに体は向いてないということがわかったかも。
と1人で納得したところで三橋がぼそりと付け加えた。

「・・・・・性格的、 に」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

オレは憮然とした。 けど否定はできない。  でもとにかく重要なのはそこじゃなくて。

「イヤだってんなら自信持つか?」
「う」

また間がある。
はーっとため息をついてしまった。 三橋の顔がまた慌てた。

「オ、オレ、自信、持つ、から!」

・・・・・・・嘘だな、  という言葉は呑み込んだ。
いやきっと嘘じゃねーんだろうとは思う。
でもどこかで、ほんの少し、意識してない部分にある気後れはこの先もおそらく消えない。
普段は隠れていても何かの拍子に表面に出てくる。
三橋だって頭ではわかっているはずなんだから、多分理屈で片付く類の問題じゃないんだろう。

本当は。
体のことだけであっさり翻るような浅い問題じゃないって、どこかでわかってた。
それでも少しでも、と思ったんだけど。

それに、  とオレは続けて考えた。

別の意味でやってみて良かったかも。  だってやっぱり足開くのって生理的に気色ワルイ。
入れられることそのものより、体勢のほうに嫌悪感が湧く。
いくら慣れてるからって毎回三橋にこんなことやらせてんだなぁと
理屈だけじゃなく実感できたのは良かった。

本当にしみじみとそう思ってから改めて固く決意した。


いつになるかわからないけど、
三橋が 「あの頃は女の子に引け目持ってたなー」 と笑顔で言える日が来るように、
オレは必ずしてみせる。  どんなに時間がかかっても。
何しろオレはしつこいんだ。

だから、   覚悟しとけよ?



1人決心して密かに燃えるオレの目の前で、その時三橋がふにゃりと控え目に笑った。
ふいに泣きたいくらいの愛しさに襲われた。

「三橋」
「へ?」

「好きだよ」


三橋の目がまん丸になって、次に耳まで真っ赤になってそれから。



極上の、  笑顔になった。
















                                         その笑顔のためならば 了

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