しるし





「あ、 ・・・・・・・わりぃ」

その時阿部くんはそう言った。 少し慌てたように、申し訳なさそうに。

「思ったよりくっきり付いちゃった」

オレの右腕を掴んで持ち上げながら 「それ」 をじっと見ている。

「見えにくいとは思うけど、一応着替えの時気をつけて」

そう言ってから今度は唇に激しく口付けてきたんで夢中になって。

それきりすっかり忘れていた。








次の日お風呂から出た後で髪を拭きながら何気なく鏡を見て気付いた。

二の腕の内側に鮮やかに浮かぶ赤いしるしに。

途端にその時のことを一気に思い出して体が熱くなった。
どうしようもなく会いたくなってしまって、切ない気分でその赤い色を舐めてみた。

「・・・・・・・間接、  キス、 だ」

口に出してつぶやいて、何だか嬉しくなった。






それから毎日寝る前にそこを舐めた。
そうすると離れていても繋がっているような幸せな気持ちになれたから。
日々少しずつ薄くなるそれにこっそりと口づける。

消えちゃったら、 寂しいな、       と思いながら。








次に泊まった時、阿部くんはちゃんと覚えていた。
すでに朦朧としているオレの腕を掴んで、そこを確認して 「消えたな」 と
ホっとしたようにつぶやいた。
それでオレも 「あ」 と思い出して、気が付いたら口が勝手に動いていた。

「また、 付けて・・・・・・・・・・・」
「え?」

阿部くんの声に怪訝そうな響きが混じる。

「いいのか?」

続いて聞かれてこくりと頷いた。

「じゃあ、見えないとこな」

声とともに阿部くんの頭が下がっていって、右足の膝を立てさせられた、と思ったら
足の内側の付け根に顔を寄せてきたのがわかったから、慌てて言った。

「そこ、 じゃダメ・・・・・・・・・・」
「は?」

また不審気な声。

「だって」

その時もう本当に頭がぼーっとしていて、何も考えてなかったので。

「間接、 キス   できない  から」

浮かんだそのままを言いながら目を閉じて、待った。
でも何も起きない。
変だなぁ  と不思議に思ってから  「あ」  と気付いた。

もしかして。
まずいことを言ったような気がする。
慌てて目を開けて阿部くんを見たら。
阿部くんは目を丸くしてオレの顔をまじまじと見つめていた。
その顔でわかってしまった。


阿部くんにバレた。
オレのしていたこと。


途端に恥ずかしさのあまり逃げ出したくなって。
でもそんなことできるはずもなく。
次の瞬間にはすごい力で抱き締められた。


「三橋」


熱い吐息とともに耳元で囁かれて。
オレはうっとりしながらまた目を瞑った。


今日はもう、 当分  眠れないな、   とわかったけど。


それでも いいや        とぼんやり思った。















                                                しるし 了

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                                                    そうかいいのか・・・(しみじみ)