策略 (後編)





いやだまされてはいない。 だって確かに 「口に」 とは言わなかった。 だけど。

焦りまくっているうちに服は一番上までめくられてしまった。
阿部くんの光る目がじっと見つめているのがどこかなんてすぐにわかった。
あぁまずい、 と慌てたところでもう遅い。

「ここ、 にさせて?」

言うや阿部くんの口がオレの乳首を柔らかく包んだ。

「あっ・・・・・・」

ヤらしげな声が出ちゃった。  でもだって。
阿部くんの舌が乳首に触れて、瞬く間に硬くなったのが 自分でもわかった。
同時に下半身に急速に熱が集まる。
舌は容赦なく突起を転がして、吸って、甘噛みして、それだけで全身の血が沸騰する、
くらいに 感じる。

「ふ、   あ」

上がる息も声も抑えられない。 どころか、もう片方の乳首も疼いて
そっちにも触れてほしい。 なのに片方にしかしてくれない。

「あ、阿部く・・・・・・」
「ん」
「・・・・・・・・・。」

(い、 言えない・・・・・・・・・)

こっちもして、 なんて。  だってそれを言ったらなし崩しにきっと。
ぎりぎりのところで理性がそう囁いた。
オレが今日はダメって言ったんだから、それで通さないと。

「やっぱ、 な、なんでもな・・・・・・・・・」

荒くなる息を抑え抑え言うと、ふっと口が離れた。
すぅっとそこが寒くなって、でもまだじんじんと疼いている。

「ふーん・・・・・・・・・・」

阿部くんの目が細められた。 内心で引いた。
何を考えているんだろう。
わかるような気がするけど、考えたくない。

阿部くんはあっさりと服を下ろした。 ホっとすると同時に寂しくなった。
でもすぐに 「じゃあ次」  と阿部くんが言った時
「え、まだやるの?」  と思ってから。

血の気が引いた。

次に間違えたら、今度はどこにされるか、とか
オレの理性はどこまでもつか、とかそんなことがぐるぐると回って
それで余計に覚えたことがどっかに飛んでいってしまった。

阿部くんは、最初からこのつもりであんな提案を。

というか。 その前からオレの嘘を見抜いてたんじゃ。

パニックになっているうちに問題が提示されて、もうまるで答えられなくて
また阿部くんがにんまりしたのを硬直しながら見つめた。

阿部くんが無言でオレの足に手をかけて、膝を立たせた。
続けてぐいっと広げられてからベルトに手がかかった時、一応抵抗してみた。 言葉だけで。

「や、 だ・・・・・・・」
「なんで?」
「・・・・・だって」
「キスしていいって言ったじゃん」

だってまさか。

「約束は約束」

阿部くんの無情な声を聞きながらオレは目を瞑った。
顔が熱い。
わざとのようにゆっくりと、ズボンの前が開かれていく。
ジッパーの下ろされる音がやけにイヤらしく響いて、オレはますますきつく目を閉じた。
閉じたいのは本当は目よりも足だけど。 
でもそんなことをしたところで無駄なのもわかっているから我慢した。
下着を無理矢理少し下ろされて、オレのが外気に晒されたのが わかった。

「・・・・半分勃ってる」

楽しそうな阿部くんの声に、顔の熱さが増した。  燃えるんじゃないかというくらい。
キスと胸への愛撫で熱を持ってしまったそれを、阿部くんがじっと見ているのが
確認しなくてもわかる。
それだけで、もっとそこに熱が集まっていく のもわかる。  いたたまれない。

それから阿部くんが動く気配がして、そこが唇で覆われる感覚がした。 
強烈な快感に体が跳ねた。
ゆるゆると舌が這わされる。

「ふ・・・・・・・・」

腰が勝手に動かないようにするのが精一杯で、声まで意識が回らない。
舌はまるで生き物のように一番感じるトコロを執拗に辿って
先端を割ったかと思うと、先の部分全体を強く吸われる。

「はぁ、  あ、  ん」

早くも先走りが出ているのが自分でもわかる。
それも阿部くんの舌が絡み付いてどんどん吸い取っていく。
恥ずかしくて、でも気持ちよくて全然なにも考えられない。
どころか。

欲求が浮かぶのを止められない。
後ろにも、触ってほしい。 それで入れて、ほしい。
阿部くんを感じながら、イきたい。
でも言えない。  最初にダメって言ったのはオレ、なのに。

さんざん嬲られてからようやく舌と唇が離れていった時、
オレはみっともないくらい息が上がってて、目もろくに開けられなかった。
なのにまたもや冷静な声がした。

「じゃあ次の問題な」 

思わず叫んでしまった。 悲鳴みたいな声になった。

「あ、阿部、 くん!!」
「なに?」
「も、  でき、 ない」
「でもオレまだもう一箇所、したいトコあんだけど」

ぎょっとした。

「ど、ど、どこ・・・・・・・・・」

本当は聞かなくてもわかってた。

「ここ」

阿部くんの手が布の上からオレの後ろ部分を探った。
それだけでもう勝手に吐息が漏れる。
けどそこにキスされるのは未だに抵抗がある。 気持ちいいんだけど嫌だ。 それに。
もうどっちにしても我慢なんて  できない。

オレは降参することにした。
阿部くんに敵うわけなんて、ないんだ。

「阿部くん・・・・・」
「なに?」
「・・・・・もう問題 やめて」
「ふーん?」
「・・・・・・・・し、 よ?」
「なにを?」
(わ、わかってる、くせに・・・・・・・・・)

「あの」
「うん」
「だい、 て ほし・・・・・・・・・」

ぎゅうっと、目を瞑って言った。  声が震えた。  阿部くんは黙っている。

「お願 い・・・・・・」
「いいの?」
「うん・・・・・」
「疲れてんじゃねーの?」
「阿部くん・・・・・・・・・・・・」
「ん」
「・・・・・意地悪  だ」

ふふっ  と笑う気配がした。
耳元に阿部くんの口が近づいて 「うんそう。 ごめんな?」 と囁かれた。
ぞくっとして、でもその声がすごく、嬉しそうだったんで、 もういいや  と思った。
元々オレのつまんない意地だったんだし。  本当は。
オレだって、 したくて堪らなかったんだ・・・・・・・・・・・








○○○○○○

その後服を全部脱がされてベッドに移動して、いつものようにたくさん触られてから
阿部くんが入ってきた時、幸せと快感でくらくらした。

んだけど。

ゆるゆるとオレの中で動く熱い塊に
夢中で快感を追っていたら 「そういえば」 というつぶやきが聞こえた。

「なんで最初ダメっつったの?」
「へ・・・・・・」
「疲れたからなんて嘘だろ?」

やっぱり バレてたんだ、  と霞む頭で思った。

「なぁなんで?」

本当は言いたくなかったけど、もうあまり強く何かを思う気力もなかったし、
気持ち良くていろいろなことがどうでもよくなっていたから、
今度は意地を張らずに正直に言った。

「あの女の子・・・・・・・・」
「は?」
「あの子、 最近いつも  いて・・・・・・・」
「はぁ?」
「今日、 阿部くん、 その子 と・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・。」
「楽しそうに、 笑って話して、 て・・・・・・」
「えっ・・・・・・・・・・」

びっくりしたような声と同時にぴたりと、動きが止まった。
なので目を開けて阿部くんを見た。
阿部くんはぽかんとした顔をしていた。
あまり見れない顔だったんで、思わずオレもまじまじと見つめ返してしまった。
と思ったら次に何だか嬉しげに にやっと笑った。

「嫉妬、 したんだ?」
「・・・・う・・・・・」

図星だから反論できない。

「アホだなおまえ」

だって。

「あん時笑ったのは 『三橋さんと仲いいですよね』 って言われたから」
「へ・・・・・・・・・」

急速に、穴があったら入りたいくらい恥ずかしくなった。
勝手にいじけて拗ねて、バカみたいだ。

「ふーん。 それで嫉妬」

阿部くんはまたにんまり、という感じで笑った。 そして言った。

「おまえがそーやって不安になるのって、半分はオレのせいだよな?」

嫌な予感が。

「じゃあ今日は」

言って阿部くんは自分の唇を舌で舐めた。 
ぞくりとした。 いろいろな意味で。

「オレがどんだけおまえを好きか、よーっくわからせてやるからな!」

(あぁやっぱり・・・・・・・・・・・)

諦めてまた目を瞑りながら オレはでも
言えばこうなる、 とどこかでわかっていたような気がする、  と思った。


そして阿部くんはその言葉をきっちりと実行したんで。





それから長い時間の後ようやく解放された時、指を動かすのすら億劫だった。
でも腕に抱き込まれて阿部くんの胸の温もりに包まれて
安心してうとうととまどろみながら、

「まだ何か不安ある?」

という囁きが聞こえたとき、

半分飛んでいた意識をかき集めて残りの気力を総動員して、 言葉を搾り出した。




「全然、 ない  です」



















                                                  策略 了

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                                                   この後のアベの顔が見えるようです。