好奇心旺盛





阿部くんの机の上にあるその本がふと目に入った時、
タイトルを見てもまず何の本かわからなかった。

だから阿部くんがお風呂に入っている間に手に取ってみたのは、本当に何の気なしだった。
中をぱらぱらと見て。
何の本かわかって。
すごい勢いでばたん!! と閉じた。
ものすごく嫌な予感がした。

そしてその 「嫌な予感」 が現実になったのはそれから2時間後のことだった。

「いろいろ試してみよう!」

いかにも楽しげに言いながら阿部くんがその本に手を伸ばした時、
半ば予想していたとはいえ、正直逃げ出したくなった。
素っ裸じゃなかったら本当に逃げていたかもしれない。

本のタイトルは 「48手図解集」 だった。
無駄と知りつつ、抗議、らしきことを言わずにいられなかった。

「・・・・・・なんで、そんなこと・・・・・・・・」
「だっておまえ体やらけーから」
「・・・・・・・・・。」
「なんでもできそう」

体ができてもココロが。

じわっと後ずさったオレにお構いなしに阿部くんは本を開いて、
「どれにしよっか」 なんて楽しそうにつぶやいている。

「これは?」

阿部くんが顔を上げた時、オレは部屋の一番隅っこに丸まって壁にへばりついていた。

「あ」 という顔を阿部くんはしたけど。
ずんずんとオレのそばに来て腕をむず と掴まれて、
またずんずんとベッドに連れ戻されてしまった。

「これやってみよう」

開いたページを無理矢理目の前に突きつけられてちらりと見て。

「む、 り」
「え? できそうじゃん?」

だからココロが・・・・・・・・・・・・・

なんて内心だけで抵抗しているうちに えいっと押し倒されて、
足を思い切り恥ずかしい角度に開かされた。    本の図どおりに。
足の間に阿部くんが入ってくる前に慌てて言った。

「い、いや・・・・・・」

阿部くんの目が光った。

「いーじゃん。 やってみようぜ?」

その目を見てオレは思い出した。

してる最中の 「いや」 は禁句だった。 というか逆効果なんだ。
恥ずかしいから、という理由で 「いや」 と言うと、
どうやら阿部くんをさらに煽る結果になるらしい、ということにオレは最近気付いた。
なので慌てて言い直した。

「あ、足・・・・・痛い、よ・・・・・・・・・」
「え? 痛い?」
「うん・・・・・・」

本当は嘘だ。 全然痛くない。 恥ずかしいだけ。
でもオレは必死で痛そうな顔をする。
阿部くんは残念そうな表情で、でも押さえつけていた手を離してくれたんで、
急いで足を閉じた。

「じゃあこれは? この 『立ち松葉』 ってやつ」

見せられてぎょっとした。  いやだこんなアクロバットみたいな。

「む・・・無理・・・・・・・・!!」
「でも キモチイイ て書いてある」
「あ、あ、頭に血が上りそう・・・だから・・・・・・・・」

苦し紛れに言った言葉に阿部くんは 「あ、そーだな」 とあっさり言った。

「ホントだ。  『女性は苦しい』 って書いてある」
「・・・・・・・・・・・・。」
「じゃあやめよう」

ホっとした。

「じゃこれ、この 『鯉の滝登り』」

また立ってやるやつ・・・・・・・・・・・・・

「立ってやるのヤだ・・・・・」
「なんで?」

だって足の力抜けるもん絶対・・・・・・・・・

思いながら黙っていたら阿部くんはとんでもないことを言った。

「これができると外でも」
「ぜ、 絶対、 ヤだ!!!!」

阿部くんは苦笑して肩をすくめた。

「冗談だよ」

・・・・・嘘だ・・・・・・・・

疑いながらじーっと見たら、阿部くんは 「ちぇっ」 て顔をして、また本に目を戻した。

「じゃあこれは? これなら平気だろ?」

見せられたのは割と普通っぽかった。
阿部くんが仰向けに寝てオレが上から跨る形になるやつ。
それなら何回かやったこともあるし。
ホっとして、頷いた。

なのに。
寝た阿部くんの上に跨って、ゆっくりと腰を落として
全部入って はーっと息をついたところでぎょっとするようなことを言われた。

「じゃあ回って?」
「・・・・へ・・・・??」
「入れたままぐるりと一回転。」
「えぇ?!!!」
「だってそう書いてあるこれ」
「や・・・・・やだ・・・・・」
「やってよ」
「・・・・・・・・。」
「キモチいいかもよ?」

・・・・・そうかなぁ・・・・・・・・・・・・・・・・

「お願い三橋」
「・・・う・・・・・」

お、お願いされてしまった・・・・・・・・・・・・・・・
きらきらと期待で輝いている阿部くんの目を見ると
無下に嫌と言えなくなって (言っても例によって逆効果になる気もするし)、
オレはおそるおそる体を動かし始めた。 

少し回ったところで危うく声が出そうになった。
角度が変わったせいで敏感な部分が強く刺激されたからだ。
慌てて何でもない顔を作りながら、でもオレはそこでぴたりと止まった。
回りにくい。

物理的に回りにくい・・・・・・という以前に、オレが動いて阿部くんがじっとしてるってことは
阿部くんがじいーーっとオレを見るってことで。
見られるのはいつものこととはいえ、恥ずかしくて堪らない。
快感を追いたい気分より逃げ出したい気分のほうが勝っている。
ごめんね、  と心の中で謝った。

「いた・・・・・・・・・・」
「え? 痛い?」
「う、うん・・・・・・」
「え〜・・・・・・・・?」

阿部くんの目が疑わしげになった。

「本当に痛い?」
「ほ、 ほん、と」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「じ、自分で回ると、 痛い・・・・・・・・・・・」
「・・・・・ふーん・・・・・・・・・・」

オレは必死だった。

「そ、それにオレ」
「うん」
「ふ、普通のかっこが一番感じる・・・・・・・・・・・・」
「そんなのやってみなきゃわかんねーじゃん」

ぐ、 と詰まった。 阿部くんの言ってることは正論だ。 でも。

「あ、 あの、ね」
「うん」
「オ、オレもう我慢できな・・・・・・」

これは本当だ。 阿部くんが入っててしかも敏感な部分に当たってて、
さらにじっと見られてて、さっきから体が疼いてしょうがない。
自分で動くのは恥ずかしいけど、でも早く。

「は、早く、してほしい・・・・・・」

阿部くんが一瞬妙な顔をしたかと思うと片手を目に当てた。

「ったくおまえって・・・・・・・・・・・・・・・」

ぼそりと、つぶやきが聞こえたかと思ったら
阿部くんはがばって感じで起き上がって、
え? と思った時はもう逆に押し倒されてて (その拍子に繋がりが解けた)
足を大きく開かされてすぐにまた深く貫かれた。

「あっ・・・・・・・・」

喘いだオレを見下ろしながら阿部くんは笑った。 嬉しそうに。

「覚悟しろよ?」

言うなり動き出して。
揺さぶられながらたちまち霞んでくる頭で

・・・・・・・・やっぱりこれが一番キモチいいと思うんだけどな・・・・・・・・・・・・・

とぼんやり思った。









○○○○○○○

そんなことがあってから1週間くらいしてから。
阿部くんが困ったような顔でオレに聞いてきた。

「三橋さ、あの本知らねー?」
「え?」
「あの、体位の本」

タイイ? とか思ったけど実は 「あの本」 の時点でわかっていた。

「知らない・・・・・」
「ふーん?」
「・・・・・・・・・・。」
「なんでか、見当たらないんだよなぁ・・・・・・・」
「そ、うなんだ・・・・・・・・・・・」

言いながら ごめんね、 とまた思った。

あの日の夜中にふと目を覚ましたのはたまたまだったけど。
熟睡している阿部くんを見て、そうだ、 と唐突に思いついて
例の本を阿部くんの部屋の天袋の一番奥に隠してしまったんだ。

だって、本当に恥ずかしいんだもん・・・・・・・・・・・

「またやってみようと思ってたのになぁ・・・・」

残念そうにぼやく阿部くんを横目で見ながら冷や汗が出た。

やっぱり隠しておいて良かった・・・・・・・・・・・・・

でも。

申し訳なく思いつつもこっそりと安堵のため息をついたオレの耳に
続いてとんでもないつぶやきが聞こえた。

「そうか!! ネットで調べればいいんだ!!!」







・・・・・・・・・・勘弁して、  ください・・・・・・・・・・














                                                好奇心旺盛 了

                                               SS-B面TOPへ







                                                    あおべこはネットで調べました。