変わらないこと






薄闇に浮かび上がる白い背中に、指を這わせる。

びくびくとそれが震えて はぁ と、密やかな吐息が漏れる。

噛み付いて、しるしを刻みたい衝動を散らしながら指を滑らせていく。
そのまま下に下ろしていって腰骨の辺りをそろりとなぞってやる。

「ふ・・・・・・・・・・・・」

身じろいで顔をいやいやするみたいに微かに振った。
シーツに押し付けられた顔は今は見えないけど。
きっと上気して口を半開きにして涙を滲ませている。 見なくてもわかる。

柔らかな双丘を包んで揉んでやるとそれが逃げるように動こうとした。
けど、もちろん逃がさない。
両手で揉みながら今度は白いその塊に歯を立てる。
着替えの時でもここは見えないから。

「う・・・・・・・・」

快感とも苦痛ともつかない押し殺したような声を聞きながら
きつく吸ってやってから離して見れば鮮やかな赤が散っていて。

(オレんだ)

密かに満足する。
すぐに消えてなくなる証だから刹那的だと思いながら、それでも。

衝動に逆らわずに、そこを両手で押し広げるようにしながら
真ん中の蕾に舌先を這わせると。

「い、 いやだ・・・・・・」

必ず三橋は嫌がる。 これだけは未だに本気でイヤみたいだと知っている。
だからたまにしかしないようにしてるけど。
でもその理由はどっちかというと オレのため、であるのも知ってるから無視する。
だって感じてるのがわかるから。

「あ、 や、 あべく・・・・・・・・」

抗議と同時にまたしても体が逃げていこうとするのを許さずに手に力を込めながら
舌でそこの周辺と中を丁寧に舐め回す。

「あ、 あぁ・・・・・・・・・」

声に涙の気配が混じる。
オレの理性がどんどん薄くなる。
白い肌も、押し殺した声も、敏感に反応して震える体も
顰められた眉も潤んだ瞳も全部がオレを煽るものになる。
愛しさとか征服欲とか、もっとめちゃめちゃに乱れさせたい衝動なんかが
体中に渦巻いて出口を求めて駆け巡る。 
体の欲に比例して感情の欲も大きくなる。   気が狂いそうになる。

舌を離して指を差し入れるとすでに大分潤っている。
三橋のそこはもう、ローションなしでも愛撫によって濡れてくる。
人間の体の順応ってすごいと思う。

そんな色気のないことをどこかで思いながら指を埋めていくと、僅かに体が強張った。
宥めるように、もう片方の手をうつ伏せになっている体の下に差し入れて胸の突起を探った。
すでに散々嬲って、硬く起ち上がっているそこを再度摘んで捏ねてやると。

「・・・・ん・・・・・・・」

鼻にかかった吐息とともに体から力が抜ける。
同時に中に深く埋めた指で三橋の 「そこ」 をそっと刺激してやると、悶えるように身を捩らせた。
息もいっそう荒くなって、静かな部屋にやけに大きく響いてそれにまたひどく煽られる。

「あ、   あ・・・・・・・」

拒絶するかのように体の向きを変えて仰向けになろうと足掻くのを
止めないで好きなようにさせる。  逃げ場なんてどこにもないのに、 といつも思うけど、
こればかりは意思とかじゃなくてどうしようもないらしいことももうわかっている。
反転する体の奥から指を抜いてやると、ホっとしたようなため息とともに
横向きになって小さく丸まろうとした。
そこまで好きにさせるはずがなく、腰を掴んで容赦なく前を暴いてやると
顔を真っ赤にしてオレの視線から逃れるように精一杯横にそむけて、目をぎゅうっと閉じてしまう。
横目でそれを見ながらオレはこっそり舌なめずりする。

もう濡れて震えているそれに舌を這わせてやると声が止まらなくなった。

「ふ、   う、 ・・・・・やぁ・・・・・・・」

またいやいやと顔を振りながら、そのくせ体は正直にオレを求めている。
びくびくと震えながら、揺れそうになる腰を必死で止めようと努力しているのがよくわかる。
前を口に含んで舌でなぞりながら空いている手で後ろの蕾を再び探ると、
誘うようにそこが蠢く。   指を2本にして深く差し入れてやると
前のほうが敏感に反応して、口の中に苦い味がし始めた。

「ん、 あ・・・・・・・あべく・・・・・・・・・・・」

うわ言のようにオレを呼びながら、その頃になると三橋もあまり無駄な抵抗をしない。
悩ましい声を漏らしながらひたすら快感に耐えるしかできないようで
どこもかしこもとろとろになって、無自覚に全身でオレを誘う。

でも余程焦らさないと自分からねだることはしない。
最近は以前と違って素直に言ってくれることも増えたけど、
自分から積極的に言うことは滅多にない。
理性もまともな思考もほとんど残ってないくらいになってようやく
欲しがってくれることもあるけど、オレもそこまで焦らすことはあまりない。
自分のほうが我慢できなくなるからだ。

下半身はもうずっと重くてじんじんと疼いていて解放したがる体を宥めながら
時間をかけてあれこれするのはそれが楽しいからだ。
次第に正体をなくしたように悶え始める三橋を見るのも単純に楽しいし、
それだけでなく、自分のだと、理屈抜きで安心する。 幸せな気分になる。

口を離して、指を抜いてやるとホっとしたようなため息がまた漏れる。
膝裏を掴んで大きく広げさせると三橋がうっすらと目を開けて、オレをじっと見つめる。
潤んだ目には間違いなく期待が見え隠れして、
口では言わなくても目は正直にオレを欲しがっている。 それでいつも嬉しくなる。

とろとろになったそこに自身をゆっくりと埋めていくと
三橋は目を瞑って背をのけぞらせて圧迫感に耐えるような表情を一瞬するけど。
慎重に、全部収めるとまた顔が変わる。
動く前から中が収縮する。
夢みたいに気持ちがいい。
最初の頃はそれだけで堪えが効かなくて、すぐさま突き上げることも多かったけど、
慣れてからはその感触を楽しむことができるようになった。
どこもかしこも熱くて蕩けそうな体はお互い様で
深く交じり合っていく感覚に眩暈がするほどの快感と幸福感を覚える。
溺れる、 てこういうのじゃないかと、また益体もない思考が掠める。

顔を見下ろしながらゆるゆると動くと白い喉を晒して身悶えた。

「あぁ・・・・・・・・・」

漏れ出る声も格段に色っぽくて、今三橋の中には心にも体にも
オレしかいないんだなぁと実感できる。
掻き回しながら、手で体を愛撫してやるといっそう乱れる様も愛しくて。

その時間を長引かせたくてゆっくりと長く動いていると
そのうち三橋の目から溢れ出る涙が止まらなくなって、目を半分だけ開けてオレを見る。  
何か言いたげに、切なげに、言葉にしないで懇願してくる。
手をオレのほうに伸ばして縋りついてくる。

しなる背中をきつく抱き締めて激しく突き上げる頃には
オレも理性なんてほとんど残ってなくて、欲望と感情だけで体が勝手に動いてしまう。
乱れた吐息と声をもっと聞きたくてどんどん追い詰めて追い上げて
そのくせなかなか解放に導いてやらなくて無理させたりもする。

(オレのもんだ・・・・・・・・・・・・)

その一点だけが浮かぶ。
それはいつも同じで、多分これからもそうなんだろうと思う。
体の快感よりも気持ちの充足感が何より一番欲しいんだと、
思い知らされるのもいつものことで、もう慣れた。

「ん、 ん
・・・・・・・・・」

達する瞬間三橋は必ず声を上げる。
それは大きくはないけど、ダイレクトに下半身に響く、くらい壮絶な色気があって
おまけに同時に中がきつく締まるわで、オレもそれ以上は我慢しないで解放する。

全部出し終わるまで捩じ込むように突いてやると、細い体がまた細かく痙攣する。
ぱたぱたと、汗が落ちて白い肌を滑るのを ぼぅっと霞んだ目で眺めながら
狂おしいくらいの感情に耐える。


愛しくて幸福で切なくて 苦しい。
体の欲が収まっても感情の欲は収まらない。
それが、苦しい。   けどどうすることもできないから。 
じっと耐えるのも、 いつものこと。


その渦に耐えながら抱き締めていると、三橋が仕草だけでキスをねだってきた。
ついばむように何度もしてやると、そのうちに色気抜きのとろりとした目になって
そのまま眠ってしまうのも最近ではよくあることで。


安心しきったその顔を見ながらつくづくと思う。

オレは本当に、最初の時からこいつには翻弄されてばっかりだと。


そして結局 「まぁ、いいか」 とつぶやいて

オレも大概進歩がない    と、1人でこっそりと   笑う。



















                                                変わらないこと 了

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