独占欲





その日の阿部の訪問は突然だった。
日曜日で練習は休みで、しかも三橋の親は不在で、通常なら間違いなく2人で過ごすはずの日なのに
約束してなかったのは、その日は阿部の家の事情で
阿部の都合がどうしてもつかなかったせいだ。
なので三橋も、仕方ないから1人で投球練習でもしようとぼんやり考えていたところだった。

予期せぬチャイムの音に玄関に出て阿部の姿を見た三橋は、だから驚いた。

「あ・・あれ・・・・? 阿部くん・・・・今日ダメだったんじゃ・・・・・・」
「あー、まぁな。 でも大丈夫になったんだ。」
「・・・・・・・・。」
「何だよ、来ちゃまずかったのかよ。」
「ま・・・・まさ、か。」

まずいどころかすごく嬉しかった。
とにかく中に入ってもらう。
練習にも付き合ってもらえるかもしれないと思うと顔が緩んだ。

が、部屋に入った途端に阿部は三橋をきつく抱きしめた。

(え・・・・・)

三橋が驚くまもなく忙しなく口付けられた。
しかもすぐに深くなった。
びっくりしたけどとまどいながらもいつもの習慣で応えてしまう。

付き合い始めて大分経つので、そこまではまだそれほど意外なことでもなかったのだけど。

背中に回った阿部の手が三橋のジャージ(それもズボンのほう)の中に侵入してきた。
さすがに三橋は驚いた。
さらにやにわに双丘を掴まれて息が止まりそうになった。 けど口のほうはしっかりと塞がれていて
抗議の声も出せない。
焦りまくっているうちに指が1本無理矢理中に入ってきた。

「!!・・・・ん、ん・・・・」

思わず声が漏れた。 鈍い痛みが走る。
いくら何でもこんなに性急な阿部は変だ。 おまけにまだ真昼間だ。
三橋は身を捩って逃れようと足掻いた。 
でも、阿部の片手は三橋の腰にがっちりと回っていてびくともしない。
もう一方の手の指は三橋の中から出て行く様子もない、どころか中で動き始めた。
慣れた指は的確に三橋の感じる部分を擦りあげる。
体が跳ねた。
たちまち痛みより快感のほうが大きくなる。
必死で顔を左右に振って唇から逃れた。
離れた瞬間  「阿部・・・くん・・・!!」 と抗議の声をあげるけど、
またすぐに塞がれてしまった。
舌を強く吸われて抵抗する気力がなくなっていく。
気持ち良くて足ががくがくしてくる。

同時に体の中の指がさらに動き、快感のほうがどんどん勝ってきてしまった。
頭の中が白くなって もうどうでもいいという気分になってきた。
自分を抱き締めている阿部の体が熱い。
同じくらい自分も熱くなっていくのがわかる。

阿部の口が少し離れた。

「・・・・・は・・・・・」

ようやく息をついた三橋は、でももう抵抗できない。
息が浅く、出るのは切な気な吐息ばかりだ。
指はまだ中にあって忙しなく、でも確実に三橋を追い上げている。
きつく目を瞑って快感に耐えることしかできないでいたら、耳元で阿部の低い声がした。

「三橋、したい。」

ぞくっ  と肌が粟立った。
声にまで感じてしまいながら、それでも三橋はかろうじて目を開けてつぶやいた。

「・・・・こんな・・・時間・・・から・・・」
「いいじゃん。」
言いながら阿部は三橋の耳朶をぺろりと舐め上げた。

「・・・う・・・・・」
「夜はおふくろさんたち帰ってくるんだろ。」
「・・・・ん・・・・」
「それにおまえ、濡れてきてるぜ。」
「!!!」

それは本当だった。
三橋のそこはもう阿部の指によって柔らかくほぐれつつあった。
実のところもう立っているのがやっとだった三橋は
それ以上躊躇する余裕もなく頷くことしかできなかった。

頷いたらやっと指が出て行った。
が、すぐにベッドまで引っ張っていかれ性急に押し倒され、あっというまにズボンを脱がされてしまった。
上も胸までたくし上げられる。
昼間の明るい光の中、ほとんど全裸を阿部の目に晒しながら
羞恥に震える三橋に阿部はすぐに覆いかぶさってきた。
そして先ほどまでの性急さとは打って変わって丁寧に愛撫し始めた。







○○○○○○○

「・・・あ・・・・・・あ・・・・」

さんざん焦らされ喘がされた挙句にやっと阿部が入ってきたとき
三橋はむしろ安堵のため息を漏らした。
もう冷静な思考なんてほとんど残ってなかった。

その時。

三橋の携帯が鳴った。

瞬間びくりとして目を開けて阿部を見た。
阿部は動きを止めてじっと三橋を見ている。
三橋は電話に出る気はなかった。
とてもじゃないけど話なんてできる状態じゃない。

けれど携帯はいつまでも鳴り続け、やむ気配がない。
阿部も相変わらず動かない。

「・・・・・・・出れば?」

阿部が言った。
どうしようと迷っているうちに阿部は手を伸ばしてその携帯を取り、
「じっとしててやるから」 と言いながら通話状態にして三橋の手に渡してしまった。
そうなっては話さないわけにはいかない。
三橋は覚悟を決めて 「もしもし」 と携帯に向かってつぶやいた。
声が少し、掠れた。

『もしもし、廉?』

叶だった。

「あ・・・うん・・・・」

ぼんやりと三橋は頷いた。
(何だろう・・・・・・・。)

『今から会えない? 久々に遊ぼうぜ。』

叶の声は屈託がない。

「・・・ダメ・・・・・・」
『え? でも今日ヒマだろ?』
「今日は・・・・・・ダメ・・・・・・・・ごめ・・・・・・」
『何で?』
「なん・・・・・・でも・・・・」
『・・・・どうしても?』
「・・・・どうし、ても・・・・・・・・」
『え〜・・・・・』

食い下がっていた叶はそこでしばし黙った。 それから
『じゃあ仕方ないな』 と言ったので三橋はホっとした。 が。
叶はそれから世間話を始めた。
三橋は上の空で相槌を打ちながら、なかなか切れない電話に困り始めた。

体が熱い。

阿部は言葉どおりじっとしている。
なのに繋がったそこからじわりと、熱が全身に広がる。
体が疼いているのがはっきりとわかる。
叶の言葉を聞くことすら覚束ない。
自分をじっと見つめている阿部の目をぼんやり見つめ返していると、それだけで
全身がますます火照ってくる。 

(そんな目で・・・・・・・見ないで・・・・・・・・・・)

会話と全然関係ないことが頭をよぎって、慌てて電話に意識を戻そうとした。 けど。
電話の向こうの声がやけに遠くに聞こえる。  ちゃんと相槌を打てているのかもよくわからない。

その時。
いつまでも切れない三橋を見ながら阿部が微かに、 笑った。
と思った途端にぐっと動かれた。  僅かだったけど。

「んぁっ・・・・・・・」

瞬間三橋は喘いだ。  止められなかった。

『・・・・廉?』
「あ・・・もしもし。」
かろうじて普通の声を出した。

『・・・大丈夫? 今何してんの?』

答えられるわけがない。

「・・・何も。 ・・・・・・・・大丈」
ぶ、 と言いかけてまた三橋は息を呑んだ。  阿部が。
唐突にまた突き上げたからだ。 一回だけ。

「あぁ!!!」
『廉??!』

訝しげな声が聞こえる。 でももう話せない。 足ががくがくと痙攣したように震えている。
それでも電話を切らなくてはならないという理性だけでようやく
「・・・あ・・・もう切る・・・・・・また、ね」
とだけ何とか言った。  大分上ずった。 
叶の返事も待たずに慌てて通話を切った。

切るやいなや阿部が携帯を取り上げて電源をオフにしてその辺に放り投げた、と思ったら
いきなり激しく突き上げられた。

「はっ・・・・・・あ、  あ・・・・・」

三橋はもう抗議の言葉も出ず、ひたすら喘いで阿部の熱に身を任せた。







○○○○○○

「ひどいよ阿部くん・・・・・・」

ぐったりと横たわりながら三橋がやっと文句を言うと阿部は少し笑った。

「オレの知らないとこで叶に会うんじゃねぇぞ。」

(え・・・・・・?)

三橋は不審に思った。

(オレ、叶くんの名前言ったっけ・・・・・?)

通話中名前を言った覚えがない。
半身を起こしながら浮かんだ疑問をそのまま口にした。

「何で・・・叶くんて・・・わかった・・・の。」

あっ、 という顔を阿部がした。 はっきり 「しまった」、という表情だった。

「阿部くん、知ってた・・・の・・・・?」

阿部はしばらくムっとしたように黙っていた。 けど、開き直ったように言い放った。

「だってあいつオレに電話してきたんだぜ?」
「へ・・・・・・?!」
「おまえ、あいつにオレの番号教えたんだな」
「あ・・・・・ずっと前に、聞かれて・・・・・・」
「そんでおまえ昨日の夜、携帯の電源切ってただろ」
え? と三橋は首を傾げた。
言われてみればそうだったかもしれない。
「だからあいつ、オレに聞いてきたんだぜ。 『明日廉ヒマ?』 てさ。」
「!!」
「あいつ、バカだよな。 オレにそんなこと聞くなんてさ。」

唐突に、三橋は気付いた。
(まさか、阿部くん。)

「それでうちに来た・・・の?」
「・・・・悪いかよ。」
「・・・・今日の家の用事サボって・・・?」

阿部の顔が さっと赤くなった。

「そうだよ!!」
「・・・・・・・・。」
「だって、ヤだったんだもん。 しょーがねぇだろ!!」

言うなり赤い顔のまま ぷいっと横を向いてしまった。
その顔を見た瞬間三橋は先刻までの恨みがましいような気分がきれいに消えた、どころか
うっかり 「カワイイ」 と思ってしまった。
そしてその衝動のままに自分から阿部に短く口付けた。

(心配する必要なんか全然ないのに・・・・・・・・・)
とは思っただけで言葉にはできなかったけど。

でも阿部はものすごく驚いた顔をした。  それからさらに耳まで赤くなった。
三橋は別の意味で驚いた。

(阿部くんの、こんな顔が見れる、 なら)
恥ずかしいけどたまには自分からしようかな・・・・・・と思った、
までは良かったけど、その直後に再び押し倒されて。


大変なことになってしまった。





その夜、ダルい腰を持て余しながら
三橋は自分からしたことを少し後悔したのだった。













                                               独占欲 了

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                                        この阿部、黒いんだかカワイイんだかわからん。