チャレンジその2-5





「三橋」

我ながら情けない声が出た。

三橋はオレが抜いたらパタンと足を閉じ・・・・ようとしてるみたいだけど
足の間にオレがいるんで閉じれない。
でも顔はもう放心というか薄目を開けて ぼーっとしながらまだぽろぽろと涙を落としている。
(あぁオレってばもう・・・・・・・・・・・・・・)

「三橋、大丈夫か・・・・・・・・?」
「・・・え・・・・・う・・・ん・・・・・・」

こっちを見てくれた。

「今日はさ、やめとこ。」
言ったら 「え」 て顔になった。

「・・・いいの・・・・・・?」

いいも悪いも、  とオレは内心呆れた。
あんなに痛そうだったのにまだやる気かよ。

「うん。 だっておまえ血ぃ出てるし。」
「えっ!?!」

心底驚いたような顔で、三橋はがばっと起き上がった。
自分じゃわかんないか。 そうだよな。

「ちょっと傷見るぜ。」

途端にささっと体を後ろにずらして今度こそ足を閉じちゃった。

「・・・・・・・・いい。」
「ダメだよ。 薬とか塗っとかないと。」

膝に手をかけるけど頑として開かない。

「いい・・・・・・・平気。」

本当かな。 確かにちょびっとだからそんなにすごい傷じゃないかもだけど。
ほっといても治るもんなのかな。

気になったけどオレは罪悪感でいっぱいだったんで、本人がいいと言う
(というかイヤって顔してる。 思い切り。) 以上、無理矢理見るのは気がひけた。

やっぱり準備しないでやろうなんて無謀だったんだ。
慣れればそれでも大丈夫なのかもだけどお互い初めてなのに。
アタマではわかっていたのに思い留まれなかった。
だって、したかったから。
三橋がいいと言ってくれて嬉しくて舞い上がって
何とかなるんじゃないかなんて甘いこと考えて。
オレのほうが多分いろいろ知ってんだから、それに傷つくのは三橋のほうなんだから
オレがセーブしなきゃならなかったのに。

(・・・・・・・・・・オレの、バカ・・・・・・・・・・・・)

やり切れない気分で、黙って服を取ってやった。

「着ろよ。」
「・・・え・・・・・・・」

三橋は受け取ったはいいけどモジモジしている。
オレはゴムを外してさっさとズボンを履き直した。
お互い萎えちゃったし。 当然今日はもう無理だし。

その時、俯いて服を抱えたままだった三橋がぼそりと言った。

「阿部くん・・・・・・怒って・・・・る・・・・・?」

え? 三橋に怒ってるわけねえじゃん。  むしろ謝りたい・・・・・・・・・
と思ってから気が付いた。

オレが不機嫌ぽく見えたんだ。 違うのに。  オレ自分に怒ってんだけどな。

なので意識してできるだけ優しく言った。

「怒ってねーよ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「ホントだって。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

顔を覗き込んだらまた涙目になっている。
(ああもうこいつは・・・・・・・・・・・・)
思わず腕を引いてきつく抱き締めてやった。 ホントに全然わかってねーんだな。

「ごめんな。」

言ったらふるふると頭が横に振られた。 どころか、

「・・・・・ごめん、ね」 

謝りやがるし。

「おまえは悪くねぇだろ!!」

腕に力を込めてやる。 頼むから謝んなよ。 オレ、自分がナサケナイ。
そういうとこもスキだけど。 (最初はこういうとこ鬱陶しかったはずなのにな。)

やっと三橋が顔を上げてくれたんでキスをした。 優しく。
本当に怒ってないよ、と伝えてやりたくてついばむように何度も触れた。
でもそうしているうちにまた元気になっちまいそうになったんで
名残惜しかったけど離した。
オレって本当にどうしようもねーな。

三橋が後ろを向いてようやく服を整え始めたのを見ながらオレは
自己嫌悪と同時に不安になった。
せっかくせっかく三橋もその気になってくれたのに。
痛いからもうヤダって思ってたらどうしよう。
大体聞いた時だってもう体のほうがキていたわけだから
本当にしてもいいってワケじゃなくて、カラダだけの勢いだったのかも。
キモチはまだだったかも。

もしそうなら。
あんなに痛い思いさせちゃってもう金輪際ダメ、かもしれない。
もし三橋が、 「最後までは一生ダメ」 って言ったらどうしよう。
・・・・・・・・オレそれでもいい、けど。  我慢するけど。 (できんのかな)
でも、やっぱ悲しいな・・・・・・・・・・・・・・・

そこまで一気に考えて少し我に返った。
いくらなんでもちょっと悲観的過ぎる。
三橋と付き合うようになってオレ、若干こいつのが移ったのかしらん。
けどやっぱり不安だ。

何気なさを装いながら言ってみた。

「今度はさ、時間のある時にちゃんと準備してからしような?」

内心ドキドキしてたんだけど小さく 「うん」 と返事が返ってきた。
(あぁ良かった・・・・・・・・)
思わず安堵のため息が漏れそうになって慌てて堪えた。
だってうっかり出しちゃうとこいつはまた絶対変なふうに誤解する。

でも本当にする気あるのかな。 こいつのことだからな。
オレのため、とか思って無理してんじゃねーのかな。
なので顔を覘きこんで念押ししてみる。

「本当にいいのか?」  
「・・・いいよ・・・・・。・・・・・だって、」

だって?

「オレ、だって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もん


最後のほうがすごい小さな声だったんであやうく聞き逃すところだったけど
確かに聞こえた。

三橋は 「アベクンと、したいもん。」 と言ったんだ。
頬を真っ赤に染めながら。


オレはその瞬間もうすっげえ嬉しくなって思わずまたぎゅうぎゅうと
力任せに抱きしめてしまった。


次こそは。


上手くできますように       と思いながら。















                                         チャレンジその2-5 了

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                                                  頑張ってね。