墓穴を掘る男





初めてオレが 「それ」 をする、と言った時、阿部くんの目がまん丸になった。

そんなに変な、ことを言ったかな、  と焦ってしまうくらい。

でもだって。
いつもオレばかりしてもらってて。
恥ずかしいけどやっぱり気持ち良くて。
オレだって、しなきゃ、というか してあげたいキモチだってあるし。
上手くできる自信なんか全然ないけど。
いつだったか、2人でお酒を飲んで酔っ払った時にしたらしいけど、自分ではまるで覚えてないし。

珍しい阿部くんのまん丸目を見ながらオレは少し不安になった。
阿部くんが何も言わないからだ。

「だ、・・・・ダメ・・・・・・・?」
「・・・・・・・いや・・・・・・・・・・・・・」

短く、つぶやくように阿部くんは言ってから、またまじまじとオレの顔を凝視したかと思うと。
唐突にがばりとベッドに突っ伏したもんだから、オレはびっくりして飛び上がった。

「あ、阿部くん?!」
「・・・・・・・・・・。」
「どどどどうしたの・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

さらに不安になった。
阿部くんは突っ伏したまま動かない。  裸の肩が震えているようにも見える。

「き、気分、悪い、の・・・・・・・・・?」

心配になって覗き込もうとしたところで、
また がば!!!  という感じで勢いよく起き上がったんで、今度はオレはのけぞった。
阿部くんは起きたものの、目に手を当てて俯いている。

「阿部くん・・・・・・・?」  

どうしたんだろう・・・・・・・・・・。

「あ、大丈夫」
「・・・・・・・?」
「なんでもない」

言いながら阿部くんはオレを見てにっこり笑ってくれた。
何だか目が赤いような気がするけど、電気は豆電だけで薄暗いからよくわからない。
ごほん! と阿部くんは咳払いした。

「ダメなわけねーけど。」

え? と思ってから、それがさっきのオレの申し出についての返答だと気付いて、ホっとした。
あぁ良かった・・・・・・・・・・・・

「すげー嬉しいけど」
「そ、そう?」
「そりゃそーだよ。 ・・・・・でもなぁ・・・・・」

何か言いたそうな顔になった。 でも。

「まぁいいや。 やって?」

嬉しそうに言ってくれた。
なのでオレは、もうすっかり勃ち上がっている阿部くんのものにそっと顔を寄せた。
口を大きく開いて包み込んだ。
想像していたよりずっと息苦しい。
阿部くんは、いつもこんなに苦しいこと、やってくれてるんだなぁ・・・・・・・・・・・・・
今さら気付いて申し訳ない気分になりながら舌でぺろぺろと舐めてみる。  唇を締めてみたりもする。

「・・・・ん・・・・・・」

阿部くんの吐息混じりの声とともに、髪に手を感じた。
さわさわと、優しくまさぐられて嬉しくなった。
気持ち、イイ、といいな、と思いながら頑張る。

「根元、扱いて?」

また吐息混じりの囁きが聞こえて、あぁそうか、と思った。
先っぽだけじゃイけないよね・・・・・・・・・・・・

支えている手で絞るように扱いた。  同時に舌もせっせと動かす。
しばらくそうしていたら口の中に苦い味がし始めた。
先走りが出てる、とわかって嬉しくなって一生懸命続けていたら。

「・・・・・・・・う」

色っぽい声がしてますます嬉しい。
阿部くんのそういう声ってあまり聞けない。
聞ける時はオレもそれどころじゃないことが多いし。
声を出すのはいつもオレばかりで、少し悔しいような気もするし。

「あ、ヤバ・・・・・・・」

出そう、なのかな、と思いながら手も口も休めないでいたら。

「離して」

え? 
でもまだ出てない。 阿部くんは出るまでしてくれることもよくある。
オレだって、したい。

「離せってば!!!」

強い声と同時に口から逃げていきそうになったのがわかって、思わず唇にぎゅうっと力を入れたら。

口の中いっぱいに苦い味が広がった。
喉の奥に入ってしまってむせそうになって慌てて離した。

「ば・・・・・・・・」
「・・・・・・。」
「ばかっ! 吐き出せ!!」

焦ったように阿部くんが言ったけど、でもオレは飲みたい。
だって阿部くんはいつもそうする。
無理矢理ごくりと嚥下したら今度こそ思い切りむせた。

「げほげほげほ!!!!」
「だ、大丈夫か?!」

背中に温かい手を感じた。  忙しなく撫でてくれながら阿部くんは怒ったように言った。

「なんで吐き出さなかったんだよ!?」

だって。

「アホ!」

だって、阿部くんだっていつも。

咳き込みながら苦い味が口の中に残っててオレは呆然としてしまった。
わかってたことだけど。 苦い、というか。 マズい。
阿部くんこそ、なんで、こんな苦いのに、飲む、んだ・・・・・・・・
むせるのが収まってから、ようやく言った。

「阿部、くんだって、そうする、じゃないか」
「オレはいんだよ」
「オレ、だって」
「でもおまえに無理なことさせたくねぇ」
「無理、じゃない、よ」
「・・・・・・・苦しかったくせに」

図星を指された。

むぅっと膨れたオレを見て阿部くんは苦笑した。

「あのさ、体の負担だけでおまえには充分無理させてんだからさ」
「・・・・・・・・。」
「だからせめてそれくらいはしてやりてーんだよ」
「でも」
「それにオレはそんなに苦しくないし」

・・・・・・・本当かな・・・・・・・・・・

「でも、ありがとな」
「・・・・・・・。」
「すげー気持ち良かった」

本当? と思いながら にへっと顔が緩んでしまう。
オレって単純・・・・・・・・・・・・・

「じゃ、じゃあオレも時々、する、ね?」
「・・・・・・・・うーん」
「ダ、 ダメ?」
「ダメじゃねーけど」
「うん」
「だから無理させたくねーんだって」
「で、 も」
「それにオレやっぱ、下のほうがいいな・・・・・・・」

えっ?!

と思ったときはもう押し倒されていた。 そして。
阿部くんは目をきらきらと輝かせながら言った。

「お礼にいっぱいお返ししてやるな?」

え?!

「あ、ダイジョブ。 今日はもう挿れねーから!」

いやお返しはいいデス・・・・・と言おうとして口を開けたら。

「あ、   ふ、ぁ」

ヤらしい声が出てしまった。
阿部くんが早速指でオレのものを。

予定と違う展開にオレは内心で慌てた。
口でやったらそこで終わりになると思ってたんだけど。
だってそもそも1回終わって阿部くんが 「もう1回したい」 て言ったから。
しかも「いい」、とも「悪い」、とも言わないうちにもう
臨戦態勢になってしまっていたから、ああいうことになったわけで。
オレはもう今日はこれ以上いいっていうか充分満足して・・・・・・・・・・・・・

とかいろいろ言いたくてもすでに遅かった。
阿部くんの指に簡単に反応してしまう自分の体が恨めしい。
ついでに見通しの甘かった自分の学習能力のなさもイヤになる。

「ホラもう勃ってきた・・・・・・・」

嬉しそうな声が聞こえて早くも頭が霞み始めて。
こうなってしまうと、阿部くんは絶対にやめてくれない。
イヤと言っても、 「体はそう言ってない」 とか何とか言われるに決まってる。
諦めてなすがままになっていたら。

その後、時間をかけてめいっぱいされてしまった。
言葉どおり挿れられはしなかったけど、いろいろあれこれ。
あんまりたくさんされ過ぎて息も絶え絶えになって。
おまけに恥ずかしい声だの姿だの山ほど晒してるのもわかっていたたまれなくて。

「あ、あの・・・・・・もう・・・・・・やめ・・・・・」

喘ぎ喘ぎようやっと口にできた必死の制止も  「いや今日はサービスしてやっから!」
という明るい声で一蹴された。

「3倍返しが基本なんだよ」

ワケのわからないことを言いながら全然やめてくれる気配がない。

「でもあの」  

サービスはいつもしてもらっているし。
今日はもう3倍どころか10倍くらいお返ししてもらったような気がするし。
され過ぎるとオレあの。

等々の言葉は1つも言えなかった。
半分は口をきくのが億劫だったのもあるけど、
半分は阿部くんがあまりに楽しそうなんで、断るのが悪い気がしちゃったんだ。

当然の結果として結局オレは「サービス」のせいで、また何度か出す羽目になってへとへとになって。
ようやく離された時はもう服を着る気力さえ残ってなくて。

にこにこしてやたらと嬉しそうな阿部くんの顔をぼんやりと見ながら、


オレがすると毎度漏れなくこの「○倍返しのサービス」が付いてくるんだろうか・・・・・・・・・・・・

と思ったら。




さらに、 ぐったりした。













                                               墓穴を掘る男 了

                                               SS-B面TOPへ
  








                                                    きっと当分して貰えない。