バランスの問題





「絶対におかしい」  と、その時オレは思った。

オレの前にはジュースがある。
阿部くんの前にもあるけど。
阿部くんはじーっと、オレを、見ている。
いや見ていないようなフリをして見ている、 ような気がする。
何がどうおかしいとか説明は全然できないけど、何かがおかしいような。

(何が・・・・・・・・・・・・・?)

考えてもわからないんだけど、阿部くんの目がさっきからちらちらと、
目の前にあるこのジュースに注がれてるような気がしてしょうがない。

なので阿部くんちの家の電話が鳴り響いて
「ちょっとごめん」 と阿部くんが階下に下りている間に、
こっそりとお互いのジュースのグラスを取り替えてしまった。

戻ってきた阿部くんは開口一番、 「まだ飲んでねぇの?」 と言った。
オレは慌ててジュースを飲んだ。 別に普通の味の普通のりんごジュースだった。
阿部くんはそんなオレをじぃっと見てから、自分も飲んだ。 どきどきした。

でも別に何も起きなかった。 阿部くんも普通の顔をしている。

(・・・・やっぱり考えすぎだったんだ・・・・・・)

ホっとしてすぐに忘れてしまった。 けど。
異変は30分後くらいにやってきた。

阿部くんが急に一言もしゃべらなくなった。

変だな、 と思った。
元々そんなにいろいろしゃべる人じゃないけど、オレよりはしゃべる。
それにさっきまで機嫌よく最近の戦績のことなんかを話していたのに。
今は俯いて表情すらわからない。
オレが内心でおろおろし始めた頃、すっと顔を上げてオレをじっと見た。 その目を見て。

(ヤバい)

オレは思った。 この目は。 見慣れた目なんだけど。 こんな唐突に。

「三橋・・・・・・・・」
「は!!」

声も低い。 身構えていたせいで緊張した声が出ちゃった。

「おまえ、オレのとジュース、取り替えた・・・・・?」
「・・・・・・・・。」
「替えた、だろ・・・・・・」
「・・・・・・・う・・・・」

何で、バレたんだろ・・・・・・・・・・
どうせ隠しても無駄だと思ったんでおそるおそる、頷いたら阿部くんは頭を抱えてため息をついた。
そしてつぶやいた。

「おまえって時々、勘がいいよな・・・・・・・・・」
「・・・・???」
「オレ、さっきそんなに変だった・・・・・・?」
「・・・・割と・・・・・・・・」
「実は自分でも、我ながら顔に出てんなーとは思ったんだけど。」
「・・・・・・・・。」
「本当に、効く、んだ・・・・・・・・」
「????」

オレはさっぱりわからない。
とまどっていたら阿部くんはいきなりがばって感じで顔を上げるなり、オレの腕を掴んだ。
あっ と思ったときはもう口を塞がれていて。
しかも最初から激しく貪られた。
オレはもうワケがわからなくて、でも気持ち良くてすぐに何も考えられなくなって
阿部くんの腕にしがみつくしかできないでいたら。

ふっと口が離れて囁かれた。

「責任とれよ三橋」
「え?」

すでに今のキスでぼんやりとしていて、言葉の意味がすんなり頭に入ってこないでいたら
阿部くんが続けて言った。

「さっきのジュースさ」
「へ?」
「薬入ってたんだ。」
「・・・・クスリ・・・・・・・・?」 

なんの?

「いわゆる 『媚薬』 ってやつ」
「ビヤク?」  

ってなに?

「ヤらしい気分になる薬。」
え・・・・・・・・・・・
「おまえってさ。 あんまり性欲強くねぇだろ?」
「・・・・!!!」 
そ、そんなロコツな言い方・・・・・・・・

「だからオレ、たまにはおまえから求めてほしいなーなんて思って」
え、でもそんな薬、売ってるの・・・・・・・・?
「したらたまたま親戚の叔父さんが外国土産とかでくれたから」
ふぅん・・・・・・・・・・・
「まさか本当に効くなんて思わなかったけど」
「・・・・・・・・・・・」
「ちょっと試してみるくらいならいいかって」

ぼんやり聞いていたオレはそこで唐突に事の重大さを悟った。 
つまりその 「ヤらしい気分になる薬」 を、阿部くんが、呑んじゃった・・・・・・・・・
今日は阿部くんちはしばらく誰も帰ってこないし、元々泊まるつもりで来ているから、
それはいいんだけど。
阿部くんはいつもオレよりずーっと元気、なわけで。
それが今日はさらに倍加してると、そういうことに・・・・・・・・・・・
しかもオレがその責任を・・・・・・・・・

そこまで考えてオレは叫んだ。

「む、 無理・・・・!!」
「無理でも」

あ、阿部くん、目が据わってる・・・・・・・・・
無意識に引きかけたら、手をぐっと掴まれて無理矢理阿部くんの中心に持っていかれた。

「あ」

思わず声が漏れちゃったのはもう相当ヤバいってことがよくわかったからだ。
すごく、熱い。

「どうしてくれんだよこれ・・・・・・・・・・」

そ、そんなこと言われたって、  と慌てたけどもう遅かった。

「とりあえず、破裂しそうだから一回出す。」

とか田島くんみたいなことを言いながら、さっさと前を寛げて取り出してしまった。

うわぁ・・・・・・・・・・・・

オレは目を逸らした。 見慣れた阿部くんの、だけど。
本当にもうヤバそうだったから。 なのに。

「三橋、やってよ」
「・・・・え・・・・」
「手でいいからさ」
「・・・・・・う・・・・」

オレ、手でするのって下手・・・・・・・・・・・

「それとも、口でしてくれる?」
「えっ」

口でするのはもっと下手、 だけど阿部くんがそう言うなら。

「嘘。 いいよ。 手でして?」
「・・・・・・・・・。」
「すぐ出るからさ」

オレはおそるおそる、触った。  予想した以上に熱い。
瞬時にして自分の体も熱を帯びるのがわかった。 もう条件反射みたいに。
そーっと扱いたら阿部くんが目を閉じた。 
あぁ色っぽい顔・・・・・・・・・・

それに勇気が出て強めに扱いたら、

「う・・・・」 

声とともに本当に、簡単に達してしまった。  びっくりした。

「はー・・・・・」

ため息をついてから、阿部くんはバツの悪そうな顔をした。

「すげー早いな、オレ」
「でも、薬、のせいでしょ・・・・・」
「多分」

言ってるそばからまたみるみるお元気になってしまった。

「あーあ・・・・・・」

阿部くんは自分でも呆れたようなため息をまたついた。 オレは焦った。

「さて、んじゃ、三橋」
「・・・・は・・・・」
「責任とってな!」







○○○○○○○

阿部くんはいつもより性急にオレの中をほぐした。
でもオレのほうも簡単に準備OKになってしまったのは
阿部くんのに触っただけで、オレのほうもすっかりおかしな気分になっていたからだと思う。

けどその後阿部くんがオレの中で達って、抜く前にまたすぐに大きくなったのがわかった時、
オレは心底後悔した。
自分が呑んだほうが良かった。
どうなるのか少し怖いけど、それでも。
それでなくても阿部くんのがいつも元気なのに。
オレが普段どおりで阿部くんがこれじゃ、バランスが悪すぎる・・・・・・・・
阿部くんもそう思ってるんだろう、「ごめんな」 と力のない声で言って それから
一回抜いてくれた。 ホっとした。 そのままやられるかと思った。 でも。

「な、やっぱ口でしてくんない?」
「へ・・・・・」

阿部くんが本気でそう頼んでくるのは珍しい。
どちらかというと 「やる」 と言ってもやらせてくれないことのが多い。
だからあまり迷わずに、すぐに口に含んだ。 
実を言うとこれは別にイヤじゃない。 ヘタだから(多分)気が引けるだけで。
苦しいのは確かだけど。  それにその後サービスが過剰になるのも困るんだけど。
いっつもしてもらってるからたまにはオレだってしたい。 それにこれをすると。

「・・・・ん・・・・・・」

阿部くんの色っぽい声が聞けて嬉しい・・・・・・

「離して」

切羽詰った強い声で言われて慌てて離したら、あっというまに阿部くんはまた達した。
やっぱりいつもと違う。
でも放たれたそれがオレの顔にかかって。
阿部くんの慌てたような声が聞こえた。

「あ、わり・・・・・」

いいけど別に、とぼーっと思いながら顔を上げたら、阿部くんはなぜかぎょっとした顔になった。

「あーヤバい、それまずい」

言いながら慌しくティッシュを取って 「自分で拭け!」 と乱暴に渡された。 けど。

「・・・・遅かった・・・・・」

がくっとした声に見ると阿部くんはまた、臨戦態勢に、なってた・・・・・・・・・

「もっかい、いい・・・・?」

その声がいかにも情けなさそうで、オレは何だか可笑しくなってしまった。

「いいよ」  と言ったら抱き締められて、その後今度はさっきより丁寧な愛撫が始まった。

阿部くんに、されるの、好きだからいいよ・・・・・・・・

心の中だけでつぶやきながら、  でもオレ、体もつかな・・・・・・・・ と
ちょっと不安になった。








○○○○○○○

結局阿部くんはもう一回だけすると、 「もういい」 と言った。

「収まった・・・・・?」

聞くと困った顔をした。 まだダメ、みたいだった。

「でもこれ以上はおまえ、しんどいんだろ?」

オレが黙って困っていると、「トイレで出してくる」 とシャツだけ羽織ってさっさと行ってしまった。

ごめんね・・・・・・・・

オレは申し訳ない気分になったけど。
戻ってきた阿部くんが 「もう大丈夫みたい」 と言ったのでホっとした。

「阿部くん、ごめん、ね・・・・」
「なにが?」
「オレ、ジュース取り替えて・・・・」
「あぁ・・・・・いいよ。 元々はオレが悪いんだし」

阿部くんは少し笑った。

「おねだりしてくれる三橋ってのも見たかったけどな。」
「う・・・・・・・・・」

今、顔が赤くなってる気が、 する。

「つーかホントはさ」
「え?」
「いろいろ、ちょい不安だったから使ってみたくなったんだけど」
「・・・・・・・・・。」
「やっぱりこんなの使ってやってもな、  ・・・・・・・・・意味ねぇよな。」

そう言った阿部くんの笑顔が何だか寂しそうに見えた、 ので思わず言った。

「オ、オレ、阿部くんとするの、 好き、 だよ!!」
「・・・・・・・・・・・」
「は、恥ずかしくて、 あんまり   い、い、い、言えない、けど」
「三橋」
「す、すごく、好き、だよ!!」
「・・・・・・・・うん、 知ってるよ」
「阿部くん」
「知ってんのにオレ、バカだよな。」

阿部くんは今度こそ、心から嬉しそうに笑ってくれた。 

見惚れながら、        たまには自分から、誘ってみようかな、

・・・・・・・・・・・・こんな顔が見られるなら。

とオレは思ったんだ。
















                                                 バランスの問題 了

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