オマケ







その瞬間三橋は変な悲鳴を上げたし、滅多にない珍しいことにオレも驚いたけど。
その後何だか妙に感動してしまった。  何にかというと暗さにだ。 
そんなことに感動するのも変だけど、本当にしたんだから仕方ない。

暗い。 真っ暗だ。
しばらく経ってもあまり目が慣れない。
つまりそれだけ闇が濃い。

普通に電気を消したのとは違う暗さなのは何でだ、
と不思議に思ってから、すぐにわかった。
外の街灯とかも一切合財消えているからだ。 今この辺りの光源は月だけなんだ。 
その月だって、今日は出てるかわからない。 もしかしたら新月だったかもしれない。
普段いかに当たり前に文明の恩恵に浸っているかがよくわかる。

などと感心したり、理科の教科書を思い出したりのまともな思考は、
温かい体がおずおずと擦り寄ってきたことで途切れた。
こんなふうに自分から寄ってくるのは珍しい、とびっくりしてから、
怖いからだと思い当たったけど、理由はどうあれ無条件に嬉しい。
遠慮しいしいの体に手を回して、強引に隣に引き寄せた。
三橋も抵抗せずに大人しくくっついてきたのがまた嬉しい。
単に心細くなっただけだろうけど、頼られたようで悪くない。

「あのこれ、停電、だよね・・・・」
「みたいだな」
「・・・・・・すごい暗い、ね」
「うん」
「これじゃ資料、 読めないね・・・・・・・」

その言葉が別に誘い文句でも何でもないのはわかってる。 よーくわかってる。
けどちゃっかりと拡大解釈させてもらったのは、その時点で早くも少しヤバかったからだ。
そもそも暗闇で恋人にくっ付かれて、変な気分にならないほうがおかしい!

「あ、阿部くん」
「なに」
「・・・・・・どこ、触って」
「ここ」
「じゃなく て あの」

服にもぐりこませた手で滑らかな感触を堪能する。 
触れているだけで心地いい。
そして心地いいだけではもちろん、済まない。
自慢じゃないけど、ソッコーだ。 だって若いんだもん。

「あ、 や」
「ヤじゃねーだろ?」
「あ、ん でも」
「いーじゃん」
「で、でも 今日は 帰らない と」
「わかってっけど、まだ時間あるし」
「あっ・・・・・・・・ でも資料、は」
「どうせ読めねーじゃん」
「そ、そうだけど、 あっ」

口ではなんだかんだ言ったって三橋だって同じなくせに、と
手っ取り早く強引に確認すると案の定だった。 素直に嬉しい。
でも三橋の本体が素直に応じてくれるかは甚だ疑問なので
とっとと観念させる目的で、分かりきっていることを告げてやる。

「・・・・・・・おまえだって、もうこんなんなってる」
「んっ だってそれは、・・・・・・阿部くん が」

そのとおり、なんて言わずにベルトを外しても抵抗はない。
中に忍ばせてせっせと手を動かすと三橋の息が荒くなった。
見えないせいか、音がいつもより際立つ気がする。
濃厚な闇も手伝って、部屋はたちまちアヤしい空気に満ち満ちた。

「ん、 そ、そこ ダメ・・・・・・」
「・・・・・・・なあ、しよ?」
「え・・・・・・・」
「もう収まんねーだろ?」
「うう・・・・・・・」
「長くしねーからさ」
「・・・・・・・うん・・・・・・」

あっさりと承諾が得られてさらに嬉しくなってから ふと、思いついた。
せっかくこれだけ暗いんだから。
これまでやりたくて、でもやらせてもらえなかった体位とかでも今なら平気かもしんない。
見えないのは残念だけど、前から一度試してみたかったやつがある。
このチャンスを逃す手はない。
でもお伺いを立てたらおそらくダメだろうというのは
経験上予測がついたので、黙って実践に移すことにする。
 
まずはベッドに移動して、それから全部脱がせた。
そのほうがまだ見えると思ったからだ。 
手探りだけど、それはそれでいつもと違って興奮する。
予想は当たって、白い体が闇の中で浮き上がったことにも興奮が増した。
オレのほうは最低限しか脱がずにさくさくとコトを進めたら、
途中でやっぱり焦った声が上がった。

「え、ちょっ」
「・・・・・・・・・。」
「ちょっ 待っ・・・・・阿部くん!」
「なに?」
「・・・・・なにして」
「だからすんの」
「こ、こんなかっこで・・・・・?」
「うん、ダメ?」
「やだ・・・・・・・」
「何で?」
「・・・・・・・は、はずかし・・・・・・・」
「見えねーよ」
「でも」
「すげーいいかもよ?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「ほとんど見えねーからいいじゃん」
「う・・・・・・」
「試してみようぜ? ダメか?」
「・・・・・・・い、いいよ・・・・・」

上手くいった。 
実際おぼろにしか見えないから視覚のほうは想像で補いながら
わくわくと期待が高まった。 聴覚のほうは堪能したいから頑張ろう、と燃えつつも
手とかナニのほうはそれでも焦らず慎重に。

「苦しかったら言えよ?」
「うん・・・・・・」
「じゃあ力、抜いて・・・・・・」
「あ、・・・・・・」

順調にコトに及んだまさにその瞬間だった。
微かなぷつっという音がしたかと思うと。

部屋に光が溢れた。
目が痛くて反射的に瞑った。 同時に三橋の悲鳴が聞こえた。

「ひああ」
「うあ、眩し・・・・・・」

瞑ってても眩しくて、思わず片手で目を覆った。
もう片方は三橋の腰を掴んだままにしていたのは不安定な体勢だったからだ。
三橋も声を上げたきりじっとしているし
オレも驚いたせいで数秒固まっていた。 そこで突然気付いた。 
多少無理をしてでも目を開けたい。 ここで見ないでどうする!

そっと手を外して薄目を開けると、三橋も同じように目をぎゅっと瞑っているのが
まず見えて、次に体のほうに視線を移して。

眩しいのもなんのその。

という勢いで凝視してしまった。
だもんで三橋が目を半分開けたのに気付かなかった。

「あ、おい、逃げんなよ!」

半怒鳴りになったのは見惚れていた体が体勢を変えようとしたからだ。
顔を見るとめちゃくちゃ焦っていた。 しかも涙目だった。 
始末の悪いことに余計に煽られて、逃がすまいと腰を掴んでいた手に力を込めた。

「は、離して」
「なんで!」
「や、いやだ、 こんな」

うんそうだろうな。 わかる。 三橋ならイヤだろうな。
こんなかっこさせたことないもんな。
というか、いっつも断固やらせてくんないもんな。
暗いからって理由で特別だったのはわかってる。
けど、やめたくない。 もったいない。 だってすげー

「エロい・・・・・・」

無意識につぶやいてしまった。 かあああっと三橋が赤くなった。 
顔だけでなく、心なしか体まで染まったようでもっと見惚れた。

「やだ、 阿部くん!!」
「・・・・・・きれーな色・・・・・・」
「やだやだ、 み、見ないで」

声が必死なうえに半泣きだ、とは見惚れながらもわかった。
よほどイヤなんだな。 三橋だもんな。
でも今日は無理強いしたわけじゃなくて、成り行きってやつで、
もう半分入れちゃったし、今から体勢を変えるのは手間だし、

というのはもちろん口実で、やめるなんて到底無理だ。
三橋が自分で事態をどんどん悪くしている。
恥ずかしがって身を捩っている姿にぞくぞくするほどそそられることだって、
いい加減わかっているだろうに。
強引に続けちゃえばどうせ流されてくれるに決まってる。
どこかでそう高をくくったオレは続きを再開した。

「あ、 ダメ、 いやだ!!」
「わり、止まんねえ・・・・」
「え、そんな、 あ」

予想が若干外れて抵抗が大きくなった。 夢中で掴んでいる手の力を増して、
もう一方の手で暴れる左手をがっちりと拘束した。
このチャンスを逃したらもうないかもしれないから、オレだって必死だ。
押さえつけても上手くできないのは、抵抗がやまず、体が逃げていこうともがくからだ。
続けるどころか逃がさないようにするだけで精一杯だ。
あんまりしつこく嫌がってるもんだから、一瞬理不尽な苛立ちが湧いてしまって。

「おい、そんなに暴れると抜け」

るじゃねーかよ、 という文句を最後まで言うことはできなかった。
真っ赤な顔とぎゅっと瞑られた目が見えた、直後に顔に衝撃を感じて


暗転した。









○○○○○○○

目を開けたら三橋の不安そうな顔があった。
ちゃんと服を着ているなあとぼんやり思ってから、顔が痛い、と気付いて
事の次第を認識するや、頭を抱えたくなった。

「阿部く・・・・・・・ごめんなさい」
「・・・・・・・いーよ」

ぶっきらぼうな口調になったのは悪かったけど、大目に見てほしい。
嫌がってるのを無理矢理ヤろうとしたうえ
コトの真っ最中に殴られて気絶したなんてかっこわるいを通り越して。

「情けなさ過ぎ・・・・・・・」
「あの ごめ・・・・・・・」
「・・・・・・謝んなくていいから」
「オ、オレ そんなつもり なくて」
「わかってるよ」
「は、は、恥ずかしくて 頭真っ白、で」
「だからわかってるって!!」

びくっと三橋が怯えて、自己嫌悪が増した。
三橋はただ手を振り回しただけで、狙ったわけじゃないってくらいわかる。
とにかく起き上がってみたら、いつのまにかオレのほうの服もちゃんとなってた。
三橋が直してくれたんだろう。
想像したら、うっかりため息が漏れた。 
笑っていいのか泣いていいのかわからん。
でも三橋のおどおどが2割増しになったのがわかったので。

「オレも悪かったし」
「・・・・・・・でも」
「ごめんな」

これは本心だ。 あやうくゴーカンするところだった。
でもなあ、 と少し悲しくもなる。
明るくなっただけであんなに嫌がらなくたっていいじゃんかよ。
どうせもう見てないトコなんて 全 然 ねーんだから。

そう抗議する気力もないのは凹んでいるからだ。
加えて自己嫌悪だわ情けないわで、仕切り直す気ももちろん起きない。
当初の予定だった資料検討でも、と気を取り直してから時計を見て、
それももうできないことがわかった。

「こんな時間なのか・・・・・」
「う、うん」
「おまえ、今日はもう帰ったほうがいいな」
「う・・・・・・・・」

また涙目になった。 オレが怒ってると思ってんだろう。
オレが気絶している間帰らずにいてくれた三橋の心境を想像して、
何か上手いフォローをと探してはみたものの、結局最低限の言葉しか浮かばなかった。

「もう気にすんなよ」
「・・・・・・・・。」
「怒ってねーから」
「・・・・・・・・。」
「ほんとだって。 信じろよ」
「・・・・・・うん」

まだ不安そうな三橋にキスを1つ、する。 せめてうんと優しく。
それでやっと安心したようなほんのりした笑みが零れてオレもホッとした。 けど。

その後無事に三橋を見送ってから玄関にへたり込んでしまったのは仕方ないと思う。
考えるとどんどん落ち込んでいくからもう考えない。 忘れたい。 

そのためには、とオレは願った。
オレのためだけでなく、三橋のためにも。
今のところ痣はできてないようだけど、強すぎる衝撃の場合は
むしろ遅れて出てくるものだから。


明日の朝、どうかアザになってませんように、 と。












                                             オマケ 了

                                           SS-B面TOPへ





                                                     残念でした。