こちらの話は
未満の2人でどのシリーズでもありません。
三橋誕生日、にかこつけてますが 大変わかりやすくH21アフタ6月号の阿部のせいで出てきた話です。
願望の未来図ってやつです。
ネタばれというほどのネタばれはないけど、念のために注意書きでした。
問題ない方はスクロールしてくださいませ。
今後のアフタの展開によっては消す可能性があります(^^;)
この想いをいつの日か
今日は練習がない。 日曜日だから、ではなく試験勉強期間だからであり、 つまりは勉学に勤しまなければならない日だ。 なのに阿部は勉強そっちのけで先刻から悶々と考えていた。 「おめでとう」 というのが普通で妥当だ、とは思う。 思ったそばから 「でもな」 と漠然とした不満も感じる。 妥当な一言は至ってシンプル過ぎて自分の心境にはそぐわない。 (もっと何か・・・・・・・) 言いたいのだ。 でも何を? と自問自答しても湧き上がるのは 曖昧な感情ばかりで具体性がなく、必然的に阿部は突っ込んで考える羽目になった。 己を顧みることをあまりしない阿部であるが、 その時は柄にもなく神妙な心持ちになっていたからか。 なんとなれば、朝一番でやらかした失敗のせいだ。 部の用事で電話して、些細なことでカっとなって怒鳴って 「あーまたやった」 と内心で舌打ちしたのはよくあることだったけど、 切ってからハタと思い出した。 今日が何の日かを。 「・・・・・・くそっ!!」 呆然としてから悪態をついた。 今日が三橋の誕生日だと、知っていたのに。 金曜日に数人から 「おめでとう」 と早めのお祝いを言われていたのを見ていた、 からじゃなくて元からしっかりと覚えていた。 そして自分は当日に言ってやろうと決めていたのだ。 それなのに肝心な時にすっかり忘れていたマヌケっぷりに猛烈に腹が立って、 次に凹んだ。 いわゆる自己嫌悪ってやつだ。 お祝いを言うどころか怒鳴った とは流石にどうかと思う。 「おめでとう」 の一言だけじゃ足りない。 (怒鳴っちまった埋め合わせに・・・・・・) 思ってから違うなと気付いた。 埋め合わせのためじゃなく、伝えたいことがある。 曖昧な何かは少し深く考えれば、すぐにわかった。 阿部にとって三橋の存在は大きい。 投手だから、と言えばそれまでだがそれだけじゃない。 もし三橋がいなかったら、と想像するとぞっとする。 それくらいのものを三橋は阿部にくれたのだ。 おそらく本人は無自覚に。 三橋は阿部の深い部分に刻まれた傷を癒してくれた。 キョドりながら、そのくせまっすぐで誠実な姿勢で少しずつ消してくれた。 どれだけ血を流していたか、自分ですら気付いていなかったそれを 最初に見抜いたのも、今思えば三橋だった。 頑なに目を逸らしていたのは、それだけ認めたくなかったからだ。 逃げたままでいるほうが楽だった。 そのせいで、いつまでも生々しかったその傷口が、 かさかさに乾いて縮んでついにはほとんど痛まなくなったのは、三橋によるところが大きい。 大きいどころか、三橋が絶対に必要だった。 それをはっきりと意識した日のことを、阿部は今でも覚えている。 忘れるわけがない。 あれからそれなりの月日が経つ間にも、折々に痛感した。 傷が乾くまで常に傍らにいて、真摯に向き合ってくれた三橋に どれだけ救われたかわからない。 ごく控えめに言っても、阿部は三橋の存在そのものに感謝していた。 自覚するまで時間がかかったけど、わかってしまえばその思いは心の奥底にいつもあった。 こいつがいてくれて良かったと。 友人以上の気持ちまで派生したのは予定外だったけど この先報われなくても、それだけは変わらない。 そこまで考えて、改めて自己嫌悪に陥りかけた。 その感謝を伝えてやるどころか、である。 (進歩ねーなオレ・・・・・) 「・・・・・じゃなくて!」 マイナスの思考を声に出して振り払ってから切り換えた。 まだ遅くない。 しかし掘り起こした正直な本音を具体的な言葉にすると どれも大仰だわ照れ臭いわで、考えるだけで頭を抱えたくなった。 無理、 と出した結論にまたぐったりしたのは自分の不甲斐なさに対してだったが、 どう吟味しても結論は変わらなさそうだった。 (とにかく、もう一度電話して・・・・) 再度携帯を開いてから、思い直してまた閉めた。 上手い言葉を言えないなら、せめて行動で示そうと腰を上げる。 電話だと表情がわからないのも物足りない。 玄関先で会ってすぐに帰ることになるだろうけど、直接言いたかった。 三橋の様子を想像しながらのその後の行動は早かった。 きっと喜んでくれる、と半ば確信していることに気付けば 自転車のペダルはいっそう軽くなった。 「三橋、誕生日おめでとう」 そんなわけで、直接家まで赴いて何事かととまどっているふうの三橋に 精一杯の心を込めて告げた言葉は結局シンプルになったけれど、 三橋は目を大きく見開いた後、思ったとおりの反応を返してくれた。 「あ、りがとう! 阿部くん!」 曇りのない、輝くような笑顔に見惚れる。 来た甲斐は充分にあった。 一昨日の時点で誰彼に言われた時に見せた笑顔よりも 自分へのそれが一番きらきらして見えるのは願望の成せる技だろうが。 それでもいつか、 と阿部は思う。 「じゃな」 「えっ 帰るの、か?」 「おお、邪魔したな」 「え、でもあの せっかく」 「一言言いたかっただけだから」 「よ、良かったら、 上がって・・・・」 「いーよ、勉強あんだろ?」 「へ」 「赤点取んなよ」 「・・・・あのオレ、数学で わかんないとこが」 「はあ? どこ」 「え、だから ・・・・いっこじゃなくて いっぱい・・・・」 阿部は笑った。 半分は口実だとわかったからだ。 いっしょにいたいという気持ちは一方通行じゃないことが素直に嬉しい。 理由は違ってても別に構わないのだ。 最初の頃のぎくしゃくを思えば感慨深い変化はお互い様で、 この先だって変わっていくんだろう。 「しょーがねーな、 じゃあ教えてやるよ」 「うん!」 ぱっと明るくなる顔を目を細めて眺めながら、幸福な気分になった。 三橋の誕生日なのにオレが幸せになってどーする と密かに突っ込んでも 緩んだ顔は戻りそうにない。 生まれてくれて、オレと出会ってくれて ありがとう 言えなかった言葉を、今日ばかりはしみじみと噛み締めた。 それから 「いつか」 照れずに伝えられる頃には、自分の感謝など 三橋は当たり前のように知っているかもしれないなと、ふと思った。 この想いをいつの日か 了 SSTOPへ |
いつかツーカーになる日が来ると信じて。