やってられません。





その時オレが傍にいたのはたまたまだった。

自分の道具を手入れしていると、マネジが連絡事項を伝えに来てくれて
そこにこれまたたまたま三橋が来てついでにマネジから連絡を言われ、
そのまま何となく三橋とマネジが話しているのを
手入れを続けながら聞くともなしに聞いていた。

話といってもお天気レベルのたわいない世間話程度のものだったけど。
元々三橋はよくしゃべるほうでもないので
珍しいといえば珍しい光景ではあったかもしれない。

聞きながら背中のあたりがほんの少しちくちくするような感じがした。

(・・・・この感覚はもうお馴染みっつーか・・・・・・)

ちらりと振り向いたら案の定阿部が少し離れたところからこっちを見ている。
一見普通に見ているだけなんだけど。
妙に視線が強い。
視線の先は、オレのすぐ近くにいる2人だ。
オレは言わばとばっちり。

(・・・・マネジにまで嫉妬すんなよな・・・・・・・。)

オレはやれやれとため息をついた。


阿部は結構やきもち焼きだ。
自覚しているのか無意識か知らないけど
三橋が他のヤツと仲良くしていると、そこはかとなく不機嫌になるのがオレにはわかる。
(なぜか田島にだけは反応しない。
田島のことは阿部も三橋の良き友人として認めているらしい。)
もっとも自分はその辺のことに人より敏感らしいので
普通の人間には感じられないレベルのものなのかもしれないけど。

オレは手入れを終えて立ち上がった。

阿部の側を通り過ぎざまに
「おまえな。 顔が怖いぞ。」 と囁いてやる。

じろりと睨まれた。
だからこえーんだって。

そのまま通り過ぎようとしたら
「別に疑っているわけじゃねーよ」 と言いやがった。

わかってんじゃん。
けど気になるわけね。 あーあ。
恋する男は大変だねえ。

とは内心でつぶやくだけに留めて阿部の肩をぽんと叩いてやった。







○○○○○○○

そんなことをぼんやり思い出しながら

「阿部もしょーがねえなぁ・・・・・・・」  とつぶやいたら
「何が?」  と栄口に問われて我に返った。

(おっといけね。)

田島と栄口とともに練習帰りにマックに寄って、2人が漫画かなんかの話で盛り上がっているんで
いつのまにかぼーっと物思いにふけっていた。

「あー、何でもねぇ・・・・・・・。」

三橋と阿部のことはオレしか知らない。 はず。
誰かに愚痴を言いたくても我慢して胸にしまっておかないと。

そう思いながら適当にごまかした途端に、いきなり田島がずばっと言い切った。

「そういやさ、阿部と三橋って付き合っているよな!」
「げほげほげほ!!!!!」
「大丈夫かよ花井・・・・・・・」
「た・・・田島・・・・・・・」
「なに」

何でそれを と言いかけて はっとして栄口を盗み見る。
うかつなことは言えない・・・・・・と思ったそばから栄口までが。

「あーそうだよね、うん。」

これまたきっぱりと。
オレはいささか驚いて2人を交互に見やった。

「・・・・・・知ってたんだ。」
「「うん。」」

同時に頷く2人。

まぁそりゃわかりやすいっちゃーわかりやすいからなぁと
思いつつも一応聞いてみた。

「何でわかった?」
「オレさ、一回部室に忘れ物しちゃってさ、暗くなってから取りに戻ったことあんだよね。」 
と田島。

「んで?」
「誰もいないだろうと思って部室のドア開けたら阿部と三橋がキスしてた。」
「げほげほげほげほ!!!」
「きったねーな花井」

(あ、あ、あいつら・・・・・・・)

「へぇえ見ちゃったんだ。」

栄口は言いながらちょっと目が輝いてる。  輝くなよ。

「や、急いで離れてたけど一瞬な。 三橋顔真っ赤だったしさ、わかるよ。」
「・・・・・・・・。」
「で、その時どしたの。 気まずかったんじゃない?」
「うーん、三橋はおろおろしてたなー。
阿部は別にぃ。邪魔されてちょっとムッとしてたんじゃねぇ?」
「へえ〜。 何かわかる気がするな。」

頭が痛くなってきた。

「栄口は何で知ってんのさ。」  と田島が今度は栄口に話を振った。

「あー・・・オレはさ、大分前から実はそうじゃないかなって思ってて」

やっぱり自分以外に気が付いてたヤツもいるんだなと  内心納得する、が。

「確信したのはアレだな。 三橋が着替えていたときさ、」

またイヤな予感が。

「肩甲骨?のあたりが赤くなってたんだよね。」

頭痛が少しひどくなったような。

「それで『三橋そこどうしたの』って何気なく聞いたらいきなり真っ赤になっちゃって。」
「ははは。」
「・・・・・・・・・。」
「必死で隠そうとしてるんで却ってよく見ちゃって。」
「うんうん。」
「・・・・・・・・・・・。」
「あ、これキスマークだってわかったんだ。
オレキスマークって見たことなかったからすぐにはわかんなくてさ。」
「ふんふん。」
「・・・・・・・・・・・。」
「そんでその時阿部がじっとこっちを見ててその顔見て、あー阿部が付けたのかって。」
「なるほどね〜」
「・・・・・・・・・・。」

(阿部のやつ・・・・・・・)

オレはずきずきするこめかみを押さえながら
「それ誰にも言ってないだろうな」   と2人に確認した。

「言ってねぇけど・・・・・」
「結構知ってるヤツ多いんじゃない?」
「いやわかんないぜ。 知らないヤツのが多いんじゃねぇ?」
「そうかな?」
「一応隠しているつもり、みてぇだし。」
「まぁ、一応ね。」
「でも一回あれ?て思ってちょっと観察するともうな。」
「そうそう、わかるよね。」
「阿部が三橋を見る目とかがさ。」
「そう!! ちょっとこっちが照れちゃうってか。」
「何気なくよく触ってるしな!」
「また三橋が嬉しそうなんだよね。」
「そうなんだよな〜」


(・・・・・・・・・・・・・・・。)

2人をネタに大いに盛り上がる田島と栄口を見ながら

オレの今までの気遣いは一体何だったんだろう・・・・・・・・・
と苦々しく考えた。

それから心の中できっぱりと宣言してやった。


もうオレは知らねぇからな阿部!!!












                                               やってられません。 了

                                                SSTOPへ









                                            とか言いながらきっと花井は気遣ってやると思う。