オマケ2 (1ヶ月後)





しまった、と思った時は遅かった。
オレは呆然としながら目の前の光景を見ていた。

皆が次々と三橋に「お返し」なるものを渡しているのは、今日がホワイトデーだからだ。
それくらいオレだってわかる。
友チョコは知らなかったけど、バレンタインのお返しはホワイトデーってくらいは
いくらなんでも知っている。

ただ忘れていただけで。

三橋がわたわたと慌てながら、でも嬉しそうに受け取っていくのを
オレは見てるしかできない。 輪の中にオレだけが入れない。
オレだって三橋に何かやって、笑ってほしかったのに。
いや自分が悪いんだけど! 
だって忘れてたんだから仕方ねーだろ?!

疎外感を感じながらこっそりと見回して、泉も何も渡していないことに気が付いた。
だもんで少しだけ救われたような気分になって、ひそひそと話しかける。

「おまえも忘れたくち?」
「え?」

泉はオレを見てからにやりと笑った。

「オレは昼にパン奢ったから」

う、 と詰まった。 ご同類じゃなかった。
でも閃いたこともあった。 そういうテがあったか!!
相棒のオレが何もしないなんて三橋に悪いし、オレだって気分悪い。
そりゃ本命じゃなくて友チョコだったってのはがっかり・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
じゃないがっかりじゃなくてアレだ、拍子抜けってやつだ、
ちっと拍子抜けはしたけど嬉しかったし、うん。

ごちゃごちゃと考えているうちに、全員が渡し終えたようなんで
そろりと三橋に近づいた。

「三橋」
「あ、阿部くん」

きらきらした目に後ろめたさが増す。 きっと期待してるんだ。
実は忘れてましたなんてバカ正直に言うことはない、よな。

「あのさ、オレは今日の帰りになんか奢」

まで言ったところで思い出したことがあって、口が固まった。
じわりと汗が滲む。
オレ今日、財布忘れたんだった。
ああああちくしょう何だってよりによって今日なんだオレのバカ!!

「阿部くん・・・・・?」

三橋が続きを待っている。
早くなんか言ってやんねーと、と焦るばかりでいい案が浮かばない。
どうすりゃいいんだ。 
何も用意してねーし金もねーし三橋はきっと期待してるし、なんて言えば。

オレは観念した。 ここはもう正直に言って潔く謝ろう。

「三橋、実はさ・・・・・・・・」
「うん」
「わりい!!」
「へ??」
「オレうっかり忘れててさ、今日はなんもやれねーんだ」

だから明日、と続けるつもりだったけど
その前に三橋はソッコーで顔と、それから手までぶんぶんと横に振った。
恐れたような落胆はカケラも見当たらなかった。

「い、いいよ、 気にしないで」
「でも」
「ほんとに、いいんだ、 みんながくれた のだってオレ、びっくりして」
「でも」
「オレ、か、感謝を 伝えたかっただけ だから お返し、わるい・・・・・」
「・・・・・・・でもオレは」
「いいんだほんと! 気持ちだけで、じゅうぶん」

でも、とまたしつこく浮かんだけど言えなかった。
だって多分全部三橋の本心だ。 そういう奴だもん。

そう思ったらますます自己嫌悪がひどくなった。
オレだって感謝してるのに。 貰うばっかなのってどうなんだ。
何かしてやりたい。 そんでオレにも笑ってほしい。
今さら遅いけど時間を戻したい。 それもできれば1ヶ月前に。

と思ったところでまた閃いた。

「そうだ、ならこうしよう!!」
「ほえ?」
「来年のバレンタインにはオレがやっから!!」
「へ」

そうだいい考えだ。 1年後になるけどこれはいい。
ついでにもう1つ、大事なことも付け加える。
これは非常に重要なのでぜひとも守ってもらいたい!

「オレはおまえにしかやんねーからさ」
「お、おお」
「だからこれからはおまえもオレ以外の誰にもやんな!!」

その瞬間部室の空気が微妙に変わった、ような気がした。
なんだ? と思って見回したら全員がオレを見ていて、みんな顔が赤かった。
なんでだろう。
オレなんか変なこと言ったかな。 言ってねーよな。
その証拠に三橋はほかりと嬉しそうに笑ってくれた。
なのでオレも嬉しくなる。 

「わ かった! 来年からは、そうする」
「おー、約束な」
「うひっ」

よし! と大満足した時ごほん、と咳払いが聞こえた。
見たら花井だった。 その隣の水谷の顔も変だった。 何故だ。

「・・・・・・・ここが部室で良かった」

ぼそりと、今度は反対側から栄口の声が聞こえた。
うんうん、と頷いているのは巣山だ。
なんで部室だといいんだろう。
首を捻っていると、泉がオレに向かって言った。

「阿部、そういうの教室とか廊下で言うなよ?」
「は?なんで?」

途端に皆が一斉にあれこれ言ったもんだから
誰が何を言っているのかよくわからないうえ聞こえた内容も理解不能だし、
おまけに後半はオレそっちのけになった。

「なんでもだよ」
「誤解されるから」
「てか誤解じゃないんじゃ」
「それは考えちゃダメだ!」
「噂されんのヤだろ?」
「おまえらだけならまだしも、野球部全員そうと思われるのは困る」
「根も葉もなかったらすぐ消えるだろうけどな・・・・・」
「阿部の場合根くらいは」
「だから黙れってば!」
「いやでも阿部だけでも充分困るし」
「つかオレ恥ずかしいんだけど」
「言うな」
「オレは慣れたよ」
「オレは慣れたくない」
「諦めるしかねーだろ」

「とにかく!!」

最後に大声で皆を制した花井がオレのほうに向き直った。

「そういうわけだからよろしく!」

何がそういうわけなんだか、オレにはさっぱりわからなかった。









                                         オマケ2 了

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                                                  自覚してないほうがやっかい。